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第40話「覇王、使者を出迎える」

「キトル太守さまの第3女、シルヴィア=キトルさまの使いとして参った」


 (よろい)を着た男が言った。

 太守領から来た使者は、総勢、約20名。全員が武装している。

 俺たちに話しかけているのは、剣士っぽい男性。背が高く、腰に両刃の大剣を差している。

 となりにはローブ姿の老人がいる。剣士の言葉に相づちを打ってるところを見ると、こっちが責任者のようだ。


 俺たちは村の外で、使者を迎えることにした。

 大勢の武装した者を、城壁の中に入れるのは危ない。

 村に入れるのは、まずは用件を聞いてから、ということになったのだ。


 応接役は俺とハルカ。リゼットとユキノは、後方で控えている。

 場所は村を取り囲む畑の外。獣除けに作った、木製の柵の向こうだ。


 俺もハルカも、武器は持っていない。まずは友好的に行こう。


「村長のハルカ=カルミリアと申します。こちらは義兄(あに)のショーマ=キリュウ。兄妹ともども、名高いキトル太守のご息女のご使者にお目通りができたこと、光栄に存じております」


 ハルカは一息に、リゼットに教わった挨拶文(あいさつぶん)を暗唱した。


「ここは辺境。我らは亜人。このような場所に、いかなるご用件でいらっしゃったのでしょうか」

「頭が高い」


 剣を()げた男が言った。


「亜人ごときが、立って姫さまの使者を迎えるとは何事か。ひざまづけけ。そして、こちらの言葉が終わるまで黙っているがよい」

「……えっと」


 ハルカがとまどったように、俺を見た。

 ここまで上から目線で来るとは思ってなかったんだろう。


 使者を迎える前に、俺たちは村のみんなと、少しだけ話をした。

 辺境に『キトル太守』の使者が来たことはない。だから、用件は全く予想がつかない。仮に向こうが友好的だったら、こっちも友好的に。向こうが威張っていたら、まぁ、それなりにやりすごす、ってことに決めた。


 万一相手が、話が成立しないくらい偉そうだったら──


「その時は、我らの王に一任いたします」


 リゼットもハルカも、村のみんなも、にやりと笑って言ったのだ。

 いや、一任されても困るんだけどな。


「……兄上さま」


 ハルカが、ぽつり、とつぶやいた。


「ボクは、兄上さま以外の人に、ひざまづくつもりはないよ」


 そう言ってハルカが手をさしだす。

 俺の手を軽く、ぱぁん、と叩く。タッチして選手交代、ということらしい。

 使者を迎えてまだ3分も経ってないのに、あきらめるのが早すぎだ。


 ……仕方がないな。

 ここは元社会人の現実処理能力を使うとしよう。


「使者の方に申し上げます」


 俺は言った。

 柵の向こうではリゼットとユキノ、村の大人と子どもたちが、心配そうにこっちを見てる。

 安心しろ。話の通じない奴の相手は、元の世界で慣れてる。

 ここはマニュアルトークをアレンジして対応するとしよう。


「ここは辺境。中央の礼儀を心得ぬことは、賢明なる姫さまには理解していただけるかと。また、ここは常に魔物の脅威にさらされており、すぐにでも戦える姿勢でいることは、辺境のならわしのようなもの。ひざまづくことは生命の危機に繋がります。ゆえに、このままお話させていただければ、と」


 とりあえず正論で。かつ、相手を立てる感じで言ってみた。


「また、遠路はるばるお越し頂いたのは、我らの村に重要なお話があるためだと心得ております。それだけの使命を帯びていらっしゃった方のお顔も拝見せずにお話を進めるのは、かえって無礼かと。ゆえに、辺境の作法とはいえ、このまま立ってお話を進めさせていただくのが最適かと心得ますが。いかに」


 こんなもんだろ。

 元社会人だからな。あいさつ文をメールで打つこともあったのだ。あと、転職もしてるから、こういうもってまわった言い方は得意だ。まさか異世界で役立つとは思ってなかったけどな。


