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第79話「覇王、『伏兵』で敵を倒す」

 ──ショーマ視点──





『キトル太守領』の魔法陣を再起動した、翌日。

 俺はシルヴィア姫のところに、状況報告にやってきた。


「と、いうわけで、キトル太守領内で変な噂を流しているのは『大柄な商人』と『黒いローブの男性』、それと『謎の獣人の集団』だそうだ」


 ここはキトル太守の城の、応接間。

 俺はテーブルを挟んで、シルヴィア姫と向かい合っていた。


「獣人は亜人だが、辺境とは関係がない。獣人はプライドが高く、鬼族やハーピーとはそりが合わなかったそうだ。現在はどこにいるかわからない。信じていただけるだろうか、シルヴィア姫」

「もちろんです」


 シルヴィア姫はうなずいた。


「『辺境の王』がわざわざ届けてくださった情報を、誰が疑いましょうか」

「よかった。辺境のことを誤解されては困るからな」


 俺はテーブルの上のティーカップからお茶を飲んだ。

 そういえば廊下でレーネス姫とすれ違ったっけ。

 あいさつはしたんだけど、返事はなかった。それと、なんだか震えていたような……。


「貴重な情報、感謝いたします。すぐにその商人と仲間についての注意書きを回しましょう」

「お願いする」

「正直、ここまで協力していただけるとは思っていませんでした」


 シルヴィア姫は肩の力を抜いて、はぅ、と息をついた。


「あなたが同盟者でよかったです。本当に」

「そう言ってもらえると俺もうれしい」

「こちらこそ。あなたほど頼りになる方は他にいらっしゃいません」

「そうか。それで、これが奴らが出没した町と村に印をつけた図になるんだが」

「ちょっと待ってください!!」

「……なにか問題でも?」

「どうしてこんな図をお持ちなのですか?」

「その辺の町と村で聞き込みをして作ったからだ」


 あの後、空から地上を見て、村の位置を適当に書き込んだ。

 さらに、旅商人のメネスと連絡を取って、彼女たちの情報ももらった。

 その結果できあがったのが、この『キトル太守領 不審者出没(ふしんしゃしゅつぼつ)情報図(じょうほうず)』だ。


「敵がまだ現れていない場所は、この城を除けば8か所ある。西側に集中しているようだ」

「『遠国関(おんごくかん)』近くの村と町については考えなくてもいいでしょう。あそこは将軍ヒュルカが管理する場所で、駐屯(ちゅうとん)している兵も多いですから」

「敵としても、手を出しにくい場所ということか」

「ええ。となると、残りは5か所ですね」


 だいぶ絞れたけど、まだ多い。

 敵が律儀に、すべての町や村を回るとは限らない。適当なところで手を引く可能性もある。

 その前に捕らえて、敵方の情報を引き出したい。


 本当なら、同盟者としての俺の仕事はもう終わってる。

 だけど亜人──獣人が出てくるなら話は別だ。


 このまま獣人が暴れ回ったら、人と亜人の対立にまで発展する可能性がある。

 そしたらせっかく落ち着いてきた辺境とキトル太守領……下手をすれば人間の領域とのトラブルになる。その前に、なんとしても黒幕を捕らえておきたいんだ。


 俺は指先で町と村の位置を確認する。

 たしか、このあたりにも魔法陣があるはずだ。

 その魔法陣を復活させると、ここから先は結界の範囲内になるから……。


「……シルヴィア姫に提案があるのだが」

「なんでしょうか、『辺境の王』」

「数日の間、姫がこの城を離れることは可能か?」

「……そうですね」


 シルヴィア姫は、少し考えてから、


「2日か3日くらいであれば、私がいなくても大丈夫でしょう。レーネス姉さまのお仕事が、少し増えることになりますが」

「ではその間、シルヴィア姫ご自身で、村を回られるというのはどうだろうか?」


 俺は言った。


「姫の直接のお言葉を聞けば、村のものたちも安心するだろう。怪しい者たちの噂話(うわさばなし)も、効果が薄くなるはずだ」

「なるほど」

「というのは建前で、本当はシルヴィア姫にはおとりになってもらいたいのだ」

「…………私がおとりに?」


 シルヴィア姫が目を見開いた。

 驚くのも無理はない。

 普通だったら怒られてもおかしくない提案だ。


「辺境の王よ! 我が妹をおとりに使うとはどういうことだ!?」


 ──って、本当に怒られた!?


