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第14話「王はその武器に新しい『名前』をつける」

本日は2話更新しています。

今日はじめてお越しの方は、第13話からお読み下さい。




「非常時だ。こうなったらなんとか『命名属性追加(ネーミングブレス)』を使えるようにしないと」


 これがエンチャント系のスキルなら、今、役に立つ。

 本当は色々落ち着いてからにするつもりだったけど、迷ってる時間はなさそうだ。


 村人がピンチになってるなら、すぐに助けに行かなきゃいけない。

 今、動ける戦闘要員は、リゼットとハルカ、それと俺の3人。圧倒的に数が足りない。

 だったら、武器を強化して、全体の強さを底上げするしかない。


「『命名属性追加』は名前を与えるスキルでいいんだよな」


 だったら……自己流で試してみよう。

 名前で強化するやり方は、一度成功してる。この世界で『鬼竜王翔魔(きりゅうおうしょうま)』が力を発揮してるなら、同じようなやり方で、武器もエンチャントできるかもしれない。


 俺は『王の器』から『長剣(ちょうけん)』を取り出した。


「なになに?」「なにしてるの?」

「すごいことするの?」「王様すごいの?」


 子どもたちとハーピーが、興味深そうに俺を見てる。

「今から、この剣を強化してみようと思うんだ。で、参考までに聞かせて。みんなはこの武器を何て呼んでる?」

「ちょうけん!」「ロングソード!」


 思った通りの応えが帰ってくる。

 みんながこれを『ちょうけん』だと思ってる。武器をそう認識してる。

 じゃあ、それに似た名前をつけたら……どうなる?


「『命名属性追加(ネーミングブレス)』──発動」


 俺は長剣を握りしめて、宣言した。

 次の瞬間、目の前にウィンドウのようなものが浮かんだ。


 中央に『長剣』『ロングソード』の文字が表示されてる。

 文字を入れられるスロットは、3つ。それが現在の、命名できる限界数らしい。


「『これより紡ぐのは、王の言葉』」


 自然に言葉が流れ出て来た。


「『鬼竜王翔魔(きりゅうおうしょうま)の名において、新たなる属性を授ける』」


 長剣が、青白い光を帯びた。


「『汝の名は武器、長剣(ちょうけん)』──『類似(るいじ)なる言霊(ことだま)を受け入れよ』──『汝に与える属性(ぞくせい)は』──」


 ……どうやったら魔物と楽に戦えるようになる?

