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第87話「覇王、部下のメンタルケアをする」

 ──ショーマ視点──




「ご苦労だったな。プリム」

「…………」

「さすが我が辺境が(ほこ)る『翔軍師(しょうぐんし)』だ。キャロル姫の話を聞いてから10日も経たぬうちに、ちゃんと保護してしまうとは」

「…………」

「やっぱり大切なのは、知識と人脈なんだろうな。旅商人のメネスとすばやく連絡を取って、獣人たちを国境近くに配置するなんて、なかなかできることじゃない」

「…………」

「キャロル姫はシルヴィア姫のところに送り届けたし、あとで俺も交えて会談をすることになってる。もちろんプリムも同席を……って、あのさ」

「…………はい。我が王」

「……なんか怒ってないか?」

「……怒ってなどおりません。それより、ひとつおうかがいしてよろしいでしょうか」

「いいよ」

「キャロル姫を発見したとき、彼女たちが妙な小屋から出てきたという報告が入っているのですが、お心当たりはございますか?」

「あれかー」

「しかも、キャロル姫の侍女、ケイトさんのお話によると、小屋の中で寝ている間に移動した気がするそうなのですが。あと『ヘイホッ。ヘイホッ』というかけ声を聞いたとか」

「そっかー」

「……王は事情を、ご存じなのですよね?」

「前に話しただろ? 『キャロル=グルトラ・ホイホイ』について」

「うかがいました。詳しいことは……聞くとなんだか負けたような気になりそうなので、がまんしましたが」

「あれは『意思の兵』で小屋を造って、『グルトラ太守領』近くの森に配置しておくという作戦だったんだよ」


 俺は説明をはじめた。


 俺とユキノがいた世界では『白雪姫』や『ヘンゼルとグレーテル』というお話があること。

 それは、道に迷った主人公が、森の中にある小屋に「うっかり」入ってしまうものであること。

 だから現実でも、誰かに追いかけられてる旅人が安全な小屋を見つけたら、そこに誘導できるかもしれない、と考えたことを。


「だから国境近くの森や、街道沿いに『意思の兵』で造った小屋を、いくつも配置しておいたんだ。辺境も『キトル太守領』も結界に入ってるから、『意思の兵』は時間制限なしで動かせるだろ?」

「……そう、ですね」

「だから(へい)たちには、キャロル姫っぽい人たちが小屋に入ったら、小屋ごと安全な場所に移動させるように指示を出しておいたんだよ。もちろん、キャロル姫本人の意思を尊重する感じでな。それが『キャロル=グルトラ・ホイホイ』作戦なんだ」

「…………うぅ」

「で、でも、プリムが素早く獣人たちを展開してて助かったよ。そうじゃなかったら、小屋ごとシルヴィア姫の城まで移動しなきゃいけないところだった……って、だからなんで涙目になる!?」

