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俺の相棒が素直じゃない剣について  作者: morito
2章 オーランド帝国
23/28

出発

「私も行くから!」


少しほっとしてたんだ。

ここでお別れだと思うと。

このままだったら……いつか引き返せなくなっていたから。


「セイを守る!それが、」


やめてくれ。

もうこっちに来ないでくれ。


「私の正義ッ!」


パリンッと薄いガラスのようなものが割れる音がした。

気が付くと、その黒髪の女の子は俺の目の前まで歩み寄っている。


俺はカリナやステラ、ギルなどこの世界の人に対してどこか壁を作っていた。

俺はこの世界の異物であり、いつか元の世界に帰るのだから。

その時に悲しくないように、辛くないように。

必要以上に仲良くならなくていい。

知らないうちに別れて、気づかないうちに忘れている。

そんな関係でいいんだ。

それなのに、


なんでこの子はこんなに近くにいるんだろう。


「セイ……泣いてるの?」


ぼやけた視界でステラの顔が歪んでいる。

そうか、俺は泣いているのか。

胸が熱い。

熱くて熱くてたまらない。

身を焦がすようなこの熱を俺はどうしたらいいのか。


「よしよし」


頭の上に小さな手が置かれた。

小さな掌だけど、その温もりは嫌って程に伝わってくる。


「どうして……そんなに心配してくれるんだ」


「セイは魔法が使えなかった落ちこぼれの私を救ってくれたから」


穏やかな笑みを浮かべるステラの顔は、涙越しでもすごくきれいだった。


「だから今度は私がセイを助けるの」


「それはカリナが……」


「もちろんカリナにも感謝してる。でもそれはセイがいたからだよ。だからね、」



ありがとう。



ああ、その言葉は反則だろ。


☆☆☆☆☆☆☆☆


「すまない。見苦しいところを見せた」


「いえいえ、お二人の強い絆を感じました」


ステラがありがとうとか言うから涙腺が崩壊したのか、涙がドバドバ出てきて落ち着くまで時間がかかった。


今は少し落ち着いてきたので、俺はエリィ達に謝罪した。

ていうか、こんな酒場(ところ)で話すことじゃなかった気がする。

俺とステラのやり取りを見ていたルーシャはズーッという音を立てて鼻をすすり、エリィはハンカチを目に当て、ギルは目頭を押さえていた。


なんで全員泣いてんだよ。


周りがしんみりしている中、ステラだけはころころと笑っていた。


やばいどうしよう。

ステラの顔が見れない。


恥ずかしさ……ではないと思う。

しかしステラの顔を見ると、なぜか頬が熱くなった。


「では話を戻しましょうか」


全員が落ち着いてたのを見計らって、エリィが口を開く。

このままだと俺の思考が明後日の方向に行きそうだったからありがたい。


「で、結局どうすんだよ」


ギルが酒の入ったジョッキを傾ける。


こいつ本当に酒好きだな。

今ここにいる中で酒を頼んでいたのはギルだけだ。

ルーシャも若干呑みたそうにはしていたが、真剣な話の場だと判断したのか自重したらしく羨ましそうにギルを見ていた。

そんなに頼みたければ素直に頼めばいいと思うが。


「どうするって?」


「嬢ちゃんの事だよ。連れていくのか?」


ステラの方をちらっと見る。

ステラもこちらを見ていたため目が合った。

何か気恥ずかしくて俺はさっと目を逸らす。


どうだろう。

付いて来てくれたら嬉しいと思っている自分は確かにいる。

だがそんな危険な場所に本当に連れて行ってもいいものか。


「……よし決めた」


全員の注目が俺に集まる。

俺は全員の顔を見渡した。


「ガルク達に相談しよう」


ズコッという効果音がぴったりリアクションをステラとギルが取った。

一方でエリィ達はキョトンとしている。

ガルクの事を知らないからだろう。


(……情けない奴)


(う、うるさい)


ため息交じりに呆れているカリナの姿が脳裏に浮かんだ。


☆☆☆☆☆☆☆☆


俺たち一行は酒場を出て、宿屋に向かった。

家々は煌々と夕焼けに照らされており、もうすぐ夜の漆黒に包まれるだろう。

部屋の明かりがついていた。

どうやらガルク達はもう帰っていたようだ。

人数も多かったから男用と女用で二部屋取っていたのだが、二人とも男用の部屋にいた。

流石にこの人数は入りきらないので、エリィ達には隣の部屋で待ってもらおう。

ちなみにギルにもあっちに行けというのはさすがに酷だと思ったのでギルはこっちにいる。

何故エリィ達が付いて来ているのかというと、さっきまでいた酒場で明日の朝に集合することにしようとしたのだが、当然のごとく二人は宿をとっていなかったためどうせだから付いて来たというわけだ。

