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第4話「竜帝の血を引く少女と、召喚者のこれから」

本日は2回、更新しています。

今日はじめてお越しの方は、第3話からお読み下さい……。




「──えっと……あなたは……?」


 彼女は言った。


 きれいな少女だった。

 紫色の目を見開いて、まっすぐに俺を見ている。真珠のように白いほおに、銀色の髪がからみついてる。

 特徴的なのはその耳だ。少しとがっていて、その後ろに短い、水晶のような角が生えてる。

 竜っぽい。『竜帝』の血を引くってのはこういうことなのかな。


 身長は俺より少し低いくらい。

 (おどろ)いてるのか──(おび)えてるのか、身動きひとつしない。

 元の世界だったら悲鳴をあげられてるところだけど……。


竜帝(りゅうてい)……さま?」


 彼女は紫色の目を輝かせて、そんなことを言った。


「竜帝さまが、リゼットの願いに応えて、選ばれた方をここに……?」

「違います」


 とりあえず否定してみた。

 俺はゆっくりと後ろに下がって、両手を挙げて無害のポーズ。

 少女を怯えさせないように、距離を取る。


「俺の名前は……桐生正真(きりゅうしょうま)。旅の者です。道に迷ってたら建物を見つけたので、ここで夜を明かさせてもらいました。君を攻撃するつもりはないです」

「でも……今、あなた……『竜帝廟(りゅうていびょう)』の扉を開けましたよね?」


 ずんっ。

 少女はそのまま、距離を詰めてくる。

 怒ってるのか、眉をつり上げて、じっとこっちを見つめてる。


「この『竜帝廟』の扉は、竜帝さまの後継者しか開けないはずなんです。そんなの、この大陸の人なら誰だって知ってます! リゼットだって……ほんの少し開けるのが精一杯なのに……」

「……なんかごめん」

「……いえ『竜帝さまの後継者』が現れたのなら、それで……リゼットは充分です」


 少女は胸を押さえて、ほぅ、とため息をついた。

 それから一歩後ろに下がって、服の(すそ)をつまんで、一礼。


「では私──リゼット=リュージュは宣言します。竜の血を引くものとして、あなたさまの臣下としてお仕えすることを。今、ここで。神聖なる(ちか)いととも──」

「誓わなくていいです。誤解だから」


 急いで割り込んで、少女のセリフを止める。

 スルーすると大変なことになりそうだ。


「俺は『竜帝』とは関係ないよ。もちろん、王さまでもない」

「でも『竜帝廟』の扉を開けられましたよね?」


 少女は、ぐい、と顔を近づけてくる。息が顔にかかるくらい。

 興奮してるのがわかる。それくらいこの施設は大事なものだったんだろうな……。

 しょうがない。

 信じてもらえるかどうかわからないけど、本当のことを話してみよう。


「実は俺は、異世界から来た人間なんです」


 俺は言った。

 まっすぐ相手の目を見るのが、この世界の流儀のようなので、少女の目を見返しながら。


「この乱世を鎮めるために『死せる若い魂』を集めている女神の召喚に、事故で巻き込まれたんです。でもって、規格外だってことで、この森の中に放置されました。

 それが昨日のことで……人里を探して歩いているうちにここにたどり着いたんです。ここが大事な施設だってことは知らなくて、魔物から隠れる場所として利用させてもらいました。勝手なことして、ごめんなさい」


 嘘は無しだ。

 間違って召喚されて放置されたアラサーの俺だけど、中学生くらいの少女をだますってのは、なんかこう……感覚的に嫌だった。


 それに彼女は、俺がこの世界ではじめて出会った、話の通じる相手だ。仲間あつかいしてもらおうっていうのは虫が良すぎるけど、道を教えてもらえるくらいには、友好的でいたい。


「信じてもらえるかどうかはわからない。でも、嘘は言ってないよ」

「……わかりました」


 少女リゼットは、うなずいた。


「『竜帝廟』を開けられたのも、この世界の(ことわり)の外から来たからと考えれば、わかります。リゼットはキリュウ=ショウマさんの……いえ、ショーマさまのお話を、信じることにします」

