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第25話「見知らぬ少女の『真の主』と、彼女の野望」

「お前は行く場所を間違えている。ここで求めているのは兵士だ。英雄でも勇者でもない」


 地面にうずくまる少女に向かって、兵士は言った。


「でも、あたしは魔法が使えます! 太守さまの役に立てるはずです!」


 ユキノという少女はちっちゃな手を振った。

 その手のひらに、氷の花が生まれる。小さいけど、精巧なものだ。


「い、今はお腹がすいてるからこの程度ですけど!」

「この場では魔法使いの募集はしていない」


 けれど、兵士は首を横に振った。


「ここで求めているのは、集団戦ができる兵士だ。そして、自分の仕事はそれに見合う者を採用することだけ。お前の小さな身体では隊列を乱す上に、敵を威嚇(いかく)するのにも役立つまい」

「あたし、もっと別の能力だって使えます!」

「それほどの能力を持つ者が、無名なわけがあるまい?」

「……それは──」

「もしも本当に特殊な能力を持つというなら……『キトル太守』さまの居城に向かうがいい。そういう者を姫さまが直接募集されている。3ヶ月も待てばお目通りが叶うだろう。その際は、さっきの偉そうな口調は控えることだ」


 兵士は正門の方へ、あごをしゃくった。


「太守さまの城は南西にある。2日もあればたどりつけるはずだ」

「……そんな」

「お前は来る場所を間違えたのだ」


 兵士は、少女に興味をなくしたように視線をそらした。

 少女は座り込んだまま、がっくりとうなだれてる。


「あのさ、ハルカ」

「はい。兄上さま」

「なんで兵士は、あの子を拒んだんだ? 乱世なら、優秀な人材は欲しがるものじゃないのか?」


 現に、俺は亜人のみんなに、あっさりと受け入れてもらえてる。

 悪い教団が暴れているなら、それを討伐するための人材は必要なはずなんだが。


「……キトル太守さまは……えっと『ほしゅてき』で『ちゅうおうかんりょうの血を引く、ゆいしょ正しいいえがら』だって、リズ姉が言ってたよ」


 ハルカはつっかえながら教えてくれた。


「……代々仕えた家臣団がいて、軍隊の配置とか編成も全部決まってて、動かす余地はないんだって」

「乱世なのに?」

「乱世だから、だよ。兄上さま」


 ハルカは俺の耳に唇を寄せた。


「乱世には2種類の人がいるんだ。乱世を利用してのしあがろうとする人と、乱世だから自分が持っているものを必死に守ろうとする人。たぶん、『キトル太守』さまは後の方なんだろうね。だから──」

「規格外の人間を入れる余地はないってことか」


 俺にはそういう考え方はわからないけど。

 乱世なんてどう転がるか予想できないだから、変わらなければ生き残れないんじゃないかな。


「……そういう人だから、亜人がいる辺境近くを任されてるんだよ。兄上さま」

「……変化を嫌う人なら、亜人の味方をしたり、亜人を仲間にしたりもしないから、か?」


 俺の言葉に、ハルカはこくん、とうなずいた。


 現在の『アリシア国』は、亜人を辺境に追いやることを決めている。鬼族やハーピーや、リゼットのような竜族が太守と協力して成果を上げたら、国もその功績を認めなければいけない。