狭くてもいいなら女部屋に泊まれるしな。

金は後で払えばいいだろう。


俺たちは人数分の椅子がないので床に腰を下ろし、ガルク達に今までのことを話した。

するとガルクが目頭を押さえて呻く。


そりゃそうだよな。

可愛い一人娘が危険な場所へ行きたいだなんて言いだしたんだ。

泣きたくもなるだろう。


「ジル……」


「ええ、あなた……」


「初めてステラが俺たちにお願いを言ってくれた……」


「いやそこかよ!」


全然泣いてるポイント予想と違ったわ!

ていうか今までお願い言ったことないとか、ステラ良い子だな!


「お父さん、お母さん。私どうしてもセイが心配なの。だからセイと一緒に行かせてほしい」


ガルクは腕を組み、瞑目したまま黙ってステラの言葉を聞いた。


「……セイはどう思っているんだ?」


そのままの態勢でガルクは尋ねる。

その声に動揺などは一切なく、全く感情が読み取れなかった。


「俺は……付いて来てほしいと思っている。これは俺のわがままだ。ガルク達は納得できないかもしれないけど俺は---」


「いいぞ」


「え?」


「いやこれはこちらから頼むべきだな」


ガルクは身体ごとこちらに向き直り、そのまま大きな頭を下げる。

後ろでジルも同じように頭を下げていた。


「セイ、ステラを連れて行ってやってくれ」


「あ、ああ。いや頭を上げてくれ。頼んでいるのこっちなんだ。俺はステラを危険な場所へ連れて行こうとしているのに……」


「ステラが傷つくのは嫌か?」


「当たり前だろ!」


「ならお前が守ってくれ」


「は?」


「ステラ自身が行くと決めたんだろ?それなら俺らに言うことはない。お前が無理やり連れて行こうとしてるならぶっ飛ばすけどな。それでもステラが心配だっていうならお前がステラを守ってくれ」


「……もし守り切れなかったら?」


「その時はその時だ。めちゃくちゃ泣いて悲しむが、お前を恨むことはない。仕方のないことだ」


「仕方のないことって……」


大事な一人娘が死ぬかもしれないのに仕方ないってなんだよ。

それでいいのかよ。


俺はこれまで俯きがちだった顔を上げ、ガルクの顔を見た。

そこには真剣な顔をした一人の父親がいた。


「俺は知り合いの死をたくさん見てきた。旅の途中で魔物に殺されたやつ、戦争に行ったきり帰ってこなかったやつ、他にも色々だ。仕方ないんだよ。誰も死にたくて死ぬ奴なんていない」