「…………兄上さま……すごいよ」


 俺の隣でハルカが、はぅ、とため息をついた。


「……ぐぬ」


 逆に使いの男性が歯がみをしている。

 腰の剣に手を伸ばしてる……おいこら。ここで剣を抜くつもりか。


「そこまでにしておけ、ディムス!」


 剣士の隣にいた老人が、声を上げた。


「交渉役を買って出たから任せたのだ。まともな話が出来ぬなら下がれ」

「……ちっ」


 男は舌打ちして、後ろに下がった。

 代わりにローブの老人が前に出る。


「失礼した。相手が亜人とはいえ、最低限の礼儀は守らなければな」

「……さようですか」

「わしはシルヴィア=キトルさまの名代で、名をドーガルと申す」


 老人はあごをしゃくって、名乗った。


「ご丁寧(ていねい)なごあいさつ、感謝いたし──」

「『陸覚教団(りっかくきょうだん)』が壊滅(かいめつ)したことは知っておるな?」


 俺の言葉を無視して、老人は言った。


「先日『マワル村』の者と鬼族が、教団の幹部を太守領へと連れてきた。その幹部の情報から、『キトル太守』さまの軍は教団の背後を突き、滅ぼすことができたのだ。その幹部を捕らえるのに、『ハザマ村』にいる人間の男性(・・・・・)が活躍したという話であった。貴様のことであろう?」

「さて……?」


 別に認めてもいいんだが……やめとこう。

 こいつは隣にいるハルカのことも、リゼットたちのことも見ていない。

 口調は丁寧だけど、結局、亜人を見下してるのは変わらないようだからな。


「貴様に褒美(ほうび)を与えよう。姫さまにお仕えする権利をな」


 いらん。


 だけど、老人の背後で兵士たちが「おぉ」と声を上げている。

 老人も、胸を反らして自慢そうだ。


「シルヴィアさまは広く人材を集めている。その上、キトル太守家は過去に何人も、王朝の高官を輩出(はいしゅつ)した名家だ。本来ならば面接を受けるのに3ヶ月待ちだが、特別に免除となる。すぐに荷物をまとめて来るように」

「お断りします」

「さらに、貴様の配下に亜人がいるのであれば、その者にも同行を命じる。戦える者を最低10人、姫さまの部隊に組み入れる。貴様には通常の兵士と同様の給与が、亜人には5割の給与が与えられる。以上だ」

