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天の涙と星の顔  作者: ラウンド
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1:「星空の下で Opening」

 その日も、ボクは街の中心地にある塔の展望台に上っていた。

 その天を衝くように、空に先端を向けた、剝き出しの赤と白の骨組みが特徴的な塔から街並みを見下ろし、大きく息を吐く。

 見慣れた街並み。生まれた頃から歩いてきた大通り。そこを歩く、豆粒のように見える人の群れ。そして、それらを赤く染め上げる夕陽。

 その全てが美しいと、そう感じた。

 そのまま視線を真っ直ぐ、今にも夕日が沈もうとする山際へと向ける。太陽の傾きのお陰か、そう眩しくはない。

 その山は、詳しくは知らないが、二年ほど前に卒業した教導学校のアウトドア好き教師曰く、何やら神聖で有名な山だと言う事だった。

 昔は登山も出来、その頂上からの景色は人生観が変わるほどに美しいと言われていたそうだが、今は危険だと言う理由で立ち入り禁止となっていて残念だ、とも語っていた。

「綺麗だなぁ…」

 これで通算何回目か分からない程に口にしてきた言葉を、また口にする。カメラが手元に有ったなら、直ぐにでもその景色を一、二枚撮影しているところだ。

 たとえその場所について詳しく知らなくとも、そのものの美しさが損なわれる事は無いと、力強く断言出来る。

「スケッチブックなら、持ち込めるかなぁ…?入手はしやすいし」

 ふと、そのような事を考え、ポケットの中に入れていた財布を取り出し、口を開ける。

 紙幣数枚、硬貨十数枚が、顔を覗かせた。

「お金はある、っと…。よし、明日にでも買いに行こうかな」

 心の中の呟きを声にも出してしまい、ふっと笑ってしまった。周囲に誰も居なかったのは幸いだったかも知れない。

(まあ、人の少なくなる時を選んで足を運んでるわけだから、当たり前か)

 肩を竦めた。

 自分の癖に苦笑しながら、次は視線を空へと上げて行く。

 太陽の傾きが深くなるにつれて暗くなっていく空に、ちらちらと星々の輝きが見え始めている。

「こうして見上げていると、星も綺麗だよね。綺麗、なんだよねぇ…」

 窓越しにその風景を見る。暗さが深くなるに連れて、星々の輝きが河のように広がって行く。

 すると、幾筋かの光が河から離れて、空を駆けて行く様が見えた。

「……あれは」

 それらは赤から黒へと変わって行く空を裂くように飛翔し、何処かへと消えて行った。

 その時だった。

 少し離れた位置に設置されているスピーカーから、展望台館内アナウンスの開始音が聴こえた。

『こちら、東京塔災害対策本部です。ただいま、天文観測台より「天の涙」発生が確認されたとの情報が入りました。予想落着時刻は、今から十五分後です。住民の皆様は、起動状態の防壁発生装置の周囲に近付かないよう、宜しくお願い致します。繰り返します…』

 その声に、ふうと溜め息を吐き、首を横に振った。

「やっぱり来たんだ。まったく、ただの美しい景色のままでいてくれたら良いのに…」

 愚痴を、誰も居ない展望台に吐き捨てた後、エレベーターホールへと向かうためにゆっくりとその場を後にした。

 外に出て、塔を見上げた。

 骨組みや展望台ほか、塔の構造全体が薄っすらと淡い光を帯びており、時たま、塔の先端から光の粒が雨のように散っては降ってきている。

 その遥か上空には無数の流星が、青白く、冷たく、そして神々しさすら感じさせる輝きを放ちながら、悠々と飛翔している。それらはまるで、滴り落ちる涙のように見えた。

 そして、防空対策機関所属の飛行甲冑が通過した辺りで、見上げることを止めた。

「さて…副業に備えて、戻りますか」

 防災無線から繰り返される警告サイレンとアナウンスを聴きながら、特に慌てた様子も感じられない雑踏に紛れるように、その場を立ち去った。

 その途中、幾つかの青白い星の欠片が遥か上空を通過し、山の向こう側に落着。一部は街に向けて落ちる途中で見えない壁に阻まれ、澄んだ音と光を伴いながら四散していった。

 これが、数百年も前に起こったと言う大災害『落涙の日』からの、ボク達の日常だ。

 先程までボクが上っていた塔は、定期的に発生するようになってしまったこのような事態から、人間や他の動植物達を守る障壁を展開する機能を持った、言わば防衛装置の役割を果たす機械で、ボク達は、この塔の庇護下でのみ、安定した生活を許されていた。

 何も星が滅んだわけでも、人類が絶滅したわけでもない。だがこの事実は、世界のシステムを破壊するには十分過ぎる衝撃を与えた。

「うーん、今回は、どれくらいの鉱石が収集できるかな。良い涙石でも拾えたら、しばらく本業休めるのに。はっ、やれやれ」

 ただ人間は、そのような衝撃を受けてもなお逞しく生き抜いている。

 暢気な皮算用を考えていたボクは、思わず笑ってしまうのだった。

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