初依頼!
「ハァァァァッッ!!」
裂帛の気合いと共に俺が振るった木剣が空気を切り裂いた。
「……ふぅ」
「ふぅじゃねえ。素振りじゃねーんだぞ」
「いってえ!?」
ゴチンッという音の後、頭の周りを星が回る。
俺の頭に拳骨が落とされたためだ。
拳骨の主であるギルは、腰に手を当てながら呆れたように溜息をついた。
俺はこの村に来てから、暇な時ギルに剣術を教わっている。
ちなみに王都での戦いで負った傷はほとんど完治した。
本当に魔法様様だな。
俺が剣術を教わろうと思い立ったのは、この世界には危険が多いと感じたからだ。
魔物であったり、時には人を相手にする時もあるだろう。
確かに今のところカリナがいれば問題はないのだが、何が起こるかわからない。
俺一人でも戦えるようになっておいた方が良いだろうと思ったわけだ。
それに俺も一応男だし、カリナに頼りきりは情けないだろ?
「仕方ないじゃないか、俺は初心者なんだし」
「その初心者に負けたこっちの身にもなれ」
「だからあれはカリナが凄いんであって、俺の力じゃない」
「はぁ……まあいい。そうだな、セイは………っと、この話は後にするか。どうやら準備できたらしい」
ギルの視線を辿っていくと、黒髪の女の子がこちらに向かって手を振っていた。
「セイー、もう出発するよ!」
「おー、わかった!」
怪我も治り、この村に滞在する理由がなくなった俺達は、色々世話になった医師に礼を言ってから、村を出発した。
☆☆☆☆☆☆☆☆
「へぇ、ここがサグラダか。流石に王都ほどじゃないけど、結構賑わってるんだな」
「言うなれば、ここはオーランド帝国の玄関口だからな。そりゃ賑わうさ」
村を出た俺達は、当初の目的地であったサグラダに来ていた。
宿屋に荷物を置いた後、とりあえず依頼の報告のため冒険者ギルドに向かう。
「それにしても……」
ギルドに向かって歩きながら、俺は辺りを見渡す。
「いろんな種族がいるな」
そうなのだ。
王都ではあまり見かけなかった異種族が至る所にいる。
ステラみたいな獣人はもちろん、ファンタジーの定番のエルフ。
美男美女ばかりで、耳が尖っている。
ギル曰く、あいつらに魔法を使われたら死ぬ、だそうだ。
剣士にとっては、近づく前にやられてしまうから苦手意識があるらしい。
他には、ずんぐりとしていて小柄なドワーフ。
その厳つい見た目に反して、とても手先が器用で物作りが得意な種族だそうだ。
他に珍しい種族だと、身長が俺のニ倍以上ある巨人族や、竜の鱗を持つ竜人族などがいた。
日本人の俺からすると、色々な種族が歩いているのはなかなか壮観である。
「帝国は、軍事力で勢力を拡大してきた国だからな。その過程で色んな種族を取り込んだのさ」
「なるほど……」
「お、ここだな」
ギルのためになる話を聞いていたら、冒険者ギルドに到着した。
王都のギルドほどではないが、なかなかに立派な建物だ。
扉をあけて中に入ってみると、大体の構造は王都と変わらない。
種族の多さは段違いだが。
「とりあえず並ぼうぜ」
「ああ」
今は少し正午を過ぎたぐらいの時間帯だが、ギルドの受付は結構混んでいた。
今から依頼をこなしに行く者や、数日かけて依頼をこなしてきた者など様々だ。
色んな種族の人達がいるから、見ているだけで結構楽しい。
「はい、次の方〜」
おっと、どうやら順番が来たようだ。
「はい」
「本日はどのようなご用件ですか?」
俺達の相手をしてくれたのは泣きぼくろが特徴的な、とにかく色気がすごいお姉さんだった。
首元から覗く、その罪深い深淵から目を反らせない。
「ふんっ!」
「いぃッ!!!」
俺の脇腹に突如激痛が走った。
ステラが思いっきりつねったためだ。
だからどうやってんだよその威力!?脇腹抉られたかと思ったわ!
ちょっとガルクさん!御宅の娘さんどんどん暴力的になってますよ!躾がなってないんじゃないですか?
「ほう……?ステラ……なかなか良いつねりだ」
良いつねりってなに?
「うん……。ずっとお父さんの背中を見てきたから」
え、なにここってそんな親子の絆みたいな場面じゃなくない?
「ふふふっ」
ほら受付のお姉さんにも笑われてるじゃないか。
全く……恥ずかしいからやめてくれ。
え?胸ばっか見てるお前も十分恥ずかしいだろって?
フッ、男ってそういうもんだろ?
……ごめんなさい。
「失礼いたしました。それでは改めて、本日はどのようなご用件でしょうか?」
「指名依頼の達成報告をしにきました」
「まあ、指名依頼ですか。カードと依頼達成書を提示して頂けますか?」
「はい」
「ふむふむ。ルザマリナからサグラダまでの護衛ですね。はい確かに確認しました。あら?セイさんはまだFランクなのにもう指名依頼を……。将来有望なんですね」
「いえ、そんな事は……っ!?」
なんとお姉さんがカードを返すのと同時に、俺の腕や手のひらをペタペタと触ってきた。
女性に触れられるのに慣れていない俺の心臓は、ドキドキと心拍数を上げーーー
「……セイ?」
はい、至って正常値です。
シュンってなりました。
あの、ステラさん怖いから、すっと俺の脇腹に親指と人差し指を当てるのやめてもらってよろしいですか?