 振り返ると、レーネス姫がドアを開けて立っているのが見えた。

 え? なに? ずっとドアの外で聞いてたのか!?


「い、いかに恩義のある『辺境の王』とはいえ、我が妹を危険にさらすというのは──」

「レーネス姉さま。落ち着いてください」

「いや、言葉の通り。シルヴィア姫には、敵をひきつけるおとりになってもらいたいのだ」


 俺は言った。


「敵はこの『キトル太守領』を荒らすために入り込んでいる。人々を不安にさせる噂を流したり、兵士を襲ったりしているのはそのためだ。そいつらがシルヴィア姫が城を出たことを知ったら、どうする?」

「……私を、狙うでしょうね」

「そこを捕らえる」

「……わかります。辺境の王」

「シルヴィア姫には、まだ敵が手を出していない村を回ってもらうのがいいと思う。敵が現れる確率が一番高いところだ。効果はあると思う」

「貴公の作戦には無理があるぞ、『辺境の王』よ!」

「おっしゃりたいことはわかる。レーネス姫」


 俺はレーネス姫の方を見た。


「敵もこれが誘いの罠であることはわかるはず。だから、姫のまわりを兵士が固めていては手を出してこない。しかし兵の数が少なければ、シルヴィア姫を危険にさらすことになる……ということだと思うが?」

「……そ、そうだ」

「姉さま。今は非常時です。危険はあっても、敵を捕らえることを優先するべきでしょう」

「もし父さまとミレイナ姉さまが戻らなければ、次の領主にふさわしいのはお前だ! おとりになるのなら私だろう!?」

「じゃあそれで」


 俺が言うと、ふたりの姫君はぽかんとした顔になる。


「俺としては、シルヴィア姫とレーネス姫、どちらでも構わないのだ。それに、姫たちを危険にさらすつもりもない。襲撃者(しゅうげきしゃ)には伏兵(ふくへい)で迎え撃つつもりだ」

「兵を伏せる……か、なるほど」


 レーネス姫は応接間の(たな)から地図を取り出し、広げた。


「これから行く村のまわりは平地だが、離れたところに森がある。そこに兵を伏せておいて、敵が来たら迎え撃つということだな?」

「いや、もっと見つかりにくい場所で伏せる」

「もっと見つかりにくい場所、だと!?」

「作戦をお伝えする。おふたりとも、それを聞いてから判断していただけるだろうか」


 そうして、俺はシルヴィア姫とレーネス姫に、作戦を話した。

 原案は俺。

 まわりの地形の知識を加えてアレンジしたのはプリム。

 さらに現地視察して、俺とリゼットとハルカで最終調整をした合作だ。


「……いかがだろうか。シルヴィア姫、レーネス姫」


 作戦内容を話したあと、俺は2人に問いかけた。

 まずシルヴィア姫がうなずき、それからレーネス姫が首を縦に振る。


 採用決定だった。





 ──数日後──





「村人たちよ。レーネス=キトル姫が、皆に語りかけるためにいらっしゃったぞ!!」


 馬車を囲む兵士たちが叫んだ。


 ここは、キトル太守領の東にある村のひとつ。

 レーネス=キトル姫は数名の兵を引き連れてここに来た。

 村人に語りかけることで、彼らの動揺(どうよう)(しず)めるためだ。


「はじめてお目にかかる。村の者たちよ。レーネス=キトルである!」


 レーネス姫は、馬車の扉を開けた。


 村人たちから「おぉ」と歓声が上がる。


 ドレス姿のレーネス姫は馬車を降り、兵士たちの壁の後ろに立つ。

 後ろは馬車。まわりは兵士。さらに馬車の後ろにも兵士が控えている。

 兵士に化けた俺も含めて、計6名。

 これが、姫を護衛するのに不自然じゃない、最低限の人数だそうだ。


「父、アルゴス=キトルの不在により、皆は不安に思っていると思う。また、近隣の太守や無法なる者たちが、この領土を狙っているという噂もあろう」


 レーネス姫は、村人たちの顔を見ながら、ゆっくりと語りかけていく。


「だが、わがキトル太守家は宰相(さいしょう)大臣(だいじん)将軍(しょうぐん)輩出(はいしゅつ)した名家だ。このようなことでゆるぎはしない! たとえ強敵がいようとも、民の生活をおびやかすことは決して許さない! このレーネス=キトルの名において、民を守ることを約束しよう!!」

