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俺の相棒が素直じゃない剣について  作者: morito
2章 オーランド帝国
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あっちもキラキラ、こっちもキラキラ

戦闘は次回からです。

「んで?どうしてこうなったんだ?」


俺はもはや憂鬱さを隠す気もなく溜め息混じりに呟く。


「良いじゃねーか!こんな面白え事なかなかねえぞ!?」


テンションが最高潮といった感じのギルは、俺の肩に腕を回しながら耳元で騒ぐ。よくこんな状況でそんなテンションになれるものだ。ある意味尊敬する。


「はあ……ギルは呑気でいいね」


ステラよ、俺にはわかるぞ。そんな事言いながら、お前結構ワクワクしてるだろ。猫だからか?肉食だからか?


俺はひとつ大きく息を吐くと、現実逃避をやめ、前方を見据える。


ドドドッという地鳴りとともに舞う砂塵。

その音は行進によるものだ。

人とは異なる異形の者達の。

それ即ち魔物の大群。

俺たちのいるその場所からはそれがよく見えた。

何故かって?


ここはこの戦いを感じるのに最高の特等席(さいぜんせん)だからだよクソッタレ。


どうしてこうなったと、俺は再度呟く。

その言葉が虚空に消えていくのを見届けると、俺は背中に携えたカリナを引き抜いた。


(しょうがないから、私の力を貸してあげるわ。……この戦いでは気を抜かないことね。さもないとーー)


(死ぬ、だろ?分かってるよ)


戦場独特とも言える熱気に身体は過敏に反応する。恐怖、高揚が体を蝕んでいくが、それを止める方法を俺は知らない。だから、


(信じてるぜ相棒)


(はぁ……まあ任せなさい。あんたを死なせるつもりはないわ。あんたが死んだら私が困るのよ)


フッと軽く笑みが漏れる。今はその軽口が頼もしい。


周囲では先程から耳を叩く怒号があちこちで行き交っている。

まもなく始まる戦いに向けて、自身を鼓舞しているのだろう。


「よし、行くか」


そんな中で俺の言葉がどれだけ聞こえたか分からないが、ギルとステラが同時にこちらを見て頷くのを見て、この問いは無意味であったことを悟った。


二人に頷き返し、俺は地面を蹴る。恐怖を塗りつぶす程の、高揚が身を包んでいるのを感じながら。


☆☆☆☆☆☆☆☆


魔物の襲来の報が届いた時まで時間を遡る。


報を受けたフランらは、グロンズにいる革命軍を全員ギルド前の広場に招集し、それを告げた。


「ま、魔物の大群!?」


「一体どれくらいの規模なんだ!?」


「私達は早く逃げた方がいいんじゃないの!?」


「みんな落ち着いて!」


当然といえば当然だが、知らせを聞いた人達は顔を青くし騒ぎ始めた。

ちらほらと、騒いでいる人達の中に落ち着いた表情をした……いや、あれは覚悟を決めたのだろう人達もいる。

剣や槍を携えている事から、冒険者のようだ。

混乱を収めようとフランが声を響かせる。


「魔物は帝都の方から来るらしい!戦えない人達は、帝都とは逆方向に持てるだけの荷物を持って避難して!戦える人は……出来れば残って戦ってほしい。でも強制はしないよ。たった一つの命だからね。逃げても誰も文句は言わない。残念だけど……逃げたい人は他の人達と一緒に逃げてね。戦う人達は、作戦を立てるからこっちに集まって!」


