第61話「覇王、『武力100』と決着をつける」
がいいいんっ!!
俺の長剣と、トウキ=ホウセの槍が激突した。
力は向こうの方が少し強い。速度は『竜種覚醒』してる俺が上。
奴の火炎もかわせる。火炎の余波は『竜の鱗』が防いでくれる。
それと──
「槍が!? オレの槍が削れていくだと!?」
トウキ=ホウセが叫んだ。
「この『七星槍』は王宮より下賜された業物だぞ! それを!?」
「もったいないと思うなら槍を捨てて逃げろ。『武力100』」
「ちっくしょおおおおお!!」
がいいんっ!!
ふたたび『超堅』い長剣と、奴の『七星槍』がぶつかる。
また、槍の穂先が削れていく。
さすが竜帝スキルの『命名属性追加』。
『強化』した剣と、王宮の業物じゃ勝負にもならない。
「ちぃぃぃ! スキル『武神解放』を起動だ!」
不意に、トウキ=ホウセが叫んだ。
「オレが何故、『武力100』を名乗っているか教えてやろう」
奴の槍に、深紅の光が集まっていく。
「オレ自身の武力を100とする。武器に全力を乗せた技を100とする。合わせて10000の武力を紡ぎ出すことができる。それが『武力100』の意味だ!!」
合わせたら武力200では?
「死ねよ! 喚ばれてもいない異世界人──っ!!」
けど──そんな突っ込みもでないほどの迫力だった。
トウキ=ホウセの槍を中心に、金色の魔力が渦を巻いている。
まるで先端が巨大なドリルになったように。
さすがは女神が選んだ、正式な転生者だ。すごい。
もちろん、こっちだって奴を舐めてない。対策は立ててある。
「リゼット」
俺は、後ろに座るリゼットの腕を叩いた。
『緊急時のスキルを使う』──その合図だ。
「いくぜ! 一騎当千の技を受けな。異形の覇王!!」
「リゼット、捕まってろ!」
「はいっ!!」
トウキ=ホウセが槍を構える直前──
俺は黒馬『斬空黒曜』のたずなを手放した。
トウキ=ホウセの手元で渦巻く穂先が、巨大化していく。
奴が腕を振る。そして──魔力の槍が、発射された。
螺旋を描く槍が──飛んでくる。
黒馬『斬空黒曜』は賢い。すでに回避運動に入ってる──
「無駄だ! ひとふたり状態で、今さら避けられるかよ!!」
トウキ=ホウセが叫び──
槍の先端から発射された『魔力の槍』が、宙を舞い──
黒馬『斬空黒曜』が、ぎりぎりでそれを避け──
螺旋を描く魔力の槍は、そのまま、俺の足元を通過した。
「…………は?」
トウキ=ホウセが口をあんぐりと開けた。
螺旋を描く魔力の槍は、ロケットのような速度で飛んでいく。
そのまま……100メートルくらい先で、地面に当たって爆発した。
すごいな。ユキノの『永劫に流転する氷結王朝の柱』と同じくらい威力があるんじゃないか?
さすが『武力100』こんな隠し球を持ってたなんてびっくりだ。
「ちょっと待てえええええええっ!!」
地上で、トウキ=ホウセがわめいてる。
「ズルだろ!? なんでてめぇ飛んでるんだ!?」
「飛んでない。がんばってジャンプしただけだ」
嘘だけど。
俺はトウキ=ホウセが巨大槍を生み出した瞬間、『翔種覚醒』した。
そして、そのままリゼットを抱えて上昇。
乗り手がいなくなり、身軽になった『斬空黒曜』は華麗なステップで巨大槍を回避した。荷物さえなければ素早く避けられるって、本人が言ってたような気がしたから、任せたんだ。
今は『翔種覚醒』は解除してある。
落下を防いでいるのは、別の能力だ。
俺はこの前、ユキノと一緒に『真・斬神魔城』の魔法陣を復活させたとき、『落下速度低下』という効果を手に入れた。今はそれを使ってるんだ。
翼を見せたら、この戦いに亜人が加わってるってばれるからな。
「……くそっ……はっ。オレを見下ろすとは……いい度胸だ」
「息が切れてるぞ無理するな。今の技、かなり魔力を食ったんだろ?」
「うるせぇ! 変な技ばっかり使いやがって!!」
そして奴の手に、再び金色の光が灯る。
すごいな。魔力が残ってる限り、何発でも撃てるのか。
「いくら小技を駆使しても、単純な力には勝てねぇって教えてやる!!」
