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【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
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14   自責と宣告のフーガ - 03

「どうして……」




絞り出した声は思った以上に震えていた。が、レイエンフィリアが驚いたのはそのあとだった。アラドがキッと、鋭い視線でレイエンフィリアを睨んだからだ。




「責任の一端は貴女にあるでしょう」




責めるような声だった。




「アラド!」


「わた、……しに?」




レイエンフィリアは愕然とした。

彼の言う『貴女』が、“今の”レイエンフィリアではなく“前の”レイエンフィリアを指している。そのことはわかっている。


しかし──


“前の”レイエンフィリアの記憶も持っている“今の”レイエンフィリアにも、思い当たる節がないのだ。


本物のレイエンフィリアにも、玲華が転生したレイエンフィリアにも、『責任の一端がある』と言う自覚がないのである。


『気付いていない』というのは、わかっていないということよりももっとタチが悪い。


そのことがわかっているからこそ、レイエンフィリアは愕然とした。




「……お座りなさい、2人とも。そして説明して。今の私はあまりに無知だわ。全てを教えなさい」


「……承知いたしました」




苦虫を噛み潰したような顔で、2人は頭を下げた。そして、感情のない顔で椅子に腰掛ける。




「人払いを」




アラドの是非を言わせぬ強い言い方に、レイエンフィリアもまた、感情を消して従った。


この場において──現状において、彼の言葉に従うことに、何の抵抗感も抱かない。本来なら抱くべきなのであろうが、レイエンフィリアもとい玲華は、地位や名誉に動かされない人間だった。




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔




レイエンフィリアという人間は、常に民を、騎士を、貴族や大臣たちを──人という概念全てを無条件に愛していた。


何故と問われても、ただ、そうであったからとしか答えられない。


生まれ持った秀麗な容姿も才能も、後から手にした真実を見極める目も実力も。


そうあれと望まれたからではなく、レイエンフィリア自身が、『こうであればいいな』と思ったからしていたことだった。


そして同じように、自分の部隊の者たちにも「力量差はあろうとも、誰もが仲良くなればいい」という思いがあった。どこかの部隊を贔屓にすることなく、平等に、順繰りに。


先日は第一班と仕事をしたから今度は第二班と。その次は第三班と。その次は──




「いつだって平等に、という貴女の考えは間違っていない。他でもない、王族である貴女がそうするならば、誰だって喝采と共に称賛を送るでしょう」




単純に受け取るならば、褒められている。紅茶を口に含むアラドの表情さえ見なければ。




「ですが、そんな子供騙しな平等なんて、出世欲の高い者からしたら面倒この上無いんです。貴女の思い描く平等の法則性なんて、数回繰り返せば見えてくる」




──つまり、利用された、と。彼は言いたいわけで。レイエンフィリアは表情を曇らせる。




「きっかけは些細なことです。些細でも、きっかけは存在した。出世欲の高い頭がよく回る連中には、その事実だけで十分なんですよ」


「例えば──戦線に立つべき隊員が怪我をした、とか」




嗚呼、と、レイエンフィリアは頭を抱えたくなった。

“本物の”レイエンフィリアの記憶の中に、該当するものがある。


負傷した兵士。

「代わりに出る」と言って、意気揚々と手をあげる兵の一団。

彼らを見る、周囲の目は──




「そう、……そういう、こと……」




肘掛に左肘を置き、頭を支える。目は閉じていた。なるほど、と、自分にしか聞こえない小さな声で呟く。


歯車が狂ったのはそこからだと、アラドは言いたいのだ。




「わかった。それを踏まえた上で、次の勅命がきたときには行動しましょう」


「どうでしょうか。第一班の連中は、その時々で自分たちが何班であるかを変えます。俺たちはそれに従うしかない。偉ぶっているだけでなく、実力も兼ね備えた連中ですから。『自分たちの班が行くよりも、彼らが行ったほうがいい』と、みんな思っているんですよ」


「これで実力がないなら話は別ですが……」


「運の悪いことにっていうかなんていうか、実力はもう折り紙付きなんですよね。殿下もお察しの通り」


「じゃあどうしたら──」




いいの、と言いかけて、レイエンフィリアは言葉を区切った。


どうしたらいい?なんて。

考えるのはこの2人ではない。自分自身だ。なんせ自分は“リンペラトリーチェ”なのだから。彼らも所詮、レイエンフィリアの部下である以上、どんなに努力したって命令には逆らえないのだ。




「いっそ、誰か何かを起こしてくれないかしら」




小さく呟いた言葉に、アラドは片眉を上げ、ベンクは小首を傾げた。




「殿下、『何か』とは……?」


「そうねぇ……私の部隊が出動しなきゃいけないような派手な事件、かしら」


「縁起でもないことを……」


「だってそうじゃない?『何か』が起こってくれれば、部隊内のイザコザをリセットできる。どうするかは今思いついたからいいけれど、いざ起こってくれないとダメなのよね」


「ちなみにどんな方法で……?」




ベンクが引き攣った笑顔をレイエンフィリアに向けながら、おずおずと言った風に手をあげる。きょとん、とした顔をしながら、レイエンフィリアはさも当然のように告げた。




「どんなって、『何か』が起きたら私もその渦中に飛び込むのよ」




アラドはため息をつきながら頭を抱え、ベンクはただでさえ引き攣った笑顔をさらに引き攣らせて硬直した。

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