「クスクスッ」
堪えきれずといった様子で、お姉さんが笑いをこぼす。
この人わざとやってない?
「はい、確認致しました。依頼達成おめでとうございます。新たに依頼を受けられますか?」
依頼か……王都では色々あったから一回も受けれなかったんだよな。
「ちなみにどんな依頼があるんですか?」
「そうですね……セイさんはまだFランクですので、採取系だとヒールクローバーの採取、討伐系だとスライムの討伐などがあります」
スライム……定番って感じの魔物だな。
うーん、どうするか………。
「討伐系にしなさいよ」
俺が悩んでいると、カリナが髪をいじりながらそう言う。
ちなみに今のカリナは人状態である。
「何でだ?」
「あんた強くなりたいんでしょ?だったら実戦を経験するべきだわ」
「でもそういうのってこう……基礎を固めてからとかじゃないのか?」
「まあ、普通はね。でもあんたは別よ」
「別?」
「説明するのはめんど……難しいわ。やってみればわかるから、さっさと依頼を受けてスライム狩りに行くわよ」
「おい、今面倒臭いって言いかけなかったか?」
「よーし、しゅっぱーつ」
「聞けよ!」
「俺も良いと思うぜ」
「ギル?」
「スライムは魔物の中で一番弱い部類に入る。いくらセイが雑魚だっつっても流石に勝てるだろ」
「おい、事実でも言っていい事と悪い事があるって教わらなかったのか?」
「じゃあ早く言われないよう強くなれ」
「ぐぬぬ……はぁ」
まあ話を聞く感じ、危険は少なそうだ。
なので、
「その依頼受けます」
俺はこの依頼を受けることにした。
☆☆☆☆☆☆☆☆
俺の最終目的は地球に帰ることだ。
どうすれば帰れるのか。
帰るために何が必要なのか。
そもそも帰る方法が本当にあるのかさえわからないが、まだ諦めるには早いだろう。
帰る方法を探すためには、色々なところへ行って情報を集めなければならない。
王都のギルドで聞いた話によれば、ランクを上げることで本来入れない場所にも入れるようになるらしい。
重要な情報というのはそういう場所にこそあるものだ。
当面の目標は、情報収集とランク上げ、後は強くなる事だな。
そのうちカリナやステラに事実を打ち明ける日が来るのだろうか。
ただ異世界人というのがこの世界でどんな扱いを受けるのかわからない。
いつかは言わなければいけないと思うが。
俺はそんな思いを抱えながら、ギルとステラ、後ついでにカリナと街から徒歩30分程のだだっ広い平原に来ていた。
一見長閑な場所だが、スライムはここで出現するらしい。
まあ最もスライムを怖がる人なんて殆どいないのだが。
ちなみにガルクとジルは今日泊まる宿屋に荷物を置いた後、食材などの買い出しに行った。
サグラダに長くは滞在せず、すぐに帝都を目指すらしい。
だからもしかすると、サグラダで受ける依頼はこれが最初で最後になるかもな。
「お、いたぞ」
この中で一番背の高いギルが、遠くにスライムの姿を見つけた。
俺たちはバレないようゆっくり近づく。
だいぶ近くまで来た。
スライムっていうから、どんな見た目をしてるのかと思えば、丸い身体にくりっとした目、ポヨンポヨンと跳ねる姿はとても可愛かった。
ギルによると、その可愛さからペットにしてる貴族もいるらしい。
専門の店で魔物紋というのを刻めば、主人を攻撃できなくなるそうだ。
俺も欲しいかも……。
まあでも今はそうも言ってられない。
スライムを倒さなければ、依頼達成にならないのだから。
俺は仕方ないとそう自分に言い聞かせる。
「カリナ、剣に戻ってくれ」
「あ、ちょっと待って」
せっかく覚悟を決めたのに、カリナに待ったをかけられる。
どうしたんだ一体。
「ステラ、ちょっとこっちにきて」
「ん?なに?」
カリナは少し後ろに下がっていたステラの側まで行きなにやら話し始めた。
スライムにバレないよう小声で話しているため、俺の位置からだとなにを話しているのかわからない。
「なにを話しているんだろうな?」
「さあ」
ギルと二人でその様子を不思議がっていると、カリナがスタスタとこちらに歩いてきた。
どうやら話は終わったらしい。
「なにを話してたんだ?」
「まあ見てのお楽しみってやつよ」
カリナは勿体ぶるように、悪戯っ子のような笑みを浮かべそう言う。
なんだか自信ありげだな。それなら見せてもらおうじゃないか。
ステラが俺たちより一歩前に出る。
少し不安がっているような顔で一瞬こちらを振り返るが、カリナが強く頷くとステラは徐に掌をスライムに向けた。
「火の精霊よ、我は乞い願う。炎精の裁きを今ここに!」
あれ、どうしてだろう冷や汗が止まらない。
ステラの掌でなんだか凄いエネルギーが渦巻いているように見える。
え、あれ絶対やばいよな?
「イフリートフレアッ!」
「ピギィーーーッッ!!!」
スライムを中心に10メートル程の火柱が迸った。
スライムの悲鳴が聞こえ、ゴウッという音とともに俺たちを熱風が襲う。
余りの熱量に肌が焼かれる気がした。
俺は思わず顔を両腕でガードし、熱風を耐える。
「お、終わったか……?」
熱を感じないことを確認し、恐る恐る顔の前から腕を退ける。
先程までスライムがいた場所は、光景が一変していた。
ブックマーク、評価してくださった方ありがとうございます。大学の方が忙しく、あまり書く時間が取れませんが、少しずつでも書いていきますのでこれからもよろしくお願いします。