「お断りしますと言ってるんだが」

「貴様はなにを言っているのだ?」


 それはこっちのセリフだ。

 せっかく辺境が落ち着いたってのに、なんで人様の軍の配下にならなきゃならんのだ。ばかばかしい。


「貴様は、なにか理由があって辺境に流れてきたのだろう?」


 白髪の老人は、不気味なくらい優しい顔で告げた。


「配下となれば、シルヴィア姫が貴様を保護してくださる。戦う代わりに、貴様の罪を許してくださる、ということになるのだ。悪い話ではないだろう?」


 あぁ、そういうことか。

 こいつは俺が、中央で罪を犯して、それで辺境に逃げてきたと思ってるらしい。

 だから配下に組み入れることで、俺が罰せられないようにしてやる、と。


「……とんでもない勘違いをしたもんだ」

「……兄上さま」


 ハルカは心配そうに、俺を見てる。

 どうするかな。断ることは決まっているのだが。

 ただ、村のみんなに迷惑がかからないようにしておきたい。相手は軍を持っている、太守さまの関係者だからな。


「悪いが、やはりお断りさせていただく」


 俺は老人を見返し、告げた。

 もってまわった言い方はやめた。どうせ向こうも聞いてない。

 話が通じない相手と長々話すのは、時間の無駄だ。


「俺は、辺境にいる方が性に合っているので」

「……無駄足でしたな。ドーガル卿」


 さっきの剣士が肩をすくめた。


「こんな劣等種が済む辺境に、使い物になる人材などいないと、オレは言ったじゃないですか」

「黙れディムス。姫さまの命に疑問をさしはさむか」

「こんなしょぼい村に連れてこられたんだ。文句くらい言いたくもなりますって」


 剣士は腰に提げた大剣で、がつん、と地面を突いた。


「こんな村。オレ一人で()としてみせますよ。命令さえあればね。それでこいつを連れていけばいいでしょう?」

「馬鹿なことを!!」

「……そのご老人の言う通りだ」


 俺は言った。

 いい加減、時間を取られるのが嫌になってきた。

 ハルカも、後ろにいるリゼットとハルカも、村の人たちも同じ気分のようだ。みんなで苦虫かみつぶしたような顔になってるから。


「お前にこの村を()とすことなどできはしない。いや、俺の相手にさえならないだろうよ」

「「「──な!?」」」


 老人と兵士たち、それとさっきの剣士が、声を上げた。


「貴様! 今、なんと言った!?」


 剣士が両刃の大剣に手をかけ、俺を見た。

 

「オレが貴様よりも弱いと? ふざけるな! オレはシルヴィア姫に認められた剣士だぞ!」

「そうか。だったら、その剣の腕前を見せてもらえないだろうか?」


 俺は畑を囲む木の柵を指さした。


「あの柵の木を切り落とすことができるか?」

「はぁ!?」

「1人で村を()とすと言ったのだ。それくらいできるだろう?」

「き、きさま! オレを馬鹿にするのかああああああっ!!」


 男は大剣を抜いて、進み出た。

 そのまま畑を囲む柵に近づき、大剣を大上段に構えた。


「ふざけるな! こんな細い木の棒がなんだ!!」

「やめておいた方がいい。大事な武器が傷つく」

「やかましい!!」


 男は柵に向かって、剣を振り下ろした。

 村人たちが一斉に後ろに下がる。


 そして──




 ぽっきん。




 (かた)い音とともに、剣が折れた。


「…………は? はあああああああっ!!?」

「危ないな。子どもたちが怪我をしたらどうするんだ」


 俺はこっそり『竜種覚醒(りゅうしゅかくせい)』して、(てのひら)竜の鱗(りゅうのうろこ)を発生させた。

 その手で落ちた剣をつかみ取り、男に差し出す。


「大事な武器だろう? 持って帰った方がいい」

「な……な……なななななな」


 男は小刻みに震えている。

 まぁ、そうだろうな。畑を守る柵には、意外と細い木が使われてるから。

 ただ、俺が『強化(エンチャント)』しているだけで。


 柵のあちこちには、俺が強化した『棍棒(こんぼう)』が仕込まれている。

 竜帝のスキル『命名属性追加(ネーミングブレス)』で『棍棒』=『金棒(こんぼう)』の属性を追加して、強度を上げているのだ。


『いざというときは武器にも使うから、これは棍棒。だから「金棒」にエンチャント……』と念じて『命名属性追加』したら、なんかできた。結界内だと『命名属性追加』は効果がおそろしく長くなる。10日くらいは余裕で保つ。


 しかし、腕利きの剣士でも折れないレベルなのか。

 そういえば『魔法陣』の数も増えたからな。『命名属性追加』も強化されているのかも。


「だが、この棒は処分した方がいいな」


 俺は(さく)の向こうにいるリゼットから短剣を借りて、男の剣を折った棒を取り外した。

 そのまま『強化(エンチャント)』を解除して、ハルカに手渡す。


「キトル太守さまの使者の剣を折った、罪深い棒だ。処分した方がいいな。頼むよ。ハルカ」

「はーい。ていっ」


 ぽっきん。


 ハルカが両端をつかんで蹴飛(けと)ばすと、木製の棒はあっさりと折れた。


「「「「なにいいいいいいいっ!!?」」」」


『キトル太守』側から絶叫が上がった。

 老人も、剣士の男も、震えながらあとずさっていく。


 もう一押ししておくか。


「そういえば、そこに切り株が残っているな。見えるか、子どもたちよ」


 俺は柵の外側にある、小さな切り株を指さした。


「え?」「は、はい」「あります。王さま」

「そんなものが残っているのは、太守さまのご使者のお目汚しだ。そこに(くわ)があるだろう? ちょっと取り除いてくれないか?」

「「「「わかりました!!」」」」


 子どもたちが(くわ)を手に、柵の外にやってくる。

 切り株のまわりを取り囲み、その根に向かって鍬を振ると──



 さくっ。



「「「「!!!!???」」」」



 さくっ。さくさくっ!!



