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俺の相棒が素直じゃない剣について  作者: morito
2章 オーランド帝国
22/28

自分の覚悟

「でも良いのか?そんなにペラペラ喋って」


「どういう事だ?」


「俺たちをそんなに信用して良いのかって事だ。もしかしたら帝国と裏で繋がってるかもしれない」


俺達は取り敢えず2人をサグラダまで送るため、草原を街に向かって歩いていた。

俺の問いに対して、一瞬顎に手を当てたルーシャが口を開く。


「ふむ。忠告してくれるのは有難いのだが、セイ達の事は既に信用しているからな」


「何でだ?一度助けただけだろ?」


「それだ。君達が帝国と繋がっているなら私達を助けるはずがないんだ」


「ん?魔物が馬車を襲ったのを助けただけだぞ?どこが帝国と関係あるんだ?」


「うーん……君達は聖具って知ってるかい?」


「聖具?」


「フィーリア王国だと聖剣がそれに当たるな」


首を傾げた俺を見かねたのか、ギルが教えてくれる。


「その通りだ。そして帝国にも聖具はある」


「帝国の聖具っていうと確か……」


「聖鞭」


「え?」


それまでずっと黙って聞き役に徹していたエリィが突如呟いた。


別に声を荒げたわけでもなく先程までと同様の落ち着いた声音だったが、その中には様々な感情が見え隠れしていた。

だけど多分、その中で一番強いのは、


「聖鞭フラゲルムデイ」


憎しみだ。


☆☆☆☆☆☆☆☆


「魔物を操る!?」


それは驚くべき事なのかギルが大声を上げる。

慌てて口を塞ぎ辺りを見渡すが、幸いなことに昼間から酒を煽って騒いでいる奴の声でかき消されたのか、特に注目を集めた様子はない。


俺達はサグラダの街まで戻ってきた後、しっかり話し合うため酒場を訪れていた。

聞かれたくない話もあるだろうが、こんな所にいる奴は自分たちが楽しむ事しか考えておらず、他所の話など興味ないだろうという判断だ。

ちなみにドレス姿のままだと、流石にエリィが目立ちすぎるので、前のステラと同じような頭まですっぽり入るフードを被っている。

逆にステラはもう耳を魔法で隠せるので、フードはしていない。


「てことは、襲ってきた魔物は操られてたって事か?」


「その通りだ。魔物の種類を考えて貰えばわかると思うが、本来リザードマンは岩場に生息する魔物で、あんな平原のど真ん中にいるのはあり得ない。操られていたと考えるのが自然だ」


「でもどうやって?」


「それが聖鞭の力です」


ルーシャの話をエリィが引き継いだ。

なんだろう、聖鞭の話をする時だけ様子が違う気がする。


「聖鞭フラゲルムデイはあらゆるモノを操ることが出来るのです」


「聖鞭……ん、ちょっと待て。あらゆるモノ?魔物だけじゃないのか?」


「ええ」


「おいおい……まさか」


「そうです。操れるのは魔物だけではなく、」


エリィは其処で一度言葉を切ると、吐き捨てるようにこう言った。


人間(・・)もです」


俺は開いた口が塞がらなかった。


「洗脳みたいなモノか?」


「いえ、そんな生易しいモノではありません。条件は分かりませんが、一度操られると自分の意思と関係なく命令に従うだけの人形と化します」


「な……」


どんなに強くても操られてしまえばそれで終わりってことか?

そんなの対抗しようがあるのか?


「アレを手にしてから兄は変わってしまった。私は兄を……そして帝都を元の姿に戻したいのです」


「………」


沈黙が場を支配した。

聖鞭……その能力は、あまりにも趣味が悪すぎる。


「これから……あんた達はどうするんだ?」


「グロンズに向かうつもりだ」


「グロンズってサグラダと帝都のちょうど中間にある街だったか?」


「そうだ」


グロンズの場所についてギルが補足を入れてくれる。

この世界の地理なんてさっぱりな俺には大助かりだ。


「何でまた?」


「革命軍がグロンズを根城にしているという情報があるのだ」


「なるほど、だがあんた達はクリストフ陛下から敵視されているんだろ?今帝都に近づくのは危なくないか?」


「その事なんだが、本来陛下はエリィ様に国外追放を命じられたのだ。しかし先程襲われたことを考えると、国境付近まで来たところで抹殺しようと考えていたのだろう。実際あの時の護衛の数は、いかに追放するからとは言っても少なすぎたしな。だから今頃エリィ様は亡くなったと思われているはずだ。その隙を突こうと思う」


