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神様に賠償請求は出来ますか

なんちゃって日本が邪神に召喚されました、武器の効かない相手に困っていたら、異世界の人に助けられ、話を聞けば、この世界の神はとんだ駄神でした。

それがどんな現象だったかなど、論じるだけ無駄だろう。

 とある世界の邪神が生贄を求めた、運悪くそれに日本と言う国が引っ掛かった、ただそれだけの事だ。

 全く見知らぬ場所に放り出され、他の国とも通信が取れず、日本が混乱するうちに、多くの邪神の使い、いわゆる魔王の軍勢がやってきた。

 日本は反撃するべく、自衛隊を出撃させた。

 しかし無駄だった、自衛隊はただの一体の魔物も倒せず甚大な被害を出した。

 魔物には自衛隊の持つ武器が一切効かなかったのだ、銃弾は小石ほどにも役に立たず、砲撃はボールをぶつけた程度の衝撃、爆薬の類など煙幕程度にしか役に立たなかった。

 あまりの事に絶望しかけた時、この世界に住む人間の軍勢がやって来た、それにより事態は一変した、彼らの持つ何の変哲もない弓矢や剣そして槍で、あっさりと魔物たちは倒れて行ったのだ、唖然とする日本側を置き去りにし、勝負は人間側に軍配が上がっていた。


「創造神ですか。」

 助けてもらったお礼と国交の樹立、見知らぬ世界に投げ出された日本がやるべき最初の一歩を行えば、飛び出してきた単語に戸惑うしかなかった。

「わが世界の創造神のお力沿い無くして、あれらを退けるのは難しい。」

 厳つい鎧に身を包んだ男性の言葉に、外務官はほんの少し表情を緩め。

「その…創造神様に祈りをささげるとあの化け物たちは倒せるのですか?」

 と尋ねたが、相手側が全員難しい表情で黙り込むのを、不安げにみれば。

「…難しいかもしれぬ、創造神はこの世界で生まれた物の守護は確約なさっている、しかしその一方で外の世界からの訪問者にはひどく冷淡だ、言い方は悪いが己の子さえ無事ならばそれでよい、というお考えの神なのだ。」

 ちなみに今襲ってきている邪神は創造神の兄弟で元々は隣り合った別の世界の創造神だったのだが己の世界が壊れそうな時、妹であるこの世界の神に助力を願ったのにも関わらず、妹が笑って取り合わず、それどころか止める兄の制止も聞かず、これはいらない、あれは欲しい、と散々兄の世界を引っ掻き回し、結局世界を滅ぼされ、その事に怒り狂い兄は邪神に落ちてしまったらしい。

 微妙な表情の日本側の外交官たちに語った方もひどく気まずげに。

「悪気はなかった…そうだ、何せ自分が順調に世界を構築できていたから、兄なら何とかできるだろうと軽く思っておいでだったらしい。」

 今でも数年に一度の神下ろしの儀式で、兄のしつこさと一緒に自分は悪くないと延々愚痴って帰っていくらしい。

しかしそんな事で呼び出された日本としてはたまった事ではない。

「神様に賠償請求ってできますかね…。」

 ぼそりとそんな事を言ってしまった下っ端君をとがめる人間が誰もいなかったのが、全員どう思っていたのか推して知るべし。

 兄弟げんかに他人を巻き込むな!

「…すまない、我々の言う事ではないかもしれぬが、うちの神とその兄が大変ご迷惑をおかけした。」

 この世界唯一の人間の国の王に頭を下げられ、外交官たちは微妙な表情で、いえいえこれからよろしくお願いします、と言うしかなかった、なにせこの世界、人間以外は動物のみ、オーストラリアと同じくらいの大陸が一つだけで、ファンタジーな妖精さん方は一切いない、ある意味地球の超ミニチュア版だ、ゆえにこの国と国交が出来なかったら完全にボッチである。

 残念ながら食糧事情を含めボッチでは生きれないのが日本と言う国だ、地下資源があるところも含めて彼らの土地だし、食料だって融通してもらわねば餓死してしまう、そんなこんなで微妙なもろもろを無視して、両国は国交を樹立させた。

「それで、国の名前はどうしましょう。」

「「「「あ。」」」」

 日本側の言葉に、相手が初めて国の名前と言うものがない事を自覚した瞬間である。

「…仕方ない、俺の名前で良いな?」

 ため息交じりの国王の言葉に、大臣が頷く。

「よろしいかと。」

 そうして、この世界で唯一の国に初めて名が冠せられた。

 ライオネット・バド・ウイザードリィ王国

 今まで名を必要としなかった国に初めて名がついた瞬間だった。


 その後この創造神の聞いた日本の国民は心から。

「「「「「「「「ふざけんな!!」」」」」」」」

 と叫び。

 政府は全く役に立たないであろうこの世界の創造神のことは放っておいて、自力で邪神の対処をしなければならない事に頭を抱えるはめになり、国民は困ったときの神頼みとばかりに近所の神社仏閣にお参りに行き、必ずと言っていいほど。

