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俺の相棒が素直じゃない剣について  作者: morito
1章 王都ルザマリナ
8/28

人間と獣人

「セイ、朝だよ起きて」


俺はその言葉に素早く反応し、ガバッと勢いよく身を起こした。そしてさっと周囲の状況を確認すると、ベッドの横には、起こしに来てくくれたであろうステラがおり、何故かその指先は俺の脇腹に触れていた。


「………チッ。あ、セイおはよう」


フハハ、俺は同じ失敗は失敗をしない男なのだ。……ねえ今この子舌打ちしなかった?勘違いだよね?


「おはよう、ステラ。起こしてくれてありがとな」


「どういたしまして。朝ごはんできてるよ」


ステラが後ろで手を組みながらはにかむ。耳がピコピコ動いて、俺の欲求をくすぐった。


「ああ、ありがとう。ちょっと準備するから先行っててくれ」


「すぐ終わる?ならここで待ってるよ」


「そうか、じゃあすぐ終わらせる」


ステラを待たせないようにと急いで支度してから、ステラと共に食堂へ向かった。


☆☆☆☆☆☆☆☆


「セイは今日何処か行きたいところある?」


「そうだな……取り敢えず冒険者ギルドと、後は服を買いたい」


俺はパンにジャムをつけて、口に放り込む。焼きたてのパンはやっぱうまいな。


俺がこの世界に持ってきたのは、高校の入学式に持って行こうとしてた鞄と財布とかその他諸々。まあそれら全部持ってかれたわけだけど。後は今着てる学生服だけだ。昨日街中を通った時に感じたが、学生服を着ていると違和感がすごい。このままでは悪目立ちしそうなので、出来れば早めになんとかしたい。


「じゃあ朝ごはん食べ終わったら出かけよっか」


「ああ、今日はよろしく頼む」


「任せて」


ステラが胸をポンっと叩く。今日は頼りにするとしよう。


俺は最後の一口を口に入れ、牛乳のような飲み物で流し込む。果たしてこの世界に牛とかいるのだろうか。


「よし、行くか」


「セイは準備とか良いの?ってそういえば、鳥に荷物全部持っていかれたんだっけ。……ふふっ」


「……おい」


「あはは、ちょっと準備するから待ってて」


そう言い残し、ステラはパタパタと奥の方へ入っていった。


「おう、もう行くのか」


ステラと入れ替わるように、店の奥からガルクが出てきた。豪快に欠伸をかましている。宿の朝って早そうだし、仕方ないのかもしれない。


「ああ。それにしても良かったのか?ステラを俺に付かせて。俺としてはありがたいが、忙しくなったりしないのか?」


「別に構わねえよ。もともとそんなに忙しいわけじゃねえしな。それに、セイが来てからステラがいつもより楽しそうなんだよ。だから今日はよろしくな」


ガルクが俺の背中をバシッと叩く。結構痛かったので恨みがましい目を向けると、ガハハと笑って流された。


ガルクとそんなやりとりをしていると、ステラが戻ってきた。昨日と同じ格好だ。相変わらずフードで頭を隠している。そんなに黒髪がコンプレックスなのだろうか。


「お待たせ」


「よし、行くか」


「うん、お父さん行ってきます」


二度目の欠伸をしながら手を振るガルクに見送られた俺達は、まず大通りに向かった。王都の入り口から城門前の大きな噴水のある広場まで続いている、太く長い通りだ。馬車が余裕を持って通れるように、太く設計されている。


大通りに近づくにつれ、喧騒が大きくなってきた。気を抜くと、横を歩くステラの声すら聞こえなくなりそうだ。


大通りに出た途端、より一層の騒がしさに耳が支配された。思わず眉をしかめる。


「ここは市場。色んな場所から行商の人が来て、ここで商売するの」


果物や野菜、肉なんかをはじめとした食料を売ってる露店もあれば、名産品と言って壺を売ってるところもある。あっちでは……民族衣装みたいな服が売られている。本当にバラバラなものが売られているんだな。全くまとまりがない。ステラによれば毎日売ってるものが違うんだそうだ。もしかしたら何か良いものがあるかもしれない。また機会があればじっくり見てみよう。