「おお!」「レーネス姫さま!」「姫さまぁ!」

「これから我々は、村のまわりにいる魔物の討伐(とうばつ)に向かう。お前たちの平和はこのレーネス=キトルが守る。どうか、落ち着いて生活してくれるように!」


 歓声(かんせい)が上がった。

 さすがキトル太守家の姫君。カリスマ性があるな。

 村人たちはすっかり聞き入ってる。


 俺は横に立つリゼットにめくばせする。

 俺と同じように、兜をかぶって兵士に化けた彼女は、首を横に振ってる。

『大柄な商人』も『黒いローブの男性』も獣人も、この村にはいないようだ。


 レーネス姫のスピーチは続いている。

 感極まった村人たちは、全員で拍手喝采(はくしゅかっさい)だ。

 この分だと、変な噂を流す奴が来ても影響はないだろう。


 このまま残りの村を回りきれば、村人を動揺させようとした敵の作戦は失敗ということになるが……どうなるかな。


「──ということだ! 安心して暮らすがいいキトル太守領の民よ! 栄光と勝利は我々の元にある! なにか問題があったら正規兵に話すがいい! 可能な限り、お前たちの声を取り上げると約束しよう!! レーネス=キトルの名にかけて!!」

「レーネスさま!」「キトル太守領万歳!!」「姫さま!!」

「また会おう! 我らが民よ!!」


 そしてレーネス姫は馬車に入り、扉を閉めた。

 馬車がゆっくりと進み出す。


 村の外へと進む馬車を、村人たちが追いかけてくる。

 全員、満面の笑みを浮かべている。


 ここは中世的な封建社会(ほうけんしゃかい)だからな。領主の娘が民に語りかけるなんて、一生に一度あるかわからない一大イベントだ。興奮するのも無理ないよな。


 あとは、このまま次の村に向かえば──


「…… (ちょいちょい)」


 突然、窓越しにレーネス姫が俺を手招きした。

 馬車の扉を半分開けて──これは、入ってこい、ってことか?


 村からは離れたから、いいか。

 俺は兵士姿のまま、馬車に乗り込んだ。


「……『辺境の王』よ」


 座席に座ったレーネス姫が、じっと俺を見ていた。

 涙目だった。


「お見事だった。レーネス姫よ」


 俺は『覇王モード』で言った。


「私はあなたを誤解していたかもしれない。あなたは、立派な姫君だ」

「…………」

「村人たちもこれで安心したことだろう。いや、村の伝説になるかもしれない。領主家の姫君が、自ら民に語りかけたのだからな。たいしたものだ……」

「…………」

「……レーネス姫?」

「こ、こわかったよぉおおおおおおおおっ!!」


 ぽろぽろぽろぽろっ。


 レーネス姫が泣き出した!?


「わ、わたしが。姫君のわたしが。たった数名の護衛だけで民の前に立ったのだぞ!! いつ矢が飛んでくるかわからない状態で! こ、こわかった。こわかったよおおおおお!」

「……あなたは以前、兵士を率いて戦ってなかったか?」

「それは話が違う!」

「そうなのか?」

「武器を取って突撃するときは、我を忘れているから安心なのだ。だが、武器もなしに民の前に立って……語りかけることがこんなに怖いとは……しかもなんだ? あの文章は!?」

「我が弟子と軍師に作ってもらったんだが、なにか?」


 あのスピーチは、ユキノとプリムの合作だ。

 プリムは現実処理能力は高いけど、文章に華やかさがなかった。

 だから書き終わったあとで、ユキノにアレンジしてもらったんだ。


「なんなのだ!? 大陸北方に咲く可憐なる3つの花とは!? シルヴィアが白きたおやかな花で、わたしがきりりと咲き誇る大輪の花とか!! 3つの花──つまり3人の姫君が協力すると敵軍も真っ青になって空を飛ぶとか、そんな話は聞いていないぞ!!」