フランが言い切るや否や、人々が移動し始める。逃げる者は後ろに、そして戦う者は前へ。


一体何人が共に戦ってくれるだろうか。

ふと横を見ると、祈るようにエリィが目を瞑っている。

数分後、広場には戦う者だけが残った。

これは……エリィの祈りが通じたのだろうか。いや、もしかしたら通じなかったのかもしれない。


「本当に……良いんだね?」


「ああ。この魔物の大群もクリストフの仕業なんだろ?なら逃げるわけにはいかねえな」


一番前にいる冒険者がニヤッと男臭く笑う。

後ろからはそうだそうだと追従する声が上がった。


ここに残った冒険者の数およそ200。

グンロズに所属する冒険者の数は200人弱らしい。

つまりほぼ全員残ったという事だ。


「で、魔物はどの位いやがるんだ?」


「……報告だと、2000以上って聞いてる」


「なっ!?」


単純計算で一人当たり10匹。

だが、物事はそう単純な話ではない。

本来魔物とは複数人で倒す者なのだ。

そう考えると、10倍ある数の差は想像以上にきつい。


「今からでも遅くない。逃げたい人は逃げてもーー」


「あんまり俺達を舐めるんじゃねえぞリーダー」


2000という数を聞いた時の悲壮感は、もう既にそこにはなかった。

あるのは覚悟を決めた戦士達の目だけだ。


「それに勝算がないわけじゃないんだろ?」


確信めいた問いかけに対して、フランは頷きを返す。


「もちろん。紹介するよ、こっちにいるのがフィーリア王国から来たセイとその仲間達で、なんとセイは聖剣の勇者なんだ!」


おお!というどよめきが冒険者達から起こる。

どうやら聖剣というのは結構有名らしい。


それにしてもカリナがすごいだけで、戦いに関して俺は全くの素人なのだが、それは言わない方が良いだろう。

折角上がった士気をわざわざ下げる事もないしな。


「それは心強いな!で、そっちのフードを被ってるやつは……?」


注目を向けられ、フードを被っていたエリィがフードを取る。

何故エリィはよくフードを被っているのか。

それは皇族の証である銀髪を隠すために他ならない。

今エリィはそれを晴天のもとに晒した。

それにここグロンズは帝都に近い。

そうなると、当然……


「貴女は、エリィ第3皇女殿下……?」


エリィの事を知っている者もいる。


「第3皇女……?」


エリィが皇女であるという情報は瞬く間に伝播する。

そしてここにいる者達は、エリィに対して好意的であるはずがなかった。


「おい、もしかしてあんたがここに魔物を呼んだんじゃないのか?」


何処からともなくそんな声が上がった。

根拠は一切ない妄言だ。

だが、本当の事が真実となる場合というのは意外と少なく、大概の場合は人々がそう思いたい、そうあって欲しいという事が真実となる。

ここにいる者達は皆クリストフを敵視しており、そしてその目は、今この場でクリストフの妹であるエリィに突き刺さっていた。

それらに対して、ルーシャが眦を鋭くするが、エリィが手で制して一歩前へ出る。


「信じてもらえないかもしれませんが、私はもう皇族ではありません。ただのエリィとして皆さんと一緒に戦わせてください」


そう言い、エリィは深々と頭を下げた。

皇族であるエリィがである。

それは冒険者達が思い描いていた、悪逆非道を尽くす皇族の姿とはかけ離れており、冒険者達は困惑の声を漏らす。

この皇女はクリストフとは違うのではないのかと。

それ程までに皇族が平民に頭を下げるというのはあり得ないことなのだ。

しかしそんな中、苛立ちを隠せず地面を蹴りつける人影があった。


「そんなのであんたの事を信じろってのかよ!?」


「お、おいソイル!」


「うるせえ、離せ!」


ソイルと呼ばれた少年は、ズカズカとエリィの前まで来て、唾を飛ばしながら怒鳴る。

流石にまずいと思ったのか、他の冒険者がソイルを止めようとするが、ソイルは引き下がらない。


「彼を放してあげてください」


なんと、エリィはソイルを止めに来た冒険者にソイルを放すように言う。

ソイルの目は血走っており、何をしでかすかわからないため大変危険だ。


「エリィ様!?」


「良いのですルーシャ」


エリィは一言ルーシャに言うと、目の前のソイルをその透き通った碧眼で優しげな微笑を浮かべて見つめた。

その聖女と見紛うほどの微笑みを至近距離で見たソイルはうっ、という声を漏らし一歩後ずさる。


「大丈夫かなエリィ……」


ステラが小さく呟く。

それに明確な答えを返すことは出来ないが、俺の口は知らず知らず言葉を紡いでいた。


「多分大丈夫じゃないかな」


「え?」


なんでそう思ったかって?

