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俺の相棒が素直じゃない剣について  作者: morito
2章 オーランド帝国
25/28

グロンズの街にて

「おお……」


思わず俺の口から感嘆の息が漏れた。

煙突を通ってあらゆるところから煙が上がっている。

耳をすませてみると、金属同士が打ち合う甲高い音が雑踏の中から聞こえてくる。


グロンズは別名こう呼ばれていた……鍛治の街と。



「この街には帝国でも有数の鍛治職人が集まっている。だから必然と冒険者が集まりやすい」


俺はルーシャの説明を聞き周囲を見渡す。

確かに武装した人が多い。

あれは皆冒険者なのだろう。


後は……ドワーフが多い。


「彼らは手先が器用だからな。鍛治を生業としている者が多いのだ」


どうやらドワーフと鍛治は切っても切れない関係のようだ。

イメージ通りだな。


俺達は今、冒険者ギルドに向かっている。

これまでの街はあまり大きくなくギルドが無かったため魔物の素材が溜まりに溜まっており、それらを売却するためだ。

ついでにスライムの依頼をやっと達成できる。


定番の盾の前で剣が交差している看板を発見し扉を開いた。

今までのギルドと比べても遜色ない大きさであり、流石冒険者が集まるというだけある。

俺たちはぞろぞろと受付嬢の下まで歩いた。

魔物の素材を肩に担ぎながら。


「あらあら、なかなか大量ですね。全て売却ですか?」


「ああ、そうだ。ついでにこれも」


魔物の素材と一緒にスライムの依頼書も渡す。

まあ魔物との戦闘は嫌ってほど体験したので全く達成感などはないが。


「スライムは……しっかり規定数討伐されていますね。他は全て売却と……これだけの量になると少しお時間を頂く事になるのですがよろしいですか?」


「時間ってどれくらいだ?」


「そうですね……明日の朝には終わっていると思います」


「明日か……」


思っとよりも時間がかかるな。


「別にいいんじゃないでしょうか」


そう言ったのはフードを目深にかぶったエリィだ。

ここまで来るとそれなりにエリィの顔をも知られているそうで、フードを取るわけにはいかないらしい。


「この街にはまだいるつもりですし」


「それもそうだな。じゃあ明日の朝また来ればいいか」


「では明日の朝お待ちしております」



俺達は受付嬢に見送られギルドを後にする。

エリィが全員外に出たのを確認して口を開いた。


「では、革命軍を探しましょう」


「と言ってもこの街は結構広いからな……。一体何処にいるんだか」


「その辺りは地道に聞き込みなどをして調査するしかないですね」


エリィ達の情報を頼りにここまでやってきたが、この街の何処に革命軍がいるのかまではわからない。

革命軍という名前もあまり出せないから慎重に調査を進めていく必要がある。

エリィの言う通り地道にやっていくしかないだろう。


「そうだな。固まっていてもあまり意味ないし、二手に別れるか」


俺の提案にみんな頷く。


俺、ギル、ステラ組とエリィ、ルーシャ組に別れた。

まあこれが自然だろう。


どうせ1日で終わるとは思っていないし、俺たちは先に宿をとって日が暮れる頃に集合することにした。


「じゃあ行くか」


「私達は街の西側を探しましょう」


「なら俺たちは東だな」


俺達は互いに健闘を祈り、街に繰り出した。


☆☆☆☆☆☆☆☆


大分建物の影が伸びてきた。

周囲の喧騒もずいぶん落ち着き、人もまばらになっている。


「今日はこの辺りで終了だな」


俺の言葉に対して、ギルは深くため息をつきステラは何処か疲れた表情を返した。

色々な人にそれとなく聞いて回ったが、有益な情報を得ることは叶わなかった。

エリィ達が何か良い情報を仕入れてくれていれば良いのだが……


