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【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
104/160

104  幻惑のジャバウォッキー - 1

レイエンフィリア。

美しい銀の髪に空を映したような青い瞳の、美しい人。


レイエンフィリア。

レイエンフィリア。


貴女は一体、“何”?




「考えたことがあるかい」




その一言で、意識が覚醒する。




────私は今、何をしていた?




周囲を見渡せばそこには、キリルの姿をした暁人の姿。玲華と同じように、周囲を見回している。




双子の兄妹と食事をして、会話をして、それで?




────意識だけ、ここに呼ばれた?




月の無い明るい夜。

一面に咲く青い花。


そして、視界に映しただけで眉間に皺が寄る気がする、腹立たしい男。




「──オルディネ」


「ふふ、『お前なんて嫌い』って感じかな?いいさ、それでも。今はね」


「何の用?いきなり呼び出しておいて」




浮遊する男は、裾をひらめかせながら表情を変えずに語る。




「少し、妙なことになってきていてね」


「…………」


「ああいや、違う。君を責めているんじゃない。こっちの問題って意味で」


「…………?」




ふぅ、とひとつ息を吐いて、オルディネは腰に手を当てる。




「レイエンフィリア。いや、玲華。“世界”についてどう思う?暁人、君もだ。君にも同じ質問をしよう。君たちが今生きている“世界”について。どう思う?」


「「???」」


「質問の意味が、わからない……というのが、正直なところだな。どんな答えを俺たちに求めている?」




暁人の問いに、オルディネは考える素振りを見せたのち、口を開いた。




「玲華。僕は、あの皇国を『理想郷』と呼んだ。僕たち【裁定者】が創り上げた、僕たちの『理想郷』だと」


「お前たちが創り上げた?」


「そう。僕たちは九龍院の人間に造られた。だから思考のベースが君たちに近い。創作者が九龍院の人間だから、日本という国も、地球という惑星も、宇宙という概念も、九龍院が知っていることなら知っている。けれど──」




浮遊していたオルディネが、初めて、地面に足をつけて玲華たちに歩み寄る。




「『理想郷』を創ったはずの僕たちは、【悪魔】と言う存在を“知らない”んだ。この前、ある人に教えてもらうまでは」


「……待って、それはおかしいでしょう?『死』を知らない人間が『死』を理解できないように、貴方たちが知らない存在を貴方たちは創れない」


「そう、そのはずだ。なのに君たちの内側はどうだ?」




美しい指が、玲華の胸元を指し示す。




「君たちの内側には、確かに【悪魔】が巣食っている」


「創っていないはずの存在が、何故、“在る”と思う?」


「…………お前たちが創っていない?」


「断言できない、というのが正直なところだけど、それもあるかもしれない。けれど意識の何処かに、『あの皇国は僕たちが作った』と確信しているような、記憶にあるような気分になる。……なのだけれども、もう1人の【裁定者】にも聞いたら、『創ったことはわかるが創った記憶は無い』と言われたんだ」




────創った、という自覚はあるけれど、創った記憶は無い?




それは一体どういう意味?


記憶も無いのに確信があるの?


疑問はいくつも湧き上がる。




「フォーリアもそうだって、言ったな?」


「ああ、彼女がそう言っていた」


「創った自覚はあれど記憶は無いと?」


「ああ」


「…………オルディネ、『世界五分前仮説』って知ってるか?」




世界五分前仮説。

実は、世界は5分前に作られていて、5分前以前の記憶は捏造されたものである、というのが大まかな内容だ。




「ああ、情報としては」


「創ったのは別の人ってことは、無いか?創ったのは別の人で、その記憶だけを持っている、とか」


「それはどうだろう。人間が世界を作ることができるとでも?宇宙の定義すらできていないのに?」


「お前たちにはできるのか?」




オルディネはニィ、と口を歪めて言う。




「ご覧」




オルディネは右手を差し出した。


その掌で、小さな光が明滅し始める。




「新たな宇宙の誕生だよ。君たちで言うところの『ビッグバン』だ。ここから徐々に、君たちの知る宇宙へと進化していく。原子や分子が生まれ、物質が生まれ、長い年月をかけて星が生まれるのさ。この掌の上の小宇宙でね。時間の早回しなんてできないから……よっと」




手を握れば、徐々に大きくなっていた光は蝋燭の火が消えるように消えた。




「宇宙の誕生は奇跡だけれど、僕たちには奇跡の誕生すら再現可能だ。世界創生なんて、容易い」


「歴史も、人間も、全て?」


「そう、そうだよ。全て、すべて、僕たちが創ったはずなんだ。自覚はある。けれど記憶に無い。それが、僕には気持ちが悪いんだ」


「じゃあ『死の概念が無い』のはどうして?」




玲華の問いに、オルディネは一度動きを止める。




「あの皇国は『理想郷』だと言っただろう、玲華。『理想郷』に死は存在しないよ。君たちの考える天国と同じさ」


「なのに、『理想郷』で人が生まれるの?」


「そうだよ?」


「じゃあなんで、転生者だけ人を殺せるの?」


「…………?」




オルディネの表情が疑問を呈する。




「……いや。そんなことはないはずだ。いかに転生者といえど、君たちにも『理想郷』のルールは適用される。この世界に死は無いんだよ」


「でも私は、確かに人を殺してしまったわ。あの時、【悪魔】に心を奪われながら、確かに殺したの」


「そこが妙なんだよ、玲華。君、どうして彼らを殺せたの?」


「なんでも何もないわ。殺人の手段なんて、調べればいくらでもあるでしょう?推理小説なりなんなり、いくらでも……」


「違う、そうじゃなくて。あの皇国じゃあ、『殺意』を抱くことすらできないはずなのに」




そこまで黙っていたはずの暁人がゆっくりと口を開く。




「オルディネ」


「なんだい?」


「お前……【ヴァーニア】って知ってるか?」

ジャバウォッキーというのは、不思議の国のアリスの続編、鏡の国のアリスに登場するのだそうです。


意味不明な、ちんぷんかんぷんな、と言った意味なのだそうで、転生者と裁定者で見ているものが食い違うこの章に似合の言葉ではないかと思いました。


今まではイタリア語の音楽用語を用いていましたが、ここだけは少し、特別です。


ようやく世界の輪郭が見えてくるのではないでしょうか?


次回更新は2週間後の10月9日の12時です。

よろしくお願いいたします!


余談ですが、ジャバウォッキーという言葉はアグネス・チャンさんの「100万人のジャバウォッキー」という曲で知りました。ご興味があればお聞きくださいね。本当に、意味不明という言葉が似合の曲です。

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