「申し訳ない。俺もチェックしたのだが……」


 うっかり見逃してしまったらしい。

 しょうがないよな。だってかっこいいんだから。


「だが、これで村の人たちも落ち着いたはずだ」


覇王口調(はおうくちょう)』に戻して、俺は言った。


「レーネス姫は充分に役目を果たされたと思う。村には兵士も配置してあるのだろう?」

「あ、ああ。数名な。剣と(よろい)を隠して、商人に化けてはいるが……」

「だったら問題ない。次の村に行こう」


 俺は馬車の窓を開けた。

 馬車は東に向かって進んでいる。村からはかなり離れた。

 振り返っても、もう村の姿は見えない。


 しばらくは草原が続いてる。

 だけど、もう少し行くと、左手に森が見えてくる。敵が隠れているとしたらあそこだろうな。


「俺は姫の護衛に戻る。馬車は俺たちが守るから、姫はこのまま進んでくれ」

「だ、大丈夫なのだろうなぁ!?」

「ああ。兵を伏せておいたからな」

「……『辺境の伏兵』──か。あれもすごくこわいんだぞ!」

「では、また後ほど」


 俺は馬車を降りた。

 馬車の中からはなぜか「ひぃえええええええ! こわいよおおおおお!」って声が聞こえてくる。声が高い。敵に気づかれるぞ。


「リゼット。状況は?」

「まもなく、プリムさんが言っていた場所につきます……いえ、来ました。敵です!!」


 リゼットが森を指さした。

 思ってた通りだ。


 森の中から騎兵が現れて、まっすぐこっちに向かって来る。

 先頭には大柄な兵士と、ローブを着た男性がいる。おそらくあれが、変な噂を流していた連中だろう。

 レーネス姫が来ることを聞きつけて、攻撃に来たか。

 さらに背後には、獣人たちが続いている。騎兵30。獣人数名、ってところだ。


「リゼットは馬車を頼む。俺はここで敵兵を食い止める」

「気をつけてくださいね。兄さま」

「大丈夫。ここまでは計画通りだ」


 俺ひとりを残して、馬車は先に進んでいく。

 この先には川がある。

 橋を渡れば次の村が見えてくる。そこまで進めば安全なはずだ。


「おろかなことよ!! キトル太守領の姫君が、のこのこと出歩くとはな!!」


 騎兵の先頭で、男性が叫んでいる。

 ローブの男性は無言だ。身振りで、背後にいる騎兵と獣人たちに指示を出している。

 獣人たちの表情は見えない。まるで機械のように無表情に、武器を手にしてこっちに向かってくる。


「異形の覇王の名において──『竜種覚醒(りゅうしゅかくせい)』!!」


 俺は移動速度が速い『竜種覚醒』を起動して、敵に向かって走り出す。


「ばかめ! ひとりでなにができる!?」


 騎兵たちは俺を無視して、レーネス姫を追いかけようとする。

 けれど『竜種覚醒』した俺は騎兵よりも速い。逃がさない。

 奴らの進路を(ふさ)ぐように、全速力で疾走する。


「ええい! 面倒な!! まずはこいつを殺せ!!」


 先頭の騎兵が叫んだ。


「そのままレーネス姫を捕らえるのだ! ゆけい!!」

「「おお!!」」


 騎兵が俺の方に向かって来る。





挿絵(By みてみん)





 まずは俺を踏み潰すことにしたらしい。


 ……さすがにこわいなー。しかも、結構相手の動きが速い。

 まっすぐこっちに向かって来る騎兵って、かなりの迫力だ。


 でもこの草原は、俺の伏兵の勢力下なんだけどな!