「神様仏様お助けください!お願いします!ついでで良いんでここの創造神説教してきてください!」

 と心から祈るのだった。


 特にこれと言った対策が思い付かないまま、数日が過ぎて行った。

 最初に気がついたのは、第一線の隊員達だった。

 魔物の攻撃で怪我をしない。

 最初は偶然かと思っていた、しかし直撃を受けても怪我をしない、そんな馬鹿なと笑おうにも、誰一人怪我をしない。

 それなのに戦車やヘリは壊れる、人命も大事だができれば武器も壊れないでほしいので、報告を受けた上層部が、躍起になって調べれば答えはあっさり見つかった。

 隊員たちは皆大なり小なり様々な御守りを身に着けていた、相手が相手だけに心配した家族から渡された物や自分で購入した物、とにかく全員何がしらの御守りを身に着けていた、対して武器にはそんな物は載ってないし付けてない、その証拠と言わんばかりに神棚付きのお船さん達は一隻も沈んでない。

「…神棚付けるべきか?」

「とりあえず坊さんか神主さんにお祓いでもしてもらいましょう。」

「日本の神様でも効くんですね。」

「ありがたいことだよ、千年以上見守っていただいた上に異世界までお付き合いくださったんだ。」

「そうですね、こんなにご利益が実感できたのは初めてですけど。」

「普段は放任でも、わざわざ降りて来て愚痴って帰るのよりはいいだろ。」

「「「確かに。」」」

 どこぞの碌でもない創造神よりできた神々に心から感謝しつつ、各々どこの神社仏閣にお願いすべきか検討に入る幹部たちだった。


 かくしてすべての自衛隊基地で、お坊さんやら神主さん達が戦車やら戦闘機相手に安全祈願を行い、もろもろの武器弾薬に悪鬼退散の祈りが込められる事となり、自衛隊始まって以来の真面目な珍事として、ネット界で長くネタにされるのだった。


 一方で一般の人々の中にも、徐々に神様のご利益だかご加護だか分からないものの、神社やお寺の近くだと危ない目に合わないと気付いて、御守りを求める人が増えだした。

 それ以外にも、道に置かれた小さなお地蔵様に助けられお礼にお供えをする人も増え、お年寄りの横で

子供たちがお地蔵様の周りの草をむしったり、一緒にお祈りしたりする姿もあちこちで見られるようになり。

「あ、今日学校の帰りに魔物出た時そこの角のお地蔵様に助けてもらった。」

「なんで早く言わないの!もうこんな時間じゃない、ああもう、朝一でお礼にお供え行かなきゃ。」

 朝に炊いたご飯でおにぎりでも大丈夫かしら、と呟きながら慌ててお米を用意する母に僕もおにぎりと子供が乗っかる。

 そんな寝る直前に明日の持ち物を言い出す様な母と子の会話が日本各地でくり広げられ。

「うちは関係ないですから…。」

「何言ってんの!キリスト様だって天使様寄越してくださるんだ、立派な日本の神様だよ!」

 とかなんとか丸め込まれ、困惑したまま地元の祭りに巻き込まれる神父さんや牧師さんが続出し。

〈お経の一個も唱えられた方が良いのか…。〉

〈アプリは効果ないらしいからなあ。〉

〈でもお経の本は効果あるって聞いた。〉

〈…お前ら、いかに引きこもってどうにかする方法考えるより、普通に御守り買いに外出ろよ。〉

〈魔物が怖いから嫌だ。〉

〈お外が怖いから嫌だ。〉

〈人間が怖いから嫌だ。〉

 そんな相変わらずな人々もいながら、ウイザードリィ王国の人々が呆れるほどに日本人はいつも通りだった。

「お宅の国はどうなってるんだ。」

「災害の原因と対処法が判れば、天災よりよっぽど怖くありませんから。」

 ケロッととんでもない事を言う役人に、微妙な表情を向けるウイザードリィ側の人々に、彼らはにっこり笑って。

「来ると分かってても対処のしようもなく何千人と亡くなる大災害が起こったり、人死にこそ少ないものの何百人もの人が怪我をしたり、住むところを無くしてしまう災害に比べれば、全然マシです。」

 と言い切るのだった。

 


 

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