「木の根が!?」「あ、あんな子どもの力で!?」「見ろ。切り株そのものも削れていくぞ!」「冗談だろ。まるで、砂山を削っているようだ……」


 もちろん子どもたちが使ってるのは、俺が強化して貫通力を上げた『鉄の鍬』=『(てつ)(くわ)』だ。

 だが、『キトル太守』の使者には、普通の鍬と区別がつかないはず。

 老人も剣士も、他の兵士たちも、完全に逃げ腰になっている。


 これでもうあの剣士も『ハザマ村』を()とすなんて言わないだろう。

 本気で言ったわけじゃないだろうけど、念のため釘を刺しておかないとな。


「ところで、ひとつ聞きたいのだが」


 俺は言った。


「あなた方が太守さまの領土からここに来るまでの間、魔物に出会ったか?」

「……いや」


 老人が首を横に振った。


「我々は腕利き揃いだ。魔物も恐れて近づかなかったのだろうよ」

「違う。このあたりの魔物は、俺がすべて駆逐(くちく)した」

「────!?」

「力試しにはちょうどよかったのでな」


 俺は老人と兵士たちを見ながら、できるだけ凶悪な顔で笑ってみせた。


「『陸覚教団(りっかくきょうだん)』と戦ったのも、別に正義のためではない。ただ、俺がここで暮らすのに目障りだったから滅ぼしただけのこと」


 嘘は言ってないな。うん。


「残った魔物も、今は俺を恐れて近づいてこない。だが、俺が辺境から動いた瞬間に、また人を襲い始めるだろう。辺境の者だけでなく、太守領土近くを通る荷駄にもな。

 だから、俺はこの場を離れるわけにはいかないのだ。離れるのにはそれなりの儀式が必要になるのでな。ご理解いただけると有り難いが」


 ……ここまでにしておこう。

 このペースで話し続けると、『鬼竜王翔魔(きりゅうおうしょうま)』が目を覚ます。

 だからこういう理不尽な奴らには付き合いたくないのだ。

 一緒にいると……悪を探して走り回ってた中二病時代に戻りそうになるから。


「減らず口を!!」


 不意に、さっきの剣士が叫んだ。


「魔物を駆逐(くちく)しただと!? ふざけるな! 貴様のような得体の知れない奴にそんなことができるものか!! さっきの(さく)も子どもも、なにかトリックがあるに違いない! 亜人が人間より強いなど、そんなことがあってはならないのだ!!」

「やめろディムス! その者はもしかして──」

「うるさい! おい、そこのお前、剣を貸せ!!」


 ディムスと呼ばれた剣士が、隣の兵士から剣を奪い取り、抜いた。

 切っ先をこっちに向けて、走り出す。


「オレと戦え! 貴様などどうせ口だけの──ぐぼぁ!?」

「……兄上さまに剣を向けたね?」


 俺が手を出す間もなかった。

 剣士ディムスは胴体をくの字に曲げて、吹っ飛んだ。剣も折れた。あいつは俺のところまで来ることもできなかった。


「それはボクにとって絶対に許せないことだよ? 宣戦布告と見なすよ? いいの? ボクとキミ、どちらかが死ぬまで終わらない戦いになるよ?」

「……あ、あ、あああああ」


 剣士ディムスを吹き飛ばしたのは、ハルカだった。

 いつの間に柵から『棍棒(こんぼう)』引き抜いてたんだ。いや、そういう使い方するためのものなんだけどな。練習してたな。ハルカ。


「ハザマ村の長として告げるよ。この方、ショウマ=キリュウさまは我ら亜人の王だ。よって、この方に刃を向けることは許さない。また、この方の意に反して連れて行くことも。

 もちろん、兄上さまがあなたの主君の配下になることを決めたのなら、ボクは喜んでついて行く。けれど、兄上さまはあなたたちの言葉を拒否した。ボクにとってはそれが全て。これ以上ぐだぐだ言うなら、このボクと戦ってからにしてもらうよっ!!」