単純な力か。
……そうか。
だったら俺も、単純な力を使わせてもらおう。
「……落下状態なら避けられねぇだろ! くらえ『武神解放』──!!」
「『王の器』解放」
俺は『王の器』に入れておいた『意思の兵』を召喚した。
空中で。
『ヘイ!』『ヘイッ』『ヘーイ!』『ヘヘイヘイッ!』
ひゅーん、ひゅんひゅーん、ひゅん、ひゅ────ん。
「……な、なんだとおおおおおっ!!」
呼びだした4枚の塀たちがは、重力に引かれて落ちていく。
たかが塀。されど塀。
1枚1枚の重さは数百キロ。もちろん『落下速度低下』はつけてない。
それぞれがトウキ=ホウセを取り囲むように、地上めがけて降っていく。
トウキ=ホウセは『単純な力には勝てない』と言っていた。
だから俺もシンプルな力を使うことにした。
質量と、重力だ。
「質量兵器って恐いよな」
「ぐぉああああああああっ! く、砕けろおおおおっ!!」
トウキ=ホウセが螺旋の槍を撃ち出す。
『強化』された『意思の兵』は──その槍を、受け止めた。
「がああああっ! くそっ! くそがあああああっ!!」
「無理だよ。トウキ=ホウセ」
『意思の兵』は、ユキノの全力魔法にも数十秒耐えた。
重力に引かれて地面に落ちるまでは数秒。余裕だ。
『ヘイ!』『ヘイ!』『ヘイイイイイイイイイイッ!』『ヘーイィ!』
「なんで! オレは……『武力100』なのに……最強が……こんなああああああっ!!」
1枚目の塀が、トウキ=ホウセの馬の後ろに落ちた。
驚いて首を振った馬が2枚目の塀に激突し、倒れる。
落馬するトウキ=ホウセの左側には3枚目の塀。ぎりぎりで回避した奴の服の裾が、塀の下敷きになる。4枚目──正面の塀は……落ちながら『螺旋の槍』に耐えてる。『螺旋の槍』は熱を帯びた魔力の塊だ。
それに耐えてるもんだから、跳ね返った余波は、地上にいるトウキ=ホウセに──
「ぎゃあああああっ! あち、あちいいっ。あああああっ!!」
ばきんっ。
『…………ヘーィ』
『螺旋の槍』を受け止めていた、4枚目の塀が、砕けた。
笑うみたいに『ヘイヘイヘ──イ』って言いながら、散った。
「ありがとう。『意思の兵』」
「ありがとうございました。あなたのことは忘れません」
お前は確か、城の横町の角を曲がって3軒目、義勇兵に志願してくれた肉屋の塀だったよな。ありがとう。本当にありがとう。お前の勇士は将軍ヒュルカさんを通して、肉屋の小粋な長男に伝えるよ……。
『…………ヘ……ィ』
『『『ヘイイイイイイイイイ!!』』』
「……こんな、こんな英雄譚を、オレは認めねぇ!」
地面に転がりながら、トウキ=ホウセは吐き捨てた。
「なにが『ヘイ』だ。なにが『ヘイヘイヘイ』だ!! こ、このオレが! こんな間抜けな技に負けるなんて認められるもんか!! こんな英雄譚があるもんかああああっ!!」
「はいはい」
俺は『超堅』い長剣でトウキ=ホウセの鎧のつなぎ目を切り離す。
鎧が奴の身体から外れて落ちる。武装解除だ。
宝槍『七星槍』は危険だから、塀の下敷きにしておこう。
手が空いてる『意志の兵』をしまって、槍を置いて、その上に召喚し直して、と。
これはトウキ=ホウセを拘束したあとで、ヒュルカさんに渡すことにしよう。
俺は客将だからな。捕虜の持ち物は、司令官に渡すのが筋だろう。
「こ、これで勝ったと思うなよ。今ごろお前の城は、ニールたち騎兵がみなごろ」
「ショーマさーん!」「敵の騎兵はすべて捕虜にしました!」
ユキノとプリムの声が聞こえた。
ふたりとも、馬に乗ってる。将軍ヒュルカさんも一緒だ。
「あれが本物の将軍ヒュルカ……無傷……ということは」
だん、と、トウキ=ホウセが地面を叩いた。
「ちくしょおおおおおおおおっ! オレが! 数々の敵をぶった切ってきた『武力100』のオレがあああああああっ!!」
「お前は捕虜にする。女神のシステムと、『十賢者』の情報について、もう少し詳しく話してもらう」
「……そうかよ」
トウキ=ホウセは笑った。
そして奴は胸元から、奇妙な結晶がついたペンダントを取り出したのだった。