そうか、ここは地球とは違う。

街の外には危険がいっぱいある。

いつ死んでもおかしくなのだ。

ここでは命の重さが……ひどく軽い。


「わかった」


だけど、仕方ないで済ましたくなんかないよな。


「絶対帰ってくる。ステラと一緒に」


「……ふっ頼んだ」


ガルクと俺は男臭い笑みを浮かべる。


「それでこれからガルク達はどうするんだ?」


「ん?そうだなあ。話を聞く限り帝都には行けねえしな。どうすっかな……」


ガルクが太い眉を寄せて唸った。


「サグラダで宿屋やればいいんじゃないか?」


ここまで傍観を決め込んでいたギルが初めて口を開いた。

宿屋か……


「親父たちはもともと宿屋をやってたんだろ?」


「ああ。だが金や場所がな……」


「なら最初は料理人として雇ってもらえばいい。親父の料理は美味えからな」


「なるほどその手があったか。ちょっとここで雇ってもらえないか聞いてくるか」


そういうと、ガルクは立ち上がって部屋を出た。

どすどすと階段を下っていく音が聞こえてくる。


行動早いな。


数十分後、再びドスドスという音が階段から聞こえてくる。

どうやら帰ってきたようだ。


「ずいぶん遅かったじゃないか。何してたんだ?」


「ああ、軽いテストをされたんだよ。何か一品作ってくれってな」


「なるほどな、結果はどうだったんだ?」


「フッフッフ、どっちだと思う?」


質問に質問で返すな。

あとそのドヤ顔をやめろ、イラッとするから。

いい歳こいたおっさんがすることじゃない。

ケモ耳は……もう諦めた。


「ああ合格したんだな、その反応でわかった」


「ちっなんだよ、面白くねえやつだな」


ちなみにジルも宿屋で働いていたということで給仕として雇ってもらえるらしい。

良かった良かった。

何でもサグラダの宿屋は帝国だけではなく他国からも多くの人が来るため常に忙しく、人手が足りていないそうだ。


話も終わったので、エリィ達を呼びに行く。

ここに泊まるかどうか話したところ、今から宿を探すのも骨だから泊まらせてもらえるなら泊まりたいそうだ。

宿泊者数が増えたことを宿側に伝え伝えるため、一階の受付まで行く。

ついでにそのまま食堂で晩飯を済ませてしまおうという話になった。


俺を先頭にみんなで食堂に入る。

入口付近で空いている席を探していると、ガルクが宿の従業員に連れていかれた。

少しでも人手が欲しいそうで、どうやら今日からもう仕事を始めるらしい。

ジルもそれを見て、フフッと笑った後厨房に入っていった。


その時丁度席が空いたのでそこに座る。

メニューを見ると、オークの肉だとかファンタジーの定番みたいな食材もあったが、何がいいかわからなかったので、適当におすすめを頼んだ。

それを皮切りに各自好きなものを頼んでいく。


少しの間雑談していると料理が運ばれてきた。

運んできたのはなんとジルだ。


ああ、この感じちょっと懐かしい。

一週間も経っていないのにな。


俺がこの鶏肉みたいなやつおいしいなって思っていると、ステラからポイズンフロッグという名前のカエルの肉だと聞いて、いろんな意味で不安になる一幕もありつつ俺達は食事を終えた。

エリィ達の口に合うか少し心配だったが、美味しそうに食べていたし大丈夫だろう。


悲鳴を上げながら汗だくになって働いているガルクを後目に俺たちは部屋に戻る。


「明日の朝にはすぐ出発したいのだが、いいだろうか?」


部屋に戻ってすぐ、ルーシャが申し訳なさそうに言う。

自分たちの都合に突き合わせるのが心苦しいのだろう。

そんなこと気にしている場合じゃないであろうに。


「そうか、なるべく早い方が良いもんな」


「俺は構わないぞ」

「私も大丈夫だよ」


全員大丈夫なようだ。

それなら早速準備しなきゃだな。


「ふう……初日から疲れたぜ」


俺たちが明日の準備をしていると、仕事を終えたガルク達が戻ってきた。


その表情には疲れの色が見えるが、同時にどこか楽しそうな様子だった。


「なんだか楽しそうだな?」


「そう見えるか?俺は人間と一緒に仕事するってのが初めてだったんだが、獣人の俺でも対等に扱ってくれるんだ」


「みんな良い人達なので、明日からも働いていけそうです」


ガルクもジルもここの職場が気に入ったらしい。

ガルク達のことは心配なさそうだな。


「そうか、それは良かった。俺たちは明日の朝にはもうこの街を出るつもりだ」


「明日か?ずいぶん急だな」


「さっき少し話したんだが、できるだけ早く行動したほうが良いだろうってことでな」


「なるほどな。なら今日は早く休んだ方が良いな」


「ああ、悪いがそうさせてもらう。……悪いな、これからステラとしばらく会えないってのに」


「ああ?別にこれが最後ってわけじゃないだろ、どっかの誰かが守ってくれるんだから。……任せたぜ」


「ははっ任された」


絶対生きてここに帰ってこよう。

俺は改めて強くそう思った。


☆☆☆☆☆☆☆☆


「じゃあ行ってくるね」


「おう、行ってこい。あ、ちょっとセイはこっちにこい」


家族の別れのシーンを邪魔してはいけないと思い遠巻きに見ていると、ガルクが俺に向かって手招きをしてきた。

いったいどうしたんだろうか?


「昨日は言わなかったが、お前もちゃんと無事に帰って来いよ。ステラだけ帰ってきても意味ないからな」


俺がガルクの近くまで行くと、ガルクは俺の肩に腕を回しながら耳打ちする。

俺はガルクの言葉に目を丸くした。


「……なんだよ?」


「ふっ、ははははっ」


俺の顔には自然と笑みが形作られる。

まさかガルクからそんなことを言われるとは思ってなかったな。


「ありがとうガルク。絶対帰って来る」


「……ふっならいい」


俺とガルクは大きさの違う拳をぶつけ合った。


「王都からここまで本当世話になった。この礼は帰って来てから必ずするよ。……じゃあ行ってくる」


「ああ、またとびきりうまい酒を奢ってくれや」


俺達はガルク達に見送られてグロンズに向かって出発した。


すみません、サグラダでの話が思ったよりも長くなってしまいました。これから戦闘シーンを増やしていく予定です。

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