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【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
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02   邂逅のプレルーディオ - 01

その日のレイエンフィリアは中々に高揚していた。


転生して間も無く1週間。

だというのに、今だにこの世界を自分の目で見られていないのだ。


それもそのはず。


転生した時、この体の本当の主である『レイエンフィリア・グレイ ・レイヴヴィヴァーニア』は、事故に遭った直後だったからだ。


身体に大きな手術痕などは無いものの、身体中に骨折があり、右目は潰れてしまっていたのである。


左手を握った父と名乗る人から、


『皇女が隻眼なのは格好がつかない。体裁目的なのは申し訳ないが、義眼を入れてくれ』


と言われ、よく分からないが頷いた結果である。


骨折も、義眼による本来あるべき痛みも、王城にいる宮廷魔術師によって調整されているらしい。


身体が本調子に戻ってから、完全治癒の魔術をかける、とも言われている。その前に、目がきちんと見えているか確かめるため、包帯を外すのだそうだ。




九龍院 玲華は、日本で暮らす“割と”一般人だった。家が普通では無いのだが、それが嫌で家を飛び出し、料理なら習って損はないと思って調理師専門学校に入った。


悪い意味で彼女は舌が肥えていたため、味付けに関しては中々の成績だった。技術も並程度にはあったし、友人関係も悪くなく、充実して生活していると思っていた矢先。


不運なことに、事件に巻き込まれてしまったのである。

今は、連続殺人の被害者の一人だった、とだけ言っておこう。死後、思い出したくない嫌なことが立て続けに起こり、流れでこの身体に宿ることになったのである。


丁度、玲華のいた世界で玲華が死んだ時、こちらの世界ではレイエンフィリアが瀕死の状態に陥っていた。まだ彼女の肉体は死んでいないから、彼女に転生し、レイエンフィリアとして生きていく運びとなったのである。


その時に見たレイエンフィリアの姿は、同性である玲華も一瞬目を奪われてしまうほど美しかった。


大怪我をしているが、美しい銀糸の髪に透き通るような白い肌。華奢ではあるが魅力的な体を包む美しいドレスに、全く着られていないその優美さと清廉さ。今から自分が彼女になるのかと、躊躇ってしまうほど美しかった。




「やぁ、リンペラトリーチェ。ご機嫌は、いかがかな?」




陽気な声が耳を掠め、玲華もとい、レイエンフィリアは僅かに首を動かした。


彼の呼んだ『リンペラトリーチェ』が、自分のことを指しているのはわかっている。転生する時、レイエンフィリア本人の記憶をそのまま貰ったからだ。


『リンペラトリーチェ』とは、レイエンフィリアが皇帝から賜った別名だ。レイエンフィリアは普段、本当の名前であるはずの『レイエンフィリア』とは呼ばれず、『リンペラトリーチェ』と呼ばれる。




「悪くは無いわ」


「そうか、それは良かった。痛みも無いんだね?実は、この前掛けた術が昨夜で解けてしまっているんだが」


「ふふっ、冗談でしょう?貴方の術はそう簡単には解けないわ。そうでしょう?イル・バガット」




彼は『イル・バガット』を賜った魔術師だ。姿はレイエンフィリアの記憶にあるものしかわからないので、少しぼんやりとしていて、おぼつかない。




「はっはっは、それはそうだ!なんてったって私は、この城に仕える魔術師の中で一番優れた魔術師だからね!」


「包帯を外してくださる?早く外の景色が見たいわ」


「僕の言葉が届かないのかい……?」


「知っている人の自己紹介なんて、聞いてどうするの」




────正直知らない人なんですけどね。




レイエンフィリアとしては早く転生先の世界が見たかった。


使用人たちは目が覚めた自分に向かって『殿下』とか『皇女』とか言ってくるし、本物のレイエンフィリアを見た時に少し見えた世界は中世のヨーロッパのような印象を抱いたからである。


女の子なら大半が夢見る中世ヨーロッパのお姫様。それに今、自分がなっているのである。




────色々ありすぎたけど、心が躍らないはずないわよね!




(おそらく)メイドが包帯をゆっくりと外していくのを、レイエンフィリアはまだかまだかと待っていた。


目蓋を閉じていても外界の光を感じられるようになり、目元に感じていた包帯の気配が完全になくなったと同時に、レイエンフィリアは目を開いた。


焦る気持ちとは裏腹に、自分で自分を焦らすように、ゆっくりと。


まだぼんやりとしていたが、それでも、わかる。




「すごい……」




思わず、小さく呟いてしまい、慌てて口元を右手で覆う。


レイエンフィリアはこの景色を見慣れているのだから、感想なんて言ってはならない。




「どうだい?リンペラトリーチェ」


「ええ、きちんと見えているわ。慣れていないからか、少しぼんやりとしているけれど」


「今日一日は安静にして様子を見よう。痛むようなら呼んでおくれよ」


「わかったわ」




満足そうににっこりと笑ってから、イル・バガットはベッドサイドから歩き出す。


ああそうだ。と一言おいてから、彼はドアの目の前で振り返った。




「君の右の眼には、四年前に採れたブルーダイヤモンドを使ったよ」


「……宝石を?」


「お父上からのご要望でね。私の魔術を込めた特上の宝石だ。君本来の瞳と同じ色だよ」


「……ど、んな……魔術が、かかっているんです?」




自分の声が震えていると、わかっていてもレイエンフィリアは聞かずにいられなかった。


父と名乗る男の言葉に、何も分からぬまま適当に頷いた。

そうしたら、なんだ?

右目に宝石が埋め込まれている、と?




「これも、お父上のご要望だ。その目には『略奪』の魔術がかけてある。形のあるものではなく、意識や思考のような、実体のないものを奪う能力が、その石には付与されているよ」


「『略奪』……?なんでそんな能力を……」


「なんで?それは君が一番わかっているだろう?」




ニヤリ、と。

嘲笑うように彼の口が歪む。




「君が『皇国の操り人形』だからじゃないか」

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