「長いセリフも言えるんじゃないですか、ハルカ」


 リゼットまで……。

 柵を跳び越えて、ハルカの隣で剣を握りしめている。

 剣を(さや)から抜いてないのがリゼットらしい。俺の許可待ち、ってことか。


「ショーマ兄さまはリゼットたちの王です。あなたたちが望むべきは、対等の同盟。話があるならあなたたちの主君、シルヴィアさまを連れてらっしゃい。あなたたちごときが、王に直言するなど勘違いもはなはだしいです!」

「『不遜(ふそん)な行いは、()りし日の混沌(こんとん)を呼び覚まし、世界を凍結に導く』」


 後ろから、背筋が寒くなるフレーズが聞こえた。

 ユキノだ。怒ってるのはわかるんだが……こっちの世界の人たちには『中二病用語の翻訳能力』がないからな。本気にされたらどうするんだ。


「我が異能は第8天に及ばず。されど第5天の魔神を(ほふ)ることは叶う……我が真の主は大地を豊穣に導く、有機農法の竜王。その降臨(こうりん)の地を踏み荒らすならば、氷結の罰が下ろう」


 ふわり、と、周囲に氷の粒が舞った。。

 ユキノの魔法だ。彼女は氷系統の魔法を操る。それを威嚇(いかく)レベルで発動させたらしい。


「ショーマ兄ちゃんに剣を向けたな!」「この命知らずー」「兄ちゃんは無茶苦茶強いんだからな!」「しかも、土地まで豊かにしちゃうよくわかんない人なんだからな!!」


「そうだそうだ!!」「辺境はもともと、人の支配を受けない土地!」「だから亜人をここに追放したんだろうが!!」「辺境の王は、私たちが決めるよ!!」


 子どもたちに、村人たちまで。


「今一度告げる。俺はシルヴィア姫の配下にはならない。ただ、対等の同盟なら受ける」


 俺は言った。


「そして、俺の方から『キトル太守』に敵対することはない。これは……俺が支配している村人たちも同じだ。また、評価していただいたことには感謝する。ご期待に添えないこともお詫びする。以上だ」

「わかった……その言葉、姫さまに伝えよう」


 老人は俺をにらみながら、言った。

 それから老人と兵士たちは、倒れた剣士を回収して、そのまま立ち去ったのだった。



「……はぁ」



 帰ってくれたか。

 無難に終わってなによりだ。『鬼竜王翔魔(きりゅうおうしょうま)』を呼ばずに解決できたからな。

 中二病時代の俺は世界の悪を探してさまよってたからな。

 あからさまに悪い奴を見ると、あの頃の俺が(よみがえ)りそうになるんだ。


 だから、あの剣士や老人みたいな奴がいるところで、働くのは難しい。

 元の世界だったら退職願を出すだけで済むけど……こっちでは異能が覚醒(かくせい)しちゃってるからな。

 うっかり暴走して、『ふはははははっ! 異形(いぎょう)覇王(はおう)はこの地を去る。最後に、我が使い魔の姿を目に焼き付けておくがいい!!』ってことになりそうだ。やばい。


「……中二病(ちゅうにびょう)(とびら)は、開けると閉じるのが大変だからな……」


 はぁ、と、俺はため息をついた。


 ハルカは棍棒で地面を突いてる。まだ、怒ってるようだ。

 ユキノは魔法で使者を威嚇(いかく)したことを、村の人たちに謝ってる。村人たちはまったく気にしてないけどな。ユキノは、中二病モードじゃないときは礼儀正しいから。


「ショーマ兄さま。ひとつ、気になることがあります」


 不意にリゼットが俺を見て、言った。


「以前、母さまと一緒に旅をしていたとき、シルヴィア姫の(うわさ)を聞いたことがありますが……亜人を差別する方ではなかったはずです」

「そうなのか?」

「もちろん、(うわさ)ですけど。倒れた亜人の子どもを助けた、とか、そういう類の。その配下が亜人を見下すというのは……どうも気になりますね」


 その答えは、数日後にわかった。

 シルヴィア姫から、書状が来たからだ。




『亜人の王と、対等の同盟を結びたい』




 書状には、そんなことが書かれていた。



いつも「覇王(はおう)さん」を読んでいただき、ありがとうございます。

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