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【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
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105  幻惑のジャバウォッキー - 2

常に、「『何か』をしなければならない」「何かやらなければならいことがあったはずだ」と、思い続けてきた。


それがなんなのか。


なぜそう思うのか。


それすら思い出せない。


けれど、やり遂げなければならない『何か』があることだけが、確かだった。




「あ、ああ……知っているよ」


「じゃあもう一つ。なぜ俺たちの世界に『死』があるか知っているか?」


「……なぜ、『死』があるのか……?」




その表情から、『知らない・わからない』と言うことが読み取れる。




────嗚呼、知らないんだ。




九龍院に属する者は、どの派閥に与していようとも、その胸に留めなければならない言葉。




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔





【死】


【死】とはなんなのか。


誰しもが一度は考えたことがあるだろう。


『なぜ人は死ぬの?』

『死んだらどうなるの?』

『私は天国に行ける?』

『俺は地獄へ堕ちるのか?』


そして皆、口を揃えて言う。




「死ぬのが怖い」




と。


九龍院に属する上で。

ここにいる全員が、必ず、1人以上の人間を殺すだろう。


九龍院に与するために必要だから。


けれど、その力は絶対に、私利私欲のために使ってはならない。


常に、【自分以外の人間のためでなければ、人を殺してはならない】。


故に。


九龍院家の12大幹部になった九龍院の人間は、文字通り『心を殺す』。


普通の軍隊であれば、上位階級になるほど前線からは遠のくが、九龍院は逆だ。


上位になればなるほど、心を差し出す代わりに立場を得る。心を殺したくないがために、昇級を拒む者がいるほどだ。


日本各地を飛び回りながら人を殺し、妖を殺し、【“今を生きる”人類のため】に手を汚し続ける。


我欲を捨てられない者など九龍院家には、いらない。




「最後には、きっと」




我らは全ての人間を殺すだろう。

誰かの正義は誰かの悪となり、人類の歩む道に不要な選択肢を裁き、切り捨てるのが我らの仕事なら。


そしてきっと、世界には我らのみが残る。

そうなったら、全員が自死を選ぶのだ。


我らが人類となることは無い。

あってはならない。


我らは、人類が歩く道の選定屋。

歩く人類がいないのなら存在価値は無い。




────死が怖くは無いの?




誰かが問う。




死は怖くない。けれど、死に値する人間になったことは怖い。それだけ。死は恐れるものではなく、いずれ全ての人間に訪れる現象だから。時間が経てば腹が減るように、時間が経てば命が終わる。




────私は天国に行ける?

────俺は地獄へ落ちるのか?




私たちは幾千幾万の命の上で生きている。人は生きる中で、必ず何かの命を殺す。命を殺した者が皆地獄へ行くのなら、地獄へ行かない人間はそういない。万人が等しく地獄へ行くのなら、それを畏れても仕方がないだろう。




────死んだらどうなるの?




肉体や存在は消える。けれど誰もが記録になる。生きた証が、存在した証が、我らが生きた世界に残る。それで、いい。




────なぜ人は死ぬの?




種を残すため。需要に適さない旧い商品が廃盤になり、需要に適した新商品が開発されるように。生物もまた、環境に適さぬ旧い生物が滅び、適した生物が遺り続ける。




「現状を継続し続けるためには変わり続けなければならない」




九龍院、九龍院、九龍院、九龍院。

背負わされる名前の重さに、逃げ出した。




いつの日にか、死の直前で自分の人生を振り返った時。『いつだって輝いていた』と胸を張って言うことができるように。




私はただ、それだけだ。

私が今を生きる理由なんて、それだけでいい。




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔




「オルディネ」


「……」


「人には命の終わりがある。それは生まれた瞬間から当然のように寄り添うものであり、産声を上げた瞬間から人間に甘く蠱惑的な手を伸ばしてくる」


「……」


「オルディネ、わかるか。生き物には死がある。そして死があるから、人は死を恐れ、神に縋って祈りを乞い、救いを求める」


「つまり」


「つまり、【死】の無い世界に“宗教があるはずがない”」




ヴァーニア教。

女神ヴァーニアを主神とするレイヴヴィヴェーニア皇国、そしてレイヴヴィヴェーニアの三方を覆うように広がるウェリンターレ王国でも広く信仰されている“宗教”。




「死を恐れるが故に人は神に縋る。そこが他の生物との違いであり、人間の弱さよ。神を信じるか信じないかは問題じゃない。一度たりとも死を恐れない人間なんていないのよ」




オルディネは目を見開き、手を口元に持っていって、ゆっくりと覆う。玲華たちの言葉を噛み砕くように、脳内で反芻しているように見える。


暁人はヴァーニア教の教えを(そらん)じる。




「人は正しく死ぬとヴァーニア神の元へ還り、再び生まれ変わる。しかし正しく死ねなかった者は、ヴァーニア神の元へ還ることも、地上に生まれ変わることもできないまま彷徨うこととなる」


「【死の概念】が無い世界に、宗教も輪廻転生もあるなんて、初めから可笑しいわ」




苦悶の表情を浮かべたオルディネは、突然、ハッと目を見開いて、勢いよく玲華と暁人を見た。

そして、意を決したように玲華を鋭い瞳で見つめる。




「玲華」


「……なぁに?」


「今から俺は、君に酷いことを言う。けれど無闇矢鱈に言う訳じゃない。それだけは信じて欲しい」


「…………?ええ、わかったわ」


「………玲華、立場でもなんでも利用していいから、もっと殺すんだ。もっと殺して、そして【原罪者】になれ」


「「…………」」




ふざけるな。

そう叫んでしまいそうになるのを必死で抑えながら、『無闇矢鱈に言う訳じゃない』と言う言葉を信じて繰り返す。


何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故何故。




「オル、ディネ……どう言うこと」


「文字通りだよ。今、君は私生活でも殺人衝動に思考を侵されながら、無理矢理に抑え込んで生きているだろう。抑え込まなくていい、解放するんだ」


「それで何が変わるって?ただでさえ殺人を犯すことを玲華は拒んでいるのに」


「ならこうしようか。『君たち2人で【原罪者】になることができれば、元の世界に帰るための方法を教える』ことを約束しよう」




目を見開いて硬直する2人をよそに、オルディネはふわりふわりと、再び宙に漂う。




「君たちが把握している転生者も全員、も加えようか。僕が満足するまで、ひたすら殺して殺して、【彼女】が君を【原罪者】だと認めるまで、ただただ殺せ」




玲華の唇が震える。


いやだと、理性が言う。

なのに心が。

心が、悦ぶ。


嗚呼、嗚呼、嗚呼、嗚呼!

殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる殺せる!




「玲華!」


「おやおや」




玲華の瞳から光が消える。

暁人の声は届かない。

オルディネはクスクスと笑って。


暁人の視界は暗くなっていく。




「玲華。必要なら、その右目が封じている能力を発揮してしまえばいいよ」




オルディネの言葉に。




「アア、ああ、嗚呼」




玲華は言葉にならない言葉で返す。

心地よさそうに、恍惚とした表情で。

()()()()()暁人を見つめながら。

次回更新は、10月23日の12時です。

雲行きが怪しくなりましたが、彼らなりのハッピーエンドを目指して行って欲しいです。


私も見えてきたエンディングに向けて、頑張って書いていこうと思います。改めて、よろしくお願いいたします。

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