「ステラは何か買ったりしないのか?なんなら待ってるぞ?」


「……いや、いいよ。そんな事よりももっと奥の方に行けば、服屋や鍛冶屋、冒険者ギルドがもあるよ」


「それならいいが……。よし、じゃあそっちの方に行ってみようか」


俺たちは市場を通り過ぎ、奥へと足を踏み入れた。何故だろう。ステラの横顔が一瞬悲しそうに見えた。


☆☆☆☆☆☆☆☆


「申し訳ございません。獣人は入店できません。お引き取りください」


そういう店員は、酷く冷え切った目で俺達を、いやステラを見下ろしていた。


「なっ……」


ステラの方を見ると、フードを目深にかぶり俯いている。そのためこちらからはその表情は伺えない。どんな顔をしているかは想像に難くないが。


クソッ、こうなるのは予想できただろ……。


俺は額に手を当て、空を仰いだ。



時間は少し前に遡る。


「先に服屋かギルド、どっちに行きたい?」


市場を抜けた俺たちは、十字路に差し掛かり、少し前を歩いていたステラが振り返り尋ねてきた。


「それなら服を見たいかな」


昨日からずっと同じモノを着てるから、さっさと着替えたいのが本音。後あんまり目立ちたくない。ここに来るまでにもすれ違う人に結構見られていた気がするのは、気のせいじゃないだろう。


「じゃあ右だね。ちなみにここを左に真っ直ぐ行けばギルドがあるよ」


ステラが胸の前で指先を右の道に向けてから、手首を返して左の道を指差す。


「それなら右に行こう。案内頼む」


「うん」


そんなステラの微笑ましい様子に、思わず笑みが溢れる。俺は、さっきの表情は見間違いだっのかもしれないと、気にしないことにした。


ステラの案内に従い、歩くこと数分。目的の店に辿り着いた。店先には服の絵が描かれた看板がかかっている。ちらっと中を覗いてみると、入り口付近には、この町でよく見かける麻の服などが煩雑に並べられている。さらに奥の方に目を向ければ、いかにも高そうなローブが壁に掛けられているのが見えた。ここが服屋で間違いなさそうだ。


「ここか?」


「うん、そうだよ。じゃあ私はここで待ってるから、セイは服を買ってきて」


「ん?一緒に入ればいいじゃないか?」


「いや、きっと迷惑になるから……」


迷惑になる。この言葉の意味を俺はもっとよく考えるべきだった。


「別にそんな事ないって。一人で買い物するなんて寂しいだろ。せっかく一緒に来てるんだから」


「いや、でも」


「いいからいいから」


俺はまだ何か言おうとするステラを遮り、半ば強引に手を引いて店に入る。


思えばこの時、俺は浮かれていたのだろう。誰も頼れる人のいない異世界に突然連れてこられ、それでもこの世界の人に助けられて、自分の居場所の様なものを見つけた気がして、この世界は善意に溢れているのだと、悪意なんてないのだと、無垢な子供の様に信じていたのかもしれない。




まったく、そんな事、ある訳がないのに。




店に入るなり、そばにいた店員がこちらに振り返る。


「いらっしゃいま……」


言葉が不自然に途切れたのを聞いて、店の服を眺めていた俺は疑問の目を店員に向ける。


その店員は俺達のことをじっと見ていた。いや正確には、俺達ではなくステラの事を。


「恐れ入りますがそちらのお客様、店内ではフードを取って頂けませんか?」


「…………」


「ステラ?」


なぜかステラは俯いて黙りこくってしまっていた。


「えっと何で取らないといけないだ?」


「その様な人相の分からない格好をされていると、何か悪事を働くつもりなのかと勘ぐってしまいます。その為、お顔をお見せして頂きたいだけです」


ふむ。つまりフードで顔を隠しているなんで怪しいと。まあ、言われてみれば確かにそうだと言わざるを得ない。


「……ステラ」


俺はステラに小さく呼びかけてみるが、反応がない。一体どうしたのだろうか。


「……失礼ですが、そちらの方はもしかして獣人ではありませんか?」


ステラの様子を見かねたのか、店員が淡白にそう言うと、ステラの肩がビクッと動いた。


「…………はい」


ステラは震えた、絞り出す様な声でそう答える。それはまるで俺と最初に出会った時の、怯えているかのような様子で。


それに対して店員は、眦を鋭くしてステラを一瞥し、


「申し訳ございません。獣人は入店できません。お引き取りください」


そう言った。

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