「我が兵よ姿を現せ!! 敵を討て!!」


 俺は腕を振り上げ、叫んだ。

 そして──




『『『ヘイ──────────ッ!!』』』



 草地に伏せていた『意思の兵』が、勢いよく起き上がった。






挿絵(By みてみん)





「「「「「なにぃいいいいいいいいいっ!!!」」」」」



 ごろん。

 ぽっとん。



 突然目の前に現れた(へい)を避けられず、敵の騎兵(きへい)は地面に転がる。

 よし、伏塀(ふくへい)による奇襲(きしゅう)、成功だ。


「な、なんだこれはああああっ!?」

「地面に板が……いや、石壁か!? これは!?」

「なんでこんなところに、こんなものがあああああっ!!」


 敵は全員ヨロイを着ている。

 こっちを一斉に倒すためにか、重武装(じゅうぶそう)だ。


 だから馬から転げ落ちたあとは、みんな手足を押さえてうめいてる。

 まあ、全力疾走(ぜんりょくしっそう)中に落馬したら、骨折くらいするよな……。


「しかし……まるでモノリスの森みたいになったな」

『ヘイっ』『ヘーイ』『ヘィリィ!』


 なにもなかった草原には、十数個の『意思の兵』が立ち並んでいる。

 全員、さっきまで地面に伏せて、土をかぶってた。

 敵がレーネス姫を襲うならこのポイントだと思ったから、ヘイを伏せておいたんだ。


 俺は数日前からここに『意思の兵』を寝かせて、土と草をかけておいた。

 レーネス姫が来る日の朝には、村人に化けて魔力を補給した。まわりから見れば、ピクニックに来てるようにしか見えなかっただろうが。


「ぐぉお!?」「ぐがぁ!?」「ぎぃああああ!?」


 落馬した兵士たちは、地面に転がってうめいている。

 無理もないよな。全速力で走ってるところで、いきなり地面が盛り上がったんだ。受け身も取れなかっただろう。

 大柄な騎士も、ローブの男性も動けない。

 動けるのは、背後を走っていた獣人たちだけだ。


「な、なにをしている! 我が敵を、敵を殺せ!!」

「────我が主人の命に従え」


 大柄な兵士が叫び、ローブの男性がそれに答えた。

 ぶわ、と、どす黒い魔力のようなものが、あふれだす。


 獣人たちの背後には、影のようなものが浮かび上がってる。彼らは全員無言で、無表情だ。

 まるで見えない糸で操られているかのように、全速力で俺の方に向かって来る。


「やっぱり、黒魔法か……」


 あのローブの男性が怪しいな。

 だけど……『魔道士リッカク』とは違う。あいつは人間だ。

 人間の黒魔法使いもいるのか、やっかいだな。


『『『ぐるぅあああああああああ!!』』』

「異形の覇王の名において──『翔種覚醒(しょうしゅかくせい)』!!」


 俺は『翔種覚醒』した状態で、ローブの男性の首根っこをつかんだ。


「な、なにをする!?」

「川の向こうまで付き合ってもらう」


 俺はそのままローブの男性を連れて飛び上がる。

 そのまま、魔力全開で川の向こうへ飛翔する。


 獣人たちは俺の後ろをついてくる。

 でも、飛んでる俺の方が速い。俺はそのまま川を越え、レーネス姫の待つ馬車の方へ。


 昨日のうちに復活させておいた魔法陣の、結界の中(・・・・)へと移動した。



「あ、ああああっ!?」



 ローブの男が悲鳴を上げる。

 奴を包むどす黒い魔力が蒸発していくからだ。

 でも、本人は消えない。やっぱりこいつは魔物じゃないらしい。


 そして、結界内に入って来た獣人たちは──



「「「…………おお」」」



 全員、地面に座り込んでる。

 まるで憑きものがおちたみたいだ。

 俺を追いかけるのをやめて、澄んだ目でこっちを見てる。


「捕らえたぞ。人間」


 俺はローブの男性を地面に放り出して、告げる。


「我が同胞──亜人を操っていた罪は万死に値する。貴様は我が同盟者に引き渡すことになるが……なにか言い残すことはあるか?」

「……ひぃっ」


 ローブの男性が震え出す。

 馬車の方ではリゼットとレーネス姫が拍手してる。


 よし。こいつらはシルヴィア姫に突き出して──っと。


「君たちも話を聞かせてくれるか? なぜ、こいつらと一緒にいたのか。君たちにかかっていた黒魔法についても、詳しく」


 俺は澄んだ目をした獣人たちに、そう告げたのだった。

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