 黒いゴブリンも、ロードも、皮膚がやたらと硬かった。長剣が欠けるくらい。


 ってことは、必要なのは切れ味よりも強度だ。

 鬼族の力なら、武器が折れないってだけで力になる。

 それなら……(かた)くすればいいか──


「『長剣』──転じて『超堅(ちょうけん)』と為す」


 息を吸い込んでから、俺は宣言した。


「王の命名を受け入れよ!! 『命名属性追加(ネーミングブレス)』!!」


 長剣の表面に、青白い(ライン)が走った。

 それが何周かして、『超堅(ちょうけん)』の文字を描いて、消えた。

 反応があった、ってことは、これが正解か。


「あれ? 光った?」「なにしたのー。王様」

「んー、ちょっとね。悪いけどこれ持って」


 俺は手前にいた子どもに、強化したばかりの長剣を渡した。


「質問だけど、鬼族の手首や肘って強い? 硬いものを斬っても大丈夫?」

「かなり丈夫だよ。じゃないと、黒い魔物と戦えないからねっ」

「そっか、じゃあ、あの岩を斬ってみて」


 俺は庭先に落ちている、子どもの身長くらいある岩を指さした。


「お兄ちゃん? あんなもの斬ったら、剣の方が折れちゃうよ?」

「別にいいよ。折れちゃってるし、もらいものだからね」


 俺は言った。


「剣のことは気にしなくていいから、適当にさくっとやってみてください。手首に負担かけないように、上の方を、軽めに」

「そこまで言うなら」


 子どもは素直に、剣を構えてくれた。


「せーのっ!」


 さくっ。


 岩が斬れた。

 正確には、上の方がさくっと削れた。


「……え?」


 子どもたちと、ハーピーの目が点になった。


「「「ええええええっ!!!!?」」」


 上半分を『属性追加』した長剣で斬ったからだ。なのに剣にはひびひとつ入ってない。

 さすが、『超堅(ちょうかた)い』な。


「すごいー」「お兄ちゃんすごいっ!!」


 褒められると無茶苦茶恥ずかしい。

 俺は竜帝って人のスキルを、中二病的にアレンジして使ってるだけだから。


 土地に名前をつけるとか、人に名前を与えるとかは、俺にはまだ無理だ。

 だから『桐生正真』に『鬼と竜と翔と魔』の属性を与えたように、『鉛筆』に『炎筆(えんぴつ)』と名付けて魔法陣を書いてイフリートを呼び出そうとしたように、『長剣』に『超堅』って属性を与えた。


『堅い』は『もろい』の対義語で『しっかりして壊れにくい』という意味がある。

 だから剣は『超堅(ちょうかた)くなった』。


 結果、鬼族の力でぶつかってきた『折れない剣』に岩が負けた。

 それと、使ってみたらなんとなくわかったことがある。

『命名属性追加』は俺が所有しているか、借りてるものにしか使えない。


 けど、エンチャントした後で誰かに貸しても、その能力は続く。たぶん、半日くらい。


「ショーマ兄ちゃん。この武器は?」


 鬼族の女の子が持ってきたのは、俺の身長くらいの長さがある木製の棒だった。


「ハルカが使ってるのと同じ奴?」

「うん。鬼族は、棍棒(こんぼう)の方が得意なのー」


 断面は六角形で、先に行くほど太くなってる。木でできてるくせに無茶苦茶重い。通常状態の俺だと持つのがやっとだ。子どもがこんなの振り回せるのか。すごいな。鬼族。


「じゃあみんな、これをなんて呼ぶ?」

「こんぼう!」「おうだぼう!!」


 一番しっくり来るのは『棍棒』か。

 よし。


「『──鬼竜王翔魔の名において』──『命名属性追加(ネーミングブレス)』『汝の名は武器、棍棒(こんぼう)』──『類似なる言霊を受け入れよ』──『汝に与える属性は』──」


 息を吸い込んでから、俺は告げる。

 確か……固いものを表す言葉で『金剛(こんごう)』ってのがあったな。

 だったら──


「『棍棒』──転じて『金棒(こんぼう)』と為す。『金属のごとく強き』『棒であれ』。その強度、柔軟性ともに最高硬度の鉄を超える物であれ! 王の命名を受け入れよ!!」


 そして鉄の棒に光のラインが走る。

 新しい属性は『金棒』──『金属のような』『棒である』武器だ。


『棒』には『まっすぐな長いもの』という意味がある。つまり、この棍棒は金属のように堅く、まっすぐでありつづける。曲がりにくく、折れにくい。

 さっきの『超堅』と同じだ。強度が無茶苦茶上がってるはず。


「いくよー!」


 鬼族の少女が棍棒を岩に向かって降った。




 ぼこっ。




 棍棒はそのまま、岩に亀裂を入れた。

 よし。強度は十分だ。


「じゃあみんなにお願いだ」


 俺は子どもたちに向かって言った。


「これから、この長剣と棍棒を家族のところに持っていって、強化のことを伝えて欲しい。それでもしよければ、俺が村中の武器を強化する。そうすれば『黒騎士』と戦うのが楽になるし、村人を助けに行ってる間に『黒魔物』が襲ってきても立ち向かえるはずだから。