「ありがとう」


 よかった……。

 俺はため息をついて、地面に座り込んだ。

 思ってたより緊張してたみたいだ。


「信じてくれてよかったよ……本当にありがと」

「リゼットをだますのなら、異世界人なんて話は使わないでしょう?」


 彼女は口を押さえて、くすり、と笑った。


「それにショーマさまからは、なにか親しいものを感じるんです。なんとなく、ですけど。まるで、遠縁の家族に出会ったような気分です」

「それは……俺が『竜帝廟(ここ)』から出てきたからじゃないかな」


『竜帝廟』から出てきたせいで、竜帝の関係者のような気分でいる、とか。


「そうではなくて……うーん。よくわかりません」


 リゼットは首をかしげてる。

 正直、俺もよくわからない。

 俺の場合は、自分のスキルの正体だってわからないんだから。


「詳しい話はあとでお聞きするとして、ショーマさまは、事故でこの世界に来たんですよね?」

「うん。この乱世が治まったら、元の世界に戻してもらえることになってる」


 あんまり当てにはしてないけど。

 あの女神さまは、真面目なのはいいけど、どうも抜けてるような気がするから。


「だから、それまでこの世界で生き延びなきゃいけないんです。そういうわけなので、人里までの道を教えてもらえませんか?」

「いいですけど……それから、どうするんですか?」

「まずは居場所を見つけて、それから考えます」


 現実処理能力は、そこそこある。

 元の世界ではプログラマとSEやってたから。仕事の優先順位を考えるのは得意だ。


 まず最優先しなきゃいけないのは、安全な場所を見つけること。

 次に、食料と水──できればそれを手に入れる手段を考えることだ。

 この世界で俺が採れる手段は、そんなにない。


(1)自分と同じ、異世界からの転生者を見つけて、頼る。

(2)自力で仕事を見つけて、生きていく。

(3)人里離れて自給自足。


 まず(3)は却下。魔物がいる世界で野宿は危険すぎるから。


(1)はそこそこ可能性があるけど……よく考えたら難しいかもしれない。俺はイレギュラーで召喚された人間だ。正式な召喚者から見たら、弱くて使えない可能性だってある。だから、他に選択肢がなくなったときの、最終手段ってことにしとこう。


 となると(2)が現実的な選択肢だ。

 そのためには、まずは落ち着ける場所を探す必要がある。

 俺はいくつかスキルを持ってるけれど、それがこの世界でどれくらい強いのかもわからない。いつまで使えるかも不明だ。

 だからまずは、スキルの分析をしなきゃいけない。

 それには落ち着ける場所が必要で──結局、人里を探す、という結論になるんだ。


 ……うまくいくかわからないけど。

 元の世界で次から次へと仕事してたせいか、ロジカルに考えるくせがついてる。職場では仲間扱いしてもらおうと思って、ついつい仕事を背負い込んじゃってたから。効率最優先でやらないと眠る時間もなかったんだ。


 いつからだっけな……こんなふうになったの。

 学生時代は、もうちょっと違ってたような気がするけど。


「わかりました」


 俺の話を聞いて、リゼットはうなずいた。


「そういうことなら、うちの村に来てください。ショーマさまを受け入れてもらえるように、リゼットが村のみんなに頼んでみますから」

「え?」


 いいの? 異世界の人間だよ?

 文化も考え方も違うし、そもそもこの世界のことはなにも知らない。

 そんなの受け入れて大丈夫なのか? 自分で言うのもなんだけど。


「子どもに迷惑をかけるつもりは、ないんだけど」

「リゼットは竜帝の血を引く者で、義を重んじる者です」


 少女は強い視線で、俺を見た。


「王の力はありません。竜の力も使えません。でも、竜帝の子孫であることを誇りに思ってます。そのリゼットが、目の前に困ってる人がいるのに、放っておけるわけないじゃないですか」


 迷いのかけらもないみたいだった。

 そんなに簡単に人を信じて大丈夫か、って思うくらい。


「……とりあえず、保留で」


 俺は言った。


「まずは村まで案内してくれると助かる。それから先のことを考えるから」

「あの……ショーマさま、もしかしてご自分の価値がわかってないんですか?」


 リゼットは不思議そうに首をかしげた。


「ここは辺境と呼ばれている場所です。この森は、魔物がたくさん出ます」

「うん。昨日、黒い魔物に出会ったよ。小さな人型のやつだった」

「黒ゴブリンですね。奴らと出会ってここにいるということは、ショーマさまは魔物と戦うか、逃げる力をお持ちだということになります」

「まぁ、そうなるかな」

「そして、今は乱世です。人は争ったり、傷つけ合ったりしてます」


 そう言ってからリゼットは、俺の顔をじーっと見て、


「でも、ショーマさまは(おだ)やかに話をしてくれてます。リゼットに角が生えてること──純粋な人間じゃないことも、気にしてません。戦う力を持っていて、話が通じる人。そして味方になってくれるかもしれない人。そういう人がこの乱世で、どれだけ貴重な存在だと思うんですか?」

