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第10話「その名は『異形の覇王 鬼竜王翔魔』」

 中学生のころ、俺はいろいろあって家族を亡くして、母方のじいちゃんに引き取られた。

 そして、いきなり環境が激変(げきへん)したことで精神的に不安定になり、中二病になったんだ。


 本名が『桐生正真(きりゅうしょうま)』だから、漢字を変えて『鬼竜翔魔(きりゅうしょうま)』に。

 さらにアレンジを加えて、『鬼竜王翔魔(きりゅうおうしょうま)』って名乗ってた。

 毎晩、黒いコートを着込んで、夜中に自転車を乗り回して、世界の敵を探してたんだ。

 さすがに眼帯まではつけてなかったけど。


 あのころはほんとに精神的に不安定だったから……。

 家族が死んだのは世界の悪のしわざだと思って、俺自身も知らない『敵』を探して回ってたんだ。


鬼竜王翔魔(きりゅうおうしょうま)』は4つの種族の力を使うことができる(という設定だった)。


 (おに)の力。

 (りゅう)の力。

 (しょう)(空を飛ぶもの)の力。

 ()混沌(こんとん)なるもの)の力。


 名前の中央に位置する『王』は『「王」にして「(おう)」』、つまりすべての(かなめ)となるものだ。あらゆる属性を受け入れるのが『王の器』で、ゆえに『王』の文字は五文字の中央に位置してすべてを支えている。

 だからこの俺、『鬼竜王翔魔』は4属性の力を使うことがあああああああっ!


「痛っ。いたたたたたたたっ!」


 俺は頭を押さえてのたうちまわる。

 いや、まじで勘弁してくれ。アラサーの俺にこの記憶はきつすぎる。


 鉛筆を『炎筆(えんぴつ)』と名付けて魔法陣を描いて、『炎の精霊(イフリート)』を呼び出そうとしたり──


 異能を覚醒させようとして、怪しい気功の本を読み込んで、朝昼晩実践したり。瞑想(めいそう)したり。チャクラを開こうとしたり──


 人のいない廃屋の裏に、オリジナルの魔法陣を描いて、大気中の魔力を集めようとしたり──


 起きてすぐと寝る前には必ず『魂に刻む。我が真名は「鬼竜王翔魔」である!』と宣言したり──


「うぁああああああああっ!!」


 わーすーれーてーたーっ。

 忘れたままでいたかったーっ!


 どうして忘れてたのかも思い出した。俺を引き取ってくれたじいちゃんと、約束したからだ。

 俺が高校に入るちょっと前、事故で入院した辰五郎(たつごろう)じいちゃんが、


「我が真名『竜悟狼ドラゴニック・アウェイキング・ウルフ』の名において、貴様の能力を封じる。この世界でお前の力が発現することは、もうない。貴様の使命は終わりだ。両親の分まで、普通に生きるがいい!」


 ──と言って、俺の中二病を封印したんだ。


 もちろん『竜悟狼(たつごろう)』ってのは俺がつけた、『辰五郎』じいちゃんの真名(まな)だ。


 じいちゃんは俺にとって唯一の家族で、中二病にも付き合ってくれた優しい人だった。

 だから、俺はその言葉に従って、(気分的に)能力を封印することを選んだ。

 自分でも、そろそろやめようと思ってた。数年間、自己流の修行を続けても異能は発現しなかったし、世界の敵も見つからなかったから。


 そんなわけで、高校は地元から遠い場所を選び、中二病もすっかり抜けた俺は、普通に学校を卒業して、就職して、じいちゃんを看取(みと)った。その時、忌引(きびき)きを取るのを拒否されたのがきっかけで仕事を()めたり、転職したりはしたけど。


 中二病時代のことなんか──もう完全に忘れてたのに。

 いや、忘れてなかったのか?


 忘れてたつもりで、心の奥底には残ってたのか?

 だから理不尽な仕事から、普通に逃げてたのか?


 でも……わからない。

 どうして今の俺は竜と鬼と、王の力が使えるんだろう。

 元の世界ではいくら修行しても、能力は発現しなかったのに……。


 わからない。


「……女神さんに、聞くしかないのかな……」


 俺は『王の器』から、ボールペンを取り出した。

 女神さんの手紙には「質問に、一度だけお答えする」ってあった。その下には広い質問欄がある。

 たぶん、ここに質問を書けばいいんだろうな。

 やってみよう。


 俺はゆっくりと深呼吸してから、質問欄に文字を書いていく──




『女神さまに質問です。俺の能力は、元の世界で俺が中二病だったことと関係がありますか?』




 そのまま待つ。

 十数秒くらい経つと、俺の質問の下に、別の文字が浮かんできた。



『はい。お答えします。キリュウオウ=ショウマさま』



 ありがとう。

 でもその名前で呼ぶのはやめてね。



『回答:中二病?については知りませんが、あなたの能力は召喚する前からあったものです。あなたのいた世界は魔力が薄いですから、覚醒はしたものの、活性化していなかったのでしょう』


『質問:覚醒って? 俺は元の世界でスキルを使えた記憶がないんですけど!』


『回答:ですから、あなたの世界は魔力が薄いんですってば。いくらスキルが覚醒しても、魔力が足りなければ使うことはできません。おそらく、スキルの存在に気づくこともなかったでしょう。

 あなたには驚いています。あんなに魔力の薄い世界で、それほど強力なスキルを覚醒させたなんて』


『質問:おかしいです。俺が中二病だったのは10年以上前の話だ。ずっと昔で──』


『回答:はぁ。つい最近のことですねぇ』



 ……女神さんとは時間のスケールが違ってた。



『回答:それに今、あなたの精神力は十代前半になっているはずです。そのころの力が使えるのは、それもあるのでしょう。でも、すごいですよね。あなたの世界で異能に覚醒するなんて。毎日、本気でそういう儀式をしなければ不可能です』


『質問:具体的には?』


『回答:技が使えるように、毎日欠かさずイメージトレーニングをしたり』



 してたけど。毎日欠かさずに。



『回答:自分には異能(いのう)があると本気で信じて、魂に名前を刻み込んだり』



 してたけど!



『回答:大気中の魔力を凝縮するための魔法陣を開発したり』



 してたけどっ!!!



『回答:まさか、大気中の微細な魔力を取り入れる修行はしてないですよね? あなたの故郷のように魔力の薄い世界でそれをやると、身体にかなりの負荷がかかります。

 いわゆる、酸素の薄い場所でトレーニングをするようなものです。あなたの世界で言う「高地トレーニング」の魔力版ですね。魔力感覚が強化されて、魔力を取り入れやすい体質になりますから──この世界では魔力吸収量がはんぱないものになります。

 おそらくはこの世界に転移した瞬間、あなたのスキルは一気に魔力を取り込んで、爆発的に活性化したのでしょう。女神である私でさえ、手を出せないほどのものに』




 ……もうどうでもいいや。



『質問:つまり……俺が中二病時代にやってたことは……』


『回答:あなたは、なにひとつ間違えていなかったということです。あなたは元の世界で、正しくスキルを覚醒させていたのです。ただ、あの世界の魔力が不足していただけです』




 おどろきの事実だった。

 ……というか、今さらそんなこと言われても困るんだけど。




『回答:そうですか……私はお手紙に、あなたの魂に刻み込まれた名前を書いたのですが、あれは戸籍上(こせきじょう)の名前ではなかったのですね。

 でも、(たましい)の名前の方がかっこいいと思いますよ。鬼