俺達は集合場所にしていた宿に戻る。

宿の目の前まで来ると、道の向こう側から歩いてくるエリィ達を見つけた。


エリィ達も疲れた表情をしており、嬉しそうな様子はない。


「その感じだとあまり芳しくなかったみたいだな」


「ええ……セイさん達も?」


「ああ……」


誰からともなくため息が漏れた。


「本当にこの街にいるのか?」


ギルが思わずと言った風に呟く。

だがその言い方が良くなかったのだろう。

ルーシャがギルを睨んだ。


「なんだと……私達を疑っているのかッ!?」


「ああいや、そういう訳じゃなかったんだが……すまん」


「……いや、こちらもカッとなってしまった、申し訳ない」


微妙な空気が流れる。

それを見かねたのか、パンパンッとエリィが手を叩いた。


「ここに革命軍がいるのは確かです。それだけは……どうか信じてください」


「……何か根拠はあるのか?」


「……セイさん達には話しても構わないでしょう」


エリィが一つ小さく息を吐いた。

その仕草だけで、真剣に聞かなければという気にさせられる。

これが皇女のカリスマだろうか。


「私がまだ帝都にいる時、偶然聞いてしまったのです。グロンズに革命軍がいる事、そして……革命軍を潰すためグロンズに兵を送ろうとしている事を」


☆☆☆☆☆☆☆☆


「全部で銀貨4枚と大銅貨8枚になります。お確かめください」


翌日、俺は一人で冒険者ギルドを訪れていた。

昨日頼んでいた魔物を売却した分の金を受け取るためだ。

ちなみに他のメンバーは昨日に引き続き、革命軍捜索中である。


「ああ、確認した」


俺は欠伸を噛み殺しながら、金を受け取る。


昨日、エリィの話を聞いたせいでよく眠れなかった。

何故なら、まだ戦いは先だと思っていたからだ。

だがエリィの話を信じるのであれば、もう兵がここに向かってるのかもしれない。

つまりいつ戦いが始まってもおかしくないという事だ。

エリィの味方に着く以上その戦いは避けて通れないだろう。

そんな状況でぐっすり寝れるほど俺の神経は図太くない。


ちなみに大体銅貨5枚で宿に食事込みで一泊できるので、これだけあれば3ヶ月ぐらい暮らせる。

魔物のランクはそれほど高くなかったが、量が多かったのだろう、結構な大金だ。


「ありがとうございました!またお願いします」


受付嬢に頭を下げられながら、俺は冒険者ギルドを後にする。

すると冒険者ギルドを出た瞬間、ボフッと足に何かがぶつかった。


「ぐす……」


視線を下げると、涙で目を腫らした5歳くらいの女の子がいた。

突然の事態に若干混乱しながらも、俺は女の子に目線の高さを合わせるためにしゃがんだ。

日本にいた頃近所の子供の相手をよくしていたため、子供の扱いには割と自信がある。


「君、一体どうしたんだ?」


「お母さんが……」


「逸れたのか?」


「……うん。ひぐっ……」


「そっか……じゃあお兄ちゃんと一緒に探そうか。君、名前は?」


「……ユエル」


「ユエルか。よし、じゃあ乗って」


俺はユエルに背中を向ける。

こてんとユエルが頭を傾げた。

この態勢で伝わらなかったのだろうか?


「肩車だよ。探すなら高いところからの方がいい」


俺はユエルを安心させるために笑いかける。

ふと今の俺の姿を他のやつが見たらどうなるのかと思った。

ギルが見たらめちゃくちゃ馬鹿にされそうだ。

まあ、今は誰にも見られてーーー


(ぷぷっ……ん、んんダメよカリナ。セイは真剣なんだから。セイがあんな爽やかな笑みを浮かべるなんてもはやネタとしか思えないけど笑ったらだめ!)


(………お前わざとやってんだろ)


(あら、なんのことかしら。そんな事よりもユエルちゃんを助けてあげないと。ね、セイお兄ちゃん)


(……お前後で覚えてろよ……ッ!)


