12 自責と宣告のフーガ - 01
「……ごめんなさい、私、知らなくて……」
「隊員の人数は100を超えるんですから、当然です。責める気などさらさらありませんから、お気になさらず」
「だとしても、よ。ごめんなさい。でも……ええ、ありがとう」
レイエンフィリアは、嬉しそうに2人の身分証を握り締めた。
「今日の護衛騎士が2人でよかったわ、ありがとう」
レイエンフィリアは2人に身分証を返す。2人は服の中に身分証を戻しながら、微笑んだ。
「俺たちも光栄です、リンペラトリーチェ。今日、貴方の護衛になれて」
「ふふっ、侍女長に感謝しなくっちゃ。貴方たちの立候補に反対しないでくれて」
言いながらレイエンフィリアは私室の前に立つ衛兵に合図をし、扉を開けるように促す。
眉をぴくりと動かしたベンクは、下を向いていた顔を上げ、レイエンフィリアを見上げる。
「あれ……?あの、リンペラトリーチェ。俺たちの方から立候補したって話、しましたっけ?」
「……ん?」
ドレスの裾を翻し、レイエンフィリアは跪く2人に視線を向ける。
「私、貴方たちみたいに、異常に畏る人よりも素で接してくれる人の方が好きなの。私の顔色を伺ってばかりいる人より、言いたいことをはっきり言う人の方が好きよ」
ベンクの表情が固まる。
レイエンフィリアの足元で視線が止まり、やたら左右に揺れる。
目が泳いでいる、と言うやつだ。
「いいんじゃない?面白くなることは保証するわ。その代わり、……巻き込むからね?」
ふわりと笑って、レイエンフィリアは室内に足を踏み入れる。
扉が閉まって程なくして、室内にいるレイエンフィリアやマリン、侍女長にも聞こえるほど、
「アラドォォォッ!お前ェェェッッ!!!」
と言うベンクの声が響いた。
アラドの声は特に聞こえなかった。
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城には数多くの部屋がある。それはもう大量に部屋がある。
レイエンフィリアが自由に使える部屋も、私室の他にたくさんある。
その中でも、私室以外でレイエンフィリアが頻繁に出入りするのが『皇政執務室』である。
皇政執務室というのは、レイエンフィリアが第3部隊『女帝』として執務をする際に使う執務室のことだ。
部隊そのものを皇家と捉え、部隊長を皇帝、隊員を王族とする。
皇帝たる部隊長の執務室だから、『皇政執務室』。同じように考えて、王族である隊員が使う執務室は『王政執務室』となる。
皇政執務室は、基本的にレイエンフィリアと側近以外は入れない。
逆に、王政執務室はかなりオープンだ。執務室と言っても、超がつく程だだっ広い談話室から、それぞれの小隊が集う小談話室に繋がる扉が配置されているだけの、シンプルな作りだ。
小談話室からは、それぞれの小隊の隊員の私室に行くことができるし、小隊長の執務室も用意されている。
レイエンフィリアは、皇政執務室に入り浸ることが多かった分、王政執務室の中を熟知していない。
熟知していないのに足を踏み入れようとすれば、当然、こうなるモノである。
「殿下!だから俺が行きますって!」
「私自身の口で言わなくてどうするの?」
「だからって、ああぁ!殿下!おいアラド!お前もなんとか言えよ!」
縋るような目で、ベンクは後方にいるアラドに助けを求める。
まともに慣れていないレイエンフィリアは、そうであることを自覚しながら王政執務室に行くことを躊躇わない。
あの場所は危険だ。入る扉を間違えると、自分が今何処にいるのか分からなくなる。
ベンクは以前、それを痛いほど痛感した。アラドもそのはず、なのだが。
「……」
頼りのアラドは何も言わないのである。
王城の広い廊下を迷いなく進むレイエンフィリアと、どうにかそれを止めようとするベンク。その2人を、「今日の昼飯何だろう?」くらいの軽さで眺めているのである。
「アラド!」
「……はぁ」
────ため息!?それも『しょうがねぇな』って感じで!?なんで!?
後頭部をガリガリと掻いたアラドは、歩幅を広げてレイエンフィリアの隣に並ぶ。普通なら隣に並ぶことは許されないが、レイエンフィリアは何故か、怒ったり訝しんだりする気配が欠片も無い。
その程度のこと、と捉えている節がある。
「殿下」
「なぁに?」
「先に自分が行きます。下手に王政執務室に入れば出られなくなりますし、いきなり殿下が訪れれば皆驚きます。事前に自分が行って、伝えておきますから」
「……確かに、事前の連絡も無しに行ったらみんなが驚いてしまうわね」
「はい、先に伝えておきますので、そう焦らずにいらしてください」
「わかったわ」
────え、何?それで納得するの?
ベンクは脱力した。
ラ・ステッラの部屋で報告を済ませた後からずっと問答を繰り返していたのに、アラドが一言添えただけで納得されてしまった。
────俺とのさっきまでの押し問答は一体何だったんだ……
話は、数日前まで遡る。




