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佐々木和夫は妻の洋子と味気ない単調な毎日を送っていた。
「あなた、今夜はアジフライでいいですか?」
「ん」
「お帰りは何時頃に?」
和夫から洋子への返事はない。呆れた様子で洋子は質問を変える。
「飲みに行かれるご予定などはありませんか?」
「ん」
「じゃあ、遅くなるようなら連絡くださいね」
「ん」
子供が独立するまではもう少し張り合いもあった気がするが、このところはもう妻との会話も同じような事の繰り返しで、ただただ億劫なだけのものであった。
和夫は洋子の問いに同じ言葉で答えるのみであった。台所から、給湯器のほうがおしゃべりだわと洋子の呟きが聞こえたが、新聞を広げてコーヒーをすする和夫の耳にはおそらく届いていないだろう。
「そうだ。今度の日曜、部下の結婚式だから頼む」
「わかりまし、た。でももう少し早くおっしゃってくださいね」
「ん」
こんな夫婦のもとにある日一通のハガキが届いた。この日も和夫はいつものように、エントランスのポストから取り出した郵便物の薄い束をエレベーターの中で何気なく眺めていた。
――何だ?
エレベーターを降りる直前、郵便物を繰る和夫の手が止まった。
「ご当選のお知らせ? なんだこりゃ」