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【本編完結済】殺戮の皇女  作者: イチノセ
101/160

101  黎明のカヴァティーナ - 6

「異常だね」




イル・バガットの言葉に誰もが頷いた。


ここは謁見の間。皇帝が座す両脇には各部隊の部隊長が並んでいる。


全員の手元に配られた報告書。

そこには、祭りの夜に行われた残酷な事件の現場が詳細に記されていた。


近隣の家の中から発見された惨殺死体。

家の中に誰かが侵入した形跡はなく、生き残った人間は誰もいない。女子供も関係なく、死んだ。




「レイエンフィリア」


「はい」


「お前に、この事件の調査を言い渡す」


「お引き受けいたします」




皇帝からの重い一言に、レイエンフィリアは首を垂れた。


難しい依頼だと思う。

しかし皇帝からの勅命をただただこなすのが自分の役目なのだから、そうも思っていられない。




「信用を落とすなよ」




最後の一言が、重くのしかかる。




♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔∴∵∴♔




キリル達を引き連れ執務室に戻れば、マリンが笑顔で出迎える。




「おかえりなさいませ、姫様」


「ただいま、マリン」


「お茶を淹れましょうか」




ゆっくりと茶器に手を伸ばすマリンの後ろ姿を見て、レイエンフィリアはぱちくりと瞬きを繰り返す。




────あらあら。




薔薇を象ったガラス細工のバレッタ。普段は、子供の頃のレイエンフィリアが贈ったバレッタをいつまでもつけていたけれど。




────ふふ、負けちゃった。負けてしまったけれど、まだあげないわ。マリンは私の大事な親友だもの。




「殿下」




キリルが真面目な声で呼びかける。

表情を引き締め、レイエンフィリアはキリルに向き直った。




「勅命、如何なさいますか?」


「今までのように部下を頼るつもりはありません。今回は私が直々に向かいます」


「心当たりでも?」


「祭当日」


「?」


「祭当日に会った、あの兄妹」


「はい」


「【彼ら】の気配があった」


「!」


「感じなかった?」


「直接触れていないもので」




嗚呼、なるほど。と、そう口に出そうとしたけれど、マリンが机に紅茶を置く音が聞こえてきて、我に返った。




────そうだ、マリンがいたんだった。




レイエンフィリア付きのメイドたるもの、見聞きしたことを外部に漏らすようなことはしないだろう。けれど、レイエンフィリアは【悪魔】が関わることに彼女を巻き込みたくないと思ってしまう。




「ありがとう、マリン。呼ぶまで下がっていて」


「承知いたしました」


「あ!そうそう」


「はい?」


「そのバレッタ、悔しいけど似合ってるわ。本当はすっごく悔しんのだけれどね。悔しいけれど、すっごく似合ってるから許しちゃう」


「……!!」


「大事にしなさいね」


「……は、はい」




マリンの退出を確認して、キリルが微笑む。




「幸せそうでいいですね」


「恋する乙女って顔してるでしょ?」


「お綺麗になられたと、感じますよ」


「可愛いわよね」




レイエンフィリアはふふ、と楽しそうに笑う。

ティーカップを手に持ち、一口啜って、また顔を上げる。




「今回の事件のおかげで査問会は延期、事件解決が最優先とはなったけれど」


「【悪魔】が関わっているのであれば、部下には回せないって言いたいんでしょう。わかっていますよ」




それは自分たちがやるべきことだから、ダメなんだ。




「とにかく明日。明日からは城下に出て彼らを探しましょう」


「承知いたしました。ところでレイエンフィリア」


「?なぁに?」


「どうぞ」




差し出されたのは、小さな箱。




「これは?」


「開けていいですよ」




言葉通りに開けると、中からは。




「ピアス?」




1cm位の大きさの、薔薇を象った綺麗なピアス。光の加減によって、水色や、ピンクや、虹色になる。決して派手ではないけれど。




「綺麗……」


「職人が作った一点物で、出店の割に金額が高いからか、あまり流行ってはいなかったんですが」




そこで一度言葉を区切って、キリルは視線に彩を孕ませる。




「レイエンフィリアが着けても、玲華が着けても、似合うだろうなぁって」


「っ!」




嗚呼、ダメだ。顔が熱い。




「こういうの、興味がないのかなぁって」


「そう思ってた?」


「……ん」


「そうだね。前までは無かったかな、興味。少なくともこっちに来る前までは」


「そ、そう……えと、あの……」




レイエンフィリアは恥ずかしそうに、机の引き出しから箱を取り出した。おずおずとそれを差し出す。




「その、えっと」


「開けても?」


「どうぞ……」




丁寧な包装を解くと、キラキラと光るそれが目に入る。




「へぇ、ガラスペン……」


「こっちにもあるんだなぁ、って、思って。ペンそのものはシンプルだけれど、スタンドが薔薇を象っているの。それなら使いやすいかなぁって」


「そっか。ありがとう、部屋で使うよ。日記を書くときとか、報告書を書く時に」


「うん、ありがとう」




プレゼント片手に、微笑み合う。


明日からのことを考えれば、きっと、これは今だけなんだろう。もう、今には戻れない。


いま、だけ。だから。




「5人でお茶でもしましょうか」


「ええ、いいですね」


「ガーデンに行きましょう」




今だけは、平穏を謳歌させて。

次回更新は2週間後の8月28日です。


100、超えましたね。

まだ終わってない……だと⁉︎


頑張ります。

これからもどうぞよろしくお願いします!!

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