なんとなくだよそんなの。


本当はカリナを持っていることによって、ソイルから殺気が出ていないのを感じ取り、エリィが危ない目にあうことはないと判断したというちゃんとした理由があるのだが、その辺をよくわかっていないセイはなんとなくで片付けた。


「ソイルさんと言いましたか?」


「あ、ああ」


ソイルは顔を赤くして頷く。

その声に先ほどまでの怒りはなかった。


「では、どうすれば私のことを信じていただけますか?」


「〜〜ッ」


エリィの問いかけに対して、ソイルが言葉に詰まる。

怒りに任せて出てきたものの、具体的な事は何一つ考えてなかったのだろう。

それに何故だかわからないが……ソイルはもうあまり起こっていないように見える。

このまま平和的に解決しそうだ。


と、誰もがそう思っただろう。

だがその期待は裏切られることになる。


「じゃああんたが最前線に立って戦えよ!そしたら信じる!」


シーン、とあたりが静まり返る。

ここにいる全員が言葉を失ったからだ。

明らかにエリィは強そうじゃない。

そんなエリィに向かって2000という魔物の大群に先頭きって戦えというのは、言い換えれば死ねと言っているのと同じだ。

エリィの事をよく思っていなかったであろう冒険者達も、先程エリィが頭を下げたこと、またエリィの見た目が華奢な女の子ということもあってか、流石にそれは……という顔をしている。

当の本人(ソイル)も口を中途半端に開き、間抜けな顔を晒していた。


やってしまった、とそう顔に書いてあった。


まあ、このようにこの場にいるほぼ全員が、それはないと思ったわけですぐに冗談だと取り消せばよかったのだろう。

唯一の誤算はこれを冗談で済まそうとは考えなかった者がいた事、そしてそれが当事者であった事だろう。


「分かりました」


静まり返った広場にその綺麗な声はよく響いた。


流石にこれには俺の瞬きも止まる。

ナニヲイッテルンダコノオヒメサマハ?


「おいおい、流石にそれはマズイと思うが」


そんな声が近くで上がった。

おお、どうやら常識人がいたらしい。

これならこのエリィが最前線で戦うというおかしな流れもなんとかなるかもしれない。


「そこで俺に代案がある」


ん?なんだか雲行きが怪しくなってきたぞ?


そこで俺は声の主に目を向ける。

俺の視線を受けた常識人ことギルは、純粋無垢な子供のようなキラキラした目を返してきた。


あれ?嫌な予感しかしないぞ?


「エリィ皇女殿下の代わりに俺()が最前線に出よう。それで良いだろ?」


おお、ギルはかっこいいなぁ。エリィの代わりに自分が戦うなんて。それで達っていうのは誰のことを指しているのかな?まさか俺じゃないよな?ところでギルさん、このガッチリ組んだ肩を離してくれない?まるで俺が一緒に戦うみたいじゃないかハッハッハ。


「なあセイ?」


「聖剣の勇者様に助けてもらえるなんて光栄です!」


ソイル君の目がキラキラしている。

勇者とかに憧れる年頃なのだろうか。


やばい、どんどん逃げ場が封じられていく!

ステラッ!


俺は一縷の望みをかけてステラに視線を送ると、ステラと目があった。

ソイル君ほどではないが、ステラの目もそこそこキラキラしている。

普段どっちかというと死んだ目よりのステラの目がここまでキラキラしているというのは大変レアだ。

ステラの唇が滑らかに動く。


「セイ、頑張ろうね!」


ああ、こいつも肉食(せんとうきょう)だったわ。

こうして退路を断たれた俺は、エリィの代わりに最前線に赴くこととなった。

遅くなってごめんなさい。

……ごめんなさい(白目。


……面白いと思っていただければブックマークとか評価とか感想とかよろしくお願いします(乞食

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