「……軍師なのに……わたくし、軍師なのにぃ」


 プリムはちっちゃな身体を震わせて泣きだした。


「どうしていつもいつも、王はわたくしの先を行っちゃうのですかぁ!? 王に軍師はいらないのですかぁ? ふぇ、ふぇぇぇぇぇん」

「いや、だからプリムが獣人を森の側に配置してくれたから、スムーズに姫さまを保護できて……」

「ふぇぇぇぇぇ……」

「だから……」

「…………」

「あーもう。こっち来い」


 俺はプリムのちっちゃい身体を引き寄せた。

 子どもをあやすみたいにして、その白い髪をなでる。


「プリムはちゃんと役に立ってるから」

「……本当ですか……我が王」

「ああ。俺が立てる作戦ってのは変なものが多いからな、知恵袋のプリムに、ちゃんとフォローしてもらう必要があるんだ。プリムは我が軍にはなくてはならない存在だよ」

「…………はい」

「わかったら泣くな。な?」

「……我が王」

「うん?」

「……『翔種覚醒(しょうしゅかくせい)』状態でなでていただいても構いませんか?」

「……いいけどさ」


 人を使うのって大変なんだな……。

 歴史上の名だたる王様たちも、こんなふうに配下のメンタルケアをしてたんだろうか。


「『異形(いぎょう)覇王(はおう)の名において、翔種覚醒(しょうしゅかくせい)』!」

「偉大なる『異形の覇王』の配下の名において──『翔軍師(しょうぐんし)覚醒』いたします!」


 俺の背中に翼が、プリムの背中にも、真っ白な翼が生まれた。

 プリムはせがむように、俺の前に翼を差し出した。


「……そういえばハーピーって、強い翼を持つ人に翼をなでられるのが好きなんだっけ」

「はい。わたくしもハーピーですから。本能は同じです」


 俺が翼をなでると、プリムはくすぐったそうに笑った。

 それから、満足したように目を細めて──


「そういえば鬼族には、強い人に角をなでてもらいたがる習性があるようですね」

「ああ。そういえばそうだった」

「竜の血を引くお方にも、同じような習性があるのでしょうか?」

「あるかもしれないな」

「王の世界のお方は……やはり『魔』の文字を書いてもらったところをなでてほしがるのでしょうね」

「……プリム。なんの話をしてる?」

「いえ、さっきから部屋の外で、リゼットさまとハルカさまとユキノさまが、順番待ちをしていらっしゃいますので」

「……はい?」


 俺は部屋の入り口を見た。

 うっすらと開いたドアの向こうで、リゼットとハルカとユキノが、じーっとこっちを見ていた。

 ……そういえばみんなで打ち合わせをする予定になってたな。


「ショーマ兄さま」

「……どうしたリゼット」

「シルヴィア姫さまが、会談の準備ができたとおっしゃっておりますが……リゼットたちが角をなでてもらうまでの間、お待ちいただいてもいいでしょうか?」

「……ごめん。それはさすがによくないかな……」

「では、リゼットたちの分はあとで?」

「…………そうだね」


 じーっとこっちを見つめるリゼットとハルカとユキノに、俺はうなずくしかなかったのだった。





 ──キトル太守領 首都の城で──




 キャロル姫が、『キトル太守領』の森で保護されてから、数日後。

 太守領の首都にある城では、シルヴィア姫を中心とした会談が行われようとしていた。


 参加者は、シルヴィア=キトル姫、キャロル=グルトラ姫と侍女のケイト。

 オブザーバーとして、辺境の王ショーマ (俺)と、軍師プリムが参加することになった。


「レーネス姫さまは、いらっしゃらないのですか?」

「姉は……『辺境の王』が苦手なようでして……」


 シルヴィア姫は申し訳なさそうに、俺の方を見た。

 ……いや、悪いのはこっちなんだけどさ。

 レーネス姫と模擬戦(もぎせん)をしたとき、他の兵士ごと『意思の兵』で狭い空間に閉じ込めてしまったことがあったからな……。

 それから彼女は、俺や『意思の兵』がトラウマになってしまったようだ。ほんとごめん。


 ここは、キトル太守領首都にある城の、応接室。

 俺たちは四角いテーブルを囲んで集まっている。


 窓を背にした席に座っているのは、シルヴィア姫と、記録係の少女。

 その右側にいるのが、キャロル=グルトラ姫と、侍女のケイト。

 さらにその正面にいるのが、俺とプリムだ。


「まずは……お礼を言わせてくださいませ、『辺境の王』さま」


 不意にキャロル姫が立ち上がり、俺に向かって頭を下げた。

 桜色の、ウェーブのかかった髪を揺らして、キャロル姫は顔を上げ、俺を見た。


「シルヴィア姫さまからうかがいました。グルトラ太守領の追っ手を、『辺境の王』さまが食い止めてくださったことを」

「あれはただの偶然だ。気にしなくていい」

「その偶然がなければ、私たちはキャロル姫のことを知ることもなかったのですけれど」


 シルヴィアは目を輝かせて、俺を見てる。


「私は『辺境の王』に、グルトラ太守領の兵と盗賊のことを伝えるつもりだったのですが……王はあっさり、情報を手に入れてしまわれましたね」

「弟のトニアは……盗賊(とうぞく)狩りを名目に、『キトル太守領』に兵を入れたのですね。本当に……おろかなことを」


 キャロル姫はため息をついた。


「……盗賊役(とうぞくやく)の者もキトル太守領に入りこんでいるのでしょうか」

「そうだな。いたな(・・・)。キャロル姫から2時間くらいの距離のところに」

「……え?」

「あのままだと追いつかれていただろう。危ないところだった」


 ハーピーたちから報告を受けている。

 盗賊役の兵士たちも、確かに『キトル太守領』に入り込んでいたのだ。

 おそらくは村を襲いながら、キャロル姫の行方を探り出すつもりだったのだろう。


「その者たちは、どちらに?」

「街道にそれっぽい小屋を置いといたら引っかかったから、閉じ込めておいた」


 あいつらキャロル姫がいないか確かめようとしたんだろうな。

 中に入ってきたところを、『意思の兵』が出入り口をロックしたらしい。

 具体的には変形して、出入り口のない完全な箱形になったそうだが。


「今ごろは、小屋ごと手近な(とりで)のところまで移動してるんじゃないかな?」

「小屋ごと!?」

「敵は大急ぎで運ぶように言っといたから、かなり揺れたと思うが……たぶん、生きてるだろ」

「……はぁ」


 うちの(へい)たち、結構ノリノリだったからな。大丈夫だろうか。


「それでは、お話を聞かせていただけませんか、キャロル姫さま」


 こほん、と、せきばらいしてから、シルヴィアが言った。


「あなたが危険を冒してまで、城を出て、ここまで来られた理由を」

「……はい。シルヴィア姫さま」


 キャロル姫は、ドレスの胸を押さえた。

 深呼吸して、それから、意を決したように口を開く。


「あなたのお父上、アルゴス=キトルさまと、姉上のミレイナ=キトルさまは、我が領土で幽閉(ゆうへい)されております」

「……え」


 空気が、凍り付いたようだった。

 シルヴィア姫の顔色が真っ青になり、表情がこわばる。

 それを辛そうに見つめながら、キャロル姫は続ける。


「本来、キトル太守さまと我が父グルトラ太守は協力して『十賢者』を討つ予定だったのです。けれど……我が弟が裏切ったのです。その上、我が領土を経由して『キトル太守領』に戻ろうとしたアルゴスさまとミレイナさまを捕らえ、塔に閉じ込めたのです」

「……父さまと……姉さまを」

「弟のトニア=グルトラの目的は、『十賢者』と共に、この『キトル太守領』を奪い取ることにあります。あたくしも半ば軟禁(なんきん)状態におりましたが、このケイトの協力で、ようやく城を抜け出すことができました」


 キャロル姫は立ち上がり、シルヴィアと俺に、順番に頭を下げた。


「あたくしは愚かなる弟と『十賢者』の野望を打ち払い、シルヴィア姫のお父上と姉君を救い出したいのです。どうか、お力を貸してはいただけないでしょうか」


 キャロル=グルトラ姫はきっぱりと、そんなことを告げたのだった。

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