「今ならまだ希望はあるって事か」


「ええ。それに今日もう一つの希望を見つけました」


何故かエリィの白銀の双眸が俺を捉えた。


「エリィ様、それは!」


「私達とともに来てくださいませんか、セイさん?いえ、聖剣の勇者様」


俺は軽く目を見開く。

一度もその事はエリィ達に言っていない。


「……なんでわかったんだ?」


「フィーリア王国から聖剣に選ばれた者が逃げ出したという話は聞いていました。恐らくオーランド帝国に来るであろうという事も。特徴として聞いていた黒髪、そして何よりもその金色の剣。貴方が聖剣の所有者だと判断するには充分です」


「……なるほど」


「私は死を覚悟していました。魔物に襲われた時、恐らく私はここで死ぬのだろうと。けれど、もしこの命が潰えなかったら、ここが私の死に場所でないのなら、私はその命を帝国のために捧ぐと決めました。帝国を元に戻すためなら何でもします。全てが終わった後、私を慰み者にしても構いません。どうかそのお力を私達にお貸しください」


「エリィ様!?」


そう言ってエリィは深く頭を下げた。


「やめて!」


机を叩き、突然声をあげたのはステラだった。

瞳に涙を溜めたその表情には、怒りとそしてどこか怯えの色が見えた。


「これ以上……セイを……危ない目に合わせないで!」


俺はハッと息を呑む。

俺がギルとの闘いで怪我をした事が尾を引いているのだろう。

思っていた以上にステラに心配をかけていたみたいだ。


「ありがとな、ステラ」


「セイ?」


俺はポンっとステラの頭に手を置く。

少女の温かさが掌を通じて伝わってくる。


「でも……悪い」


「え?」


「俺は力を貸そうと思う」


俺の言葉を聞いてステラは顔をくしゃっと歪める。

その顔を見て、少しだけ心が痛んだ。


「……どうして?」


どうして……か。

エリィ達に恩を売ることが出来れば、これから色々役に立つだろうという打算はある。

だけど、俺が力を貸すって決めた理由はそれだけじゃない。


「昔さ、俺の爺ちゃんが言ってたんだ」


「セイの……お爺さん?」


「ああ」


セイよ。

これから先、お前は沢山間違うだろう。

だがな、セイ。

間違える事は決して悪い事じゃない。

人は間違える事で成長できるのだから。

だから間違いを恐れるな。


「自分の正義を貫け。そうすればきっと、いつかそれがお前を助けてくれるって」


そう、だから。


「助けてあげたいって思っちゃったんだ。俺の手の届くところなら手を伸ばしたい。もしここで逃げたら、多分後悔すると思う」


ステラは黙りこくって俯いてしまった。


折角心配してくれたステラを傷付けてしまった。

果たしてこの選択は間違いだったのだろうか。

でも一度決めた事だ。

ここで立ち止まったらそれこそステラに失礼だろう。


「ギルはどうする?危険だろうし、ここで別れてもーー」


「何言ってんだよ」


ギルはやれやれといったように首を振った後、ニィッと口角を上げる。


「そんな面白そうな所、行かないはずないだろ」


あ、そういえばこいつ戦闘狂だったな。

俺と闘う時も滅茶苦茶楽しそうだったし。

ギルは問題ないか。


(カリナは大丈夫か?)


(はぁ、あんたも相変わらずね。たかが剣に意見求めてどうすんのよ。どうせ私はあんたから離れられないんだから好きにすれば?)


(ありがとな)


(ふん………どういたしまして)


(ん?なんか言ったか?)


(な、何でもないわよッ!)


うわ、びっくりした!

なんだか知らないけど、頭に響くからあんまり念話で怒らないで欲しい。


さてと、


「ステラ……ごめん」


俺は出来る限りの誠意を舌に乗せる。


「………分かった」


どうやら納得してくれたらしい。

でもこれでステラには嫌われてしまったな。

ガルクから仲良くしてくれって頼まれたのに、申し訳ない。

寂しいけど……ここでステラとはお別れだ。


「……ステラ、今まで色々……」


「………くから」


「え、今なんて?」


「私も行くから!」


「な、何言ってるんだよ!ステラをそんな危険な場所に連れて行けるわけーー」


「セイだって私が危険だって言ってるのに行こうとしてるじゃない!自分の正義があるからって!なら!」


ステラは声を荒げて叫ぶ。

荒れ狂うほどの感情が俺の全身に叩きつけられた。

心が揺さぶられる。

体の芯から熱い何かが込み上げてくる。

気がつくと、俺の頰を伝うモノがあった。


なんで………そんなにも。


「セイを守る!それが、」


私の正義ッ!


俺を真っ直ぐ見据えるステラの眼には、燃え滾るような覚悟の光が揺らめいていた。

神話や伝承から武器の名前を借りていますが、実際の武器とは全く関係ないので、能力などに違和感を覚える方もいらっしゃるかもしれませんが、ご了承下さい。

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