俺のこめかみに青筋が浮かぶが、鋼の理性で我慢してユエルを肩車する。


頭の上から感嘆の声が聞こえてきた。


「うわぁ……たかーい!」


「よし、じゃあユエルがどっちからきたか教えてくれるか?」


「うん!」


俺はユエルを肩車したまま、ユエルの案内に沿ってユエルがきた道を戻っていく。

あまり遠くじゃなければいいのだが……


「何してるのお兄さん?」


頭の上できゃっきゃと騒ぐユエルを落とさないように歩いていると、後ろから声をかけられた。


振り返ると茶髪の少年が立っている。

年齢は多分中学生ぐらいだ。

その少年は穏やかな笑みを浮かべていた。


「ユエルの知り合いか?」


「ううん、知らなーい」


ユエルの知り合いかと思ったが、どうやら違うらしい。


「僕はその子と何の関係もないよ。ただお兄さんが何をしているのか興味があっただけ」


……年の割に随分落ち着いた喋り方をするな。

この歳にある腕白さを全く感じさせない、何処か不思議な少年だった。


「この子が迷子らしくてな。母親を探してるんだ」


「なんだ……予想とは違ったなー」


「ん?どんな予想をしてたんだ?」


「幼女の股間に後頭部を埋めて興奮する変態かと思って」


「その見方は流石に捻くれすぎだろ!?」


なんて事言うんだ!?

ほらユエルが「股間……?」とか呟いてるじゃないか!

ユエルはそんなこと知らなくていい!


「ふふっごめんごめん。酷いこと言ったお詫びに僕も母親探し手伝うよ」


「……それは有難いが、そこまでしてくれなくても良いぞ?別に怒ってないし」


「僕も暇だからね。手伝わせて欲しいな」


「……なら頼もうかな」


「任せてよ。人探しは得意なんだ」


☆☆☆☆☆☆☆☆


「本当にありがとうございました!何とお礼を言ったら良いか……」


少年の人探しが得意というのは本当だったらしい。

すぐにユエルの母親を見つけてきた。

少年曰く、ユエルと同じような髪の色で辺りをキョロキョロしている女性に的を絞って探したらしい。

言われてみれば、なるほどといった感じだ。


女性に何かお礼をと言われたが丁重に断る。

俺もユエルといるの結構楽しかったしな。

最後にこちらに向かって大きく頭を下げると、ユエルを抱っこして女性は去っていった。

ユエルが肩越しにこちらに手を振ってきたので、俺たちも振り返す。


「助かったよ。俺だけだったらもっと時間かかってた」


「ふふっどういたしまして。それにしても、お兄さんは随分優しいんだね」


ユエルに向かって手を振るのをやめ、少年は俺の方を向く。


「その優しさは……本物かそれとも、」



ただの偽善か。



背筋がゾワッとした。

少年の雰囲気が変わったためだ。


先ほどまでは落ち着いていて穏やかな雰囲気だった少年。

だが今は……まるで氷のように、冷たく鋭い。


俺は思わず少年に対して一歩後ずさる。

しかしそれを知ってか知らずか、少年はスタスタと俺の目の前まで歩いてきた。


「お兄さん、ちょっとしゃがんで」


俺は言われた通りに少年と目の高さを合わせるようにしゃがむ。

何故かそれを拒むことは出来なかった。

いや、拒むという選択肢すら頭の中に無かったように思う。

少年の中性的な声は、俺の頭に染み込みその命令を実行させた。


「お、おい……」


少年は俺と鼻がくっつくほど近くまで顔を近づけた。

ガシッと俺の肩を掴み、俺の目を覗き込む。

心の奥まで見透かされるような気がした。


実際は数秒程度だったのだろうが数分のようにも感じる時間の後、少年は顔を離す。


少年がニコッと笑うと先ほどまでの雰囲気は霧散し、少年は再び穏やかな雰囲気を纏った。


「……合格」


「は?」


「君を……いや、君達を案内するよ」


「……案内って何処に?」


「やだなあ、決まってるじゃないか」


少年は笑い、両手を広げる。

まるで舞台で踊る道化師のように。


革命軍(ぼくたち)のアジトにだよ」

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