 ……お願いできるかな?」


「「「はい。ショーマ兄ちゃん!!」」」


 長剣と棍棒を手に、子どもたちが走り出す。

 大急ぎでやらないと。『翔種覚醒(しょうしゅかくせい)』が効いてる間に。






 子どもたちの仕事は早かった。

 みんなが村中の武器をかき集めてくるのに10分足らず。

 俺がそれを強化するのに3分。そのころには、リゼットたちの話し合いも終わっていた。


「ショーマさま」

「作戦は決まった?」

「はい。これからリゼットとハルカが先行して村人を助けに行きます。残った者が村の守りを担当します」


 それからリゼットは、腰に提げた長剣に触れて、


「ショーマさまが強化してくれた剣のおかげで、安心して戦えます」

「村の防衛(ぼうえい)の手伝いはするって言ったよ。これも仕事のうちだから」


 お世話になってる身なんだから、これくらいはね。


「それに、その方が早く仕事が終わるから。お互い、無理はしないように」


 元の世界ではだらだらするために仕事を効率化してたくらいだからな。

 まぁ、それでも矢継ぎ早に仕事は来てたんだけどね。仲間扱いしてもらえなかったせいで。


「一応、リゼットとハルカで、俺の『強化』がちゃんと作用してるか確認して。俺は戦闘の素人だからね。プロの目でしっかりチェックしてもらわないと」

「は、はいっ」

「それと、俺の翼はまだ使える」


 ここは、現実処理能力の高い元中二病の本領発揮だ。

『鬼竜王翔魔』というスキルの塊を、この村の安全のために最大効率で使おう。


「ただ、運べるのは一人だけかな。リゼットを運ぶのとハルカを運ぶのとどっちがいいか……孤立させるのは逆効果だから、がんばって俺が往復した方がいいかな……」


 俺は実戦経験が少ない。

竜咆(ブレス)』を全力で撃ったら、その場で『竜種覚醒(りゅうしゅかくせい)』が解ける。

『鬼種覚醒』の方はまだ未使用だから、使い勝手に自信がない。


 だから俺はサポートに回る方ことになる。でも、そうするとリゼットとハルカのどちらかを、ひとりで戦わせることになる。それじゃ意味がないよな。どうする……?


「王さま。王さま」「お手伝いいたしますよ?」


 気がつくと、ハーピーたちが俺を見てた。


「ワタシたちが協力すれば」「ひと一人くらいは運べますので」

「いいの?」

「ワタシたちハーピーがいたずら者なのは」「お仕えする者がいなかったから」

「「翼をなでていただいたからには、お力を貸すくらいなんでもないです」」


 ハーピーたちは、俺の前に跪いた。

 どうも、彼らにとって『翼をなでられる』ってのは、服従の意味もあったらしい。


 ……そりゃ(ひざまづけ)けって言ったのは俺だけど。

 王さまっぽく命令もしちゃったけどさ……。


「……あとで取り消せばいいか。代わりに、なにかあげよう」


 なんだかだんだん深みにはまってるような気がするけど……。


「わかった。じゃあハーピーたちはハルカを運んで。俺はリゼットと、武器を運ぶ。現地でハルカを降ろしたら、すぐに安全なところまで逃げてください」

「「わかりました。王さま!!」」

「がんばってください。王さま!」


 子どもたちまで!?


「ご、ごめんなさい兄上さま。あとで言ってきかせるからっ」

「いいよもう」


 俺はため息をついた。

 戦いが終わったら、尊敬の眼差しをかき消すくらいだらだらしよう。


「リゼット。作戦を聞かせて」

「はい。本来でしたら、リゼットとハルカが走って『廃城(はいじょう)』へ向かう予定でしたけど、ハーピーの情報があるなら、直接、村人が戦ってるところに向かいます。そして空から、敵の背後を突くのがよいかと」

「つまり、村人とリゼットたちで挟み撃ちにする、ってこと?」

「そうです。リゼットとハルカと、強化された武器があれば、敵陣を中央突破できます。それで敵を分断してから、村人たちと合流して一気に敵をたたきます」


 理に適ってる、ような気がする。

 俺の知識は最近やったシミュレーションゲームと、学生時代に読みまくったファンタジーと軍記物くらいだからな。ここは専門家に任せよう。


「わかった。じゃあハーピーたちとハルカが先行で」

「わかったであります」「「はい。王さま!!」」

「俺とリゼットがそれについていく。武器は俺が運ぶ。リゼットは、しっかり捕まってて」


 ぐずぐずしてられない。

 俺は強化した武器を『王の器』に入れた。

 そして両手でリゼットを抱える。そのまま翼を動かして、一気に上昇。


「しっかり捕まってて。リゼット!」

「はい──っ…………ショーマにいさま」


 先行して飛ぶハーピーたちと、それにしがみつくハルカを追って──俺は一気に戦場を目指したのだった。


異形の覇王はその翼で、戦場へと向かいます。

次回、第15話は、明日の同じくらいの時間に更新する予定です。

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