「……あ」


 盲点(もうてん)だった。

 俺の世界は基本的には物理攻撃なしで、話が通じるのが普通だったけど、この世界では初対面で敵味方分かれてるってのがあり得るのか。

 となると、俺にとっても、最初に出会ったのがリゼットだったのは幸運なのかもしれない。


「そういえば……『竜帝廟』の中、入ってみますか?」


 忘れてた。『竜帝廟』の扉、開けっ放しだった。

 リゼットがこの中に入るのを夢見てたなら、今がいい機会だと思う。

 助けてくれるお礼としては、安すぎるけれど。


「いいえ」


 でも、リゼットは首を横に振った。


「今は、ショーマさまを優先します。人を助けるとは、そういうことです」

「必要なら、俺のスキルについても教えるけど」

「それも落ち着いてからにしましょう。それと……あの。ちょっとお聞きしたいのですけど」


 不意に、リゼットは頬を赤く染めて、言った。


「さっきリゼットが泣いてたのを、聞いてましたか?」

「…………聞いてない」


 俺は首を横に振った。

 ないしょ話って言ってたからな。聞かないふりをしとこう。


「そのときはまだ、眠ってたから。疲れて」

「そ、そうですか……それならいいです」


 それからリゼットは、きっ、と顔を上げて──


「もしも聞いていたら、聞かないふりをしていてください。リゼットは、竜帝の血を引くものとして、みんなを守らなければいけないんです。だから──」




 ピィイ──────ッ!!




 突然、森の中に奇妙な音が響いた。


「──笛!? 誰かが助けを呼んで──?」


 リゼットが顔を上げ、後を向いた。

 同時に、森の上に赤いものが飛ぶのが見えた。


「赤い布の矢──2枚。『黒魔物』が現れたんです! 誰かが、襲われてます!!」

「『黒魔物』?」


 黒い魔物……そういえば、俺が戦ったのは『黒ゴブリン』だったっけ。

 腕は切り落としたけど、倒せなかった。

 それがこの近くで人を(おそ)ってるとしたら……まずいな。


「ショーマさまは『竜帝廟』の中に隠れていて下さい」


 リゼットは、地面に置いてあった長剣を手に取った。


「悪い予感がします。もしかしたら、村の子どもが襲われてるのかもしれません。助けないと!」


 そう言ってリゼットは走り出した。

 銀色の髪をなびかせて、まっすぐ、森の方へ。


「……どうするかな……俺は」


 俺は自分の中にあるスキルを確認した。

 昨日からっぽだった魔力は、満タンになってる。


 だけど使えそうなのは『竜種覚醒(りゅうしゅかくせい)』だけだ。『竜帝廟』の中で手に入れた『命名属性追加(ネーミングブレス)』と『竜脈(りゅうみゃく)』の使い方は、さっぱりわからない。

 わからない。

 なんで『竜種覚醒』だけ、こんなに俺になじんでるんだろう。


「考えるのは後だな」


 この場で俺に、なにができる?

 まだこの世界のことはなにも知らない。世界のことだって、知ってるのは少しだけだ。

 誰が敵で誰が味方なのさえ、よくわけかってないんだ。


「だけど……戦うのが怖いって言ってたもんな、あの子」


 それに、魔物に襲われてるのが子どもで、襲ってるのが俺が昨日倒し損ねた奴だとしたら──。


「──発動『竜種覚醒』」


 俺はスキルを起動した。

『竜種覚醒』の能力は、竜の力の使用。筋力増強と反応速度上昇。竜の鱗による防御力。

 戦いはまだ慣れてない。

 けど、子どもを逃がすくらいならできると思う。


「……これからお世話になるかもしれないんだ。それくらいはしないとな」


 俺は彼女を追って走り出した。


明日まで、1日2回の更新になります。

なので次回、第5話は、明日のお昼くらいに更新する予定です。


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