 だから、そういうことをしないような人間が辺境を治めるようにしている、ってことか。


「だとすると、城で人材を集めてる『姫さま』って人は?」

「……ごめんね。兄上さま。そこまではボクにもわからないよ……」


 ハルカは首を横に振った。

 気になるな。亜人や規格外の人材を求める人なら、会ってみたいような気もするんだが。


「……行かないと」


 不意に、うずくまっていた少女が立ち上がり、ふらふらと歩き出した。

 そういえば都から来た、って言ってたな。お腹が空いてる、とも。


「ハルカ、村から持ってきた弁当に余分はあるか?」

「あんまりないけど……ボクの分を減らすよ」

「そんな泣きそうな顔をしなくていい」


 ハルカ、たくさん食べるからな。


「俺の分を削る。情報料だ。それを使って、あの子から話を聞こう」


 あの少女が何者かは知らないけど、竜帝の子孫と『十賢者』がいる中央の情報は俺たちにも必要だ。

 それに、彼女の言う『策』も……参考くらいにはなるだろう。


 俺は乱世が終わるまで、辺境で生き延びなきゃいけない。

 規格外だろうと関係ない。魔法が使えて情報を持ってるなら、それだけで貴重な人材だ。


「そこの人──ユキノ、だっけ。ちょっといいか?」


 俺は言った。

 ふらふら歩いてた水色の髪の少女、ユキノが振り返る。


「俺たちは──この町に商売のために来た者だ」


 嘘は言ってない。魔力結晶を売りに来たのは間違いないし。


「都がどうなってるのか興味がある。よければ、話を聞かせてくれないか。一緒に食事でも──って」

「ふわぁ……」


 ゆらり。


 少女の身体が、かしいだ。

 反射的にハルカが走り出す。少女の身体が地面に倒れる直前、ハルカの腕が少女を抱き留めた。


「す、すいません。急いで来たもので……あんまり、食べてないの……」


 少女は、はふぅ、と息を吐いて、言った。


「運が悪かったな。太守さまの城に行ってれば、仕事も見つかったかもしれないのに」

「……いいえ……あたしの真の主は、最も辺境にいるって……言われたから……」


 俺の問いに、少女は小さく首を振った。


「真の主?」

「はい。それだけを信じて、まっしぐらに辺境に来たの。はじめに『誰に仕えるか選ばせてやる』、と言われたんですけど、お仕えしたい主は決まってたから」


 よっぽど疲れてたんだろう。

 少女はハルカの腕の中で、目を閉じかけてる。


「あたしのお仕えしたい主は──前世から、ずっと」

「……『前世から(・・・・)』?」

 

 ──まさか。




『適性を持つ、死せる若い魂を転移させるつもりだったのに……』




 俺が最初にこの世界に来たとき、女神さんはそう言ってた。


 つまり、俺以外の転移者は元の世界では全員死んでから、この世界に召喚されてる。

 おそらくは元の身体を再生したか、新しい身体をもらってるんだろう。

 そして、この少女ユキノが、キトル太守の方針や事情をなにも知らなかったことを考えると──


(……この子、正式に召喚された人間なのか?)


 いや、決めつけるのは危険か。

『召喚者か?』って聞いたら、こっちがその情報を持ってることを知られることになる。

 敵か味方かはまだわからないんだ。

 でもまぁ、腹が減ってるなら助けよう。ハラペコの子どもを放置するのは、さすがに後味が悪すぎる。


「とにかく、落ち着けるところで一休みしよう。いいかな、兄上さま」


 ハルカが小さな少女ユキノを、背負った。

 了解を求めるように、こっちを見たから、俺はうなずいた。


「構わない。場所選びはハルカに任せる」

「承知だよ。兄上さま!」

「太守さまの城に行くなら体力を回復しないと。まずは俺たちの弁当を食べさせて、それから、話を聞こう。情報によっては、宿代くらいは出せるだろう」


 それくらいのお金は──リゼットが魔力結晶を売れば──ある。


「……ありがとう。ございます」

「別に構わない。ただの情報料みたいなものだ」


 疲れた声でつぶやく少女に、俺は答えた。

 俺は少女を背負ったハルカと並んで、歩き出す。少女はぐったりと、ハルカの背中に身体を預けてる。


 ……なんだか、元の世界のことを思い出すな。

 中二病時代に、似たようなことがあったような気がする。


 あの頃の俺は『人助けをして徳を積めば、スキルが覚醒(かくせい)するはず!』と思って、迷子や、荷物をたくさん抱えてるお年寄りを助けたりしてた。

 ……今思えば、黒いコートを着て謎リングや謎ブレスレットを身につけた中学生に助けられるって、かなりハードルが高かったような気がする。おばあさんに小学生に……それから横断歩道で貧血起こしてた少女もいたなぁ……思い出すとむちゃくちゃ恥ずかしい……。


「……このご恩は……忘れません」


 少女はハルカの背で、はぅ、とため息をついた。

 俺の方を見て、頭を下げてる。そんなふうにされると照れくさい。

 俺は私利私欲のためにしてるだけだ。彼女──ユキノが正式な召喚者かどうかを知るため──


「こんなに親切にしてもらったのは、この世界に来て(・・・・・・・)……二度目です」


 ──って、いきなりばらされた!?

 いいのかそれで。女神さん、口止めしなかったのか!?


「あたしの名前はユキノ=クラウディ=ドラゴンチャイルド──この世界を救うために──」


 疲れていたんだろう。

 少女ユキノは小さくつぶやいたあと、ハルカの背中で眠ってしまった。




いつも「覇王(はおう)さん」を読んでいただき、ありがとうございます。

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