トイレインポッシブル
どうしてあの時こうしなかったのか。誰だってそう思う事はあるだろう。今まさに俺はその状況にある。
授業中だがもの凄くウンコがしたい。朝からケツは俺に警告していたのに。こうなる事は分かっていたのに。悔やんでももう遅い。今はこの状況を抜け出す方法を選ぶしかない。
危機的にウンコをしたい時に抜け出す方法 その1
・カミングアウトする
一般的にはカミングウンコと呼ばれている。一番オーソドックスなパターンだ。これなら割とスムーズにウンコに行けるし、一部の男子からは何あいつ堂々とウンコ行ってる!という尊敬の眼差しで見られる事もしばしばある。だがしかし、勿論メリットがあれば反対にデメリットもある。手を上げてウンコに行く時点でかっこ悪いのだ。
これから俺ウンコ出して来ます。と言って行くようなもんなのだからカッコがつく訳がない。教室から抜け出した後の開放感は凄いらしいが、空いた席を見て他の生徒はどう思うだろうか。間違いなくウンコしてるそいつを想像するだろう。マイナスイメージこの上ない。そして、帰ってきた時に注目を浴びるのも恥ずかしい。カミングウンコはリスクが高いウンコに行く方法なのだ。
危機的にウンコをしたい時に抜け出す方法 その2
・ひたすら我慢する
一歩間違えば地獄に落ちる茨のロードである。一般的にはDRUと呼ばれている。もし成功すればノーダメージだ。何事もなかったかの様に日常を過ごせるであろう。あぁ、あんな時もあったねといつか笑って話せる日も来るだろう。とにかく成功すれば幸せになれる方法なのだ。
では逆に失敗した場合どうなってしまうのか。これはもう想像するだけで恐ろしい状況になるだろう。ウンコを漏らせば周りはドン引き。名前はウンコ~になり、卒業までずっとウンコイジり、まるで汚物を見る様な目で見られ、暗黒期に突入するのは避けらないであろう。殆どの人がこの失敗を恐れ、途中でカミングウンコしてしまうのが現状である。
危機的にウンコをしたい時に抜け出す方法 その3
・仮病を使う
体調が悪いと嘘をつき、教室から抜け出てウンコをする方法である。一般的には仮病ウンコと呼ばれている。この方法は上手くいけば、一番リスクが少ない方法として知られている。前もって咳をする等して、カモフラージュをかましとけば効果は抜群だ。あれ?あいつマジで体調悪いんじゃね?と周囲に思わせれば、もはや勝ったの同然。安心してウンコに行けるだろう。
しかしこの仮病ウンコにも当然リスクはある。それは付き添い人の存在だ。保健室行きとなると、大体誰かが付き添うのがお決まりだろう。わざわざ自分がウンコする為だけに、付き添せる罪悪感。真面目な人間程こういう行為は許せないのである。
それに付き添い人が良い奴になるか分からないし、教師が保健室に行かしてくれるかどうかも不明だ。教師にあと少しだから頑張れなんて言われただけで、肛門が決壊する恐れもある。なので、もし仮病ウンコをやる場合教師は優しい奴なのが第一条件なのである。
危機的にウンコをしたい時に抜け出す方法 その4
・あえて漏らす
かなりリスクの高い方法である。一般的には自爆テロウンコ、略してテロウンと呼ばれている。このテロウンはまずウンコを漏らし、その後すぐに何か臭くね?と自ら言い、他の奴に罪とウンコをなすりつける残虐非道な行為である。やるにはかなりの勇気と演技力と逃走力が求められる。もし失敗した場合はDRU以上の制裁を受ける可能性が高く、成功率は1%にも満たない。なのでやる人間は殆どいない。
以上、この4つの方法のどれかを俺は今すぐやらなくてはいけない。まずテロウンは論外だ。周囲に迷惑は絶対にかけたくない。同じ理由で仮病ウンコも却下だ。俺のウンコごときで授業が聞けなくなるなんて駄目だろ。悪いのは朝ウンコしてこなかった俺だしな。で、残るはDRUとカミングウンコだが、DRUが出来るならそもそも困ってすらいないし、漏らすと言う行為だけは絶対にしてはならない。よって、今俺がやるべき事は決まった。カミングウンコ、キミに決めた!
決意はした。後は先生に言うだけだ。勇気を出せ!皆、ウンコぐらいするし、腹痛くなる時だってある。よしっ!行くぞ!!
「先生!ちょっとお腹が痛いのでトイレに行って来て良いですか?」
「あぁ、田中。行って来なさい」
言った・・・凄く言いたかった事を・・・隣の席の田中が。俺がしようとしていたカミングウンコを先にやりやがった。あああああああああああ。冷静を装ってるが、頭はパニックだ。どうしようどうしようどうしよう。ここは田中に便乗すべきか?いや、あいつら仲良くウンコ行くんかと思われるのは嫌だ。ウン友とか絶対言われる。でも、俺のケツはもう耐えれそうにない。こんな事になるならもっと早くカミングウンコしとくべきだった。クソおおおおおおお!
「もういっその事、漏らしちゃえよ。テロウンしようゼ」
そう頭の中で悪魔ケツが囁く。
「駄目よ!人を巻き込んじゃ駄目。貴方自身も後悔する事になるわよ」
天使ケツが理性取り戻そうとしてくれている。
「何だよ、お前は!良い子ぶんじゃねぇ。そもそもコイツがこうなってるのは田中のせいじゃねぇか。全部悪いのは田中だ。だから田中のせいにして漏らせ」
そうだそうだ。田中さえいなければこうはならなかった。もっと言えばクラスメイトさえ居なければ、先生さえ居なければ、気を使わずにウンコに行けたんだ。悪いのは・・・お前らだ。
「いっけえええええええ!!」
「待ってよ!貴方自身思ってたじゃない!周りには絶対に迷惑かけたきないって。あの時の気持ちはどうしたのよ!それにね・・・ウンコは絶対にトイレでした方が気持ち良いんだからああああ!目を覚まして!」
「ハッ!」
忘れていた記憶が蘇る。確かにそうだ。トイレに駆け込んでするウンコの解放感。あれに勝るのはそうない。俺はそんな単純な事すら忘れていたのか。自分の愚かさに涙が出た。あの解放感を味わえるなら少しの恥など屁でもない。今屁をこいたらヤバイけど。
「先生!」
「チッ!」
「分かってくれたのね」
「何だ、松田。どうかしたのか?」
「先生。俺もちょっと腹痛いのでトイレに行って来ても良いですか?」
「何だ、お前もか。早く行って来なさい」
「はい」
教室から出る時に女子から少し笑われた気がするが、俺は気にしなかった。今からウンコが出来る喜びが全てをどうでもよくした。俺は喜びを噛み締め小走りでトイレに向かった。
トイレに入り、慌ててズボンを下ろす。ブリブリブリとウンコが出た。その時の快感といったらもう、正に昇天するかの様だった。
「フゥ・・・」
全てが終わった筈だったが、終わっては無かった。
「・・・」
俺は言葉を失った。紙がない!マジかよ、これは終わったと腹をくくって靴下を犠牲にしようとした時、希望がまだあった事に気付く。
「おい、誰か入ってんのか?そっち紙ないだろ?」
田中だ!奴がいた事には気付いていたが、まさか救いの手を差し伸べてくれるとは。
「あぁ、悪いけど紙投げてくんない?」
「分かった」
そう言うと田中は紙を投げ入れてくれた。
「サンキュ」
「気にすんな」
ほんとありがとう田中。そして少しでも恨んで悪かったな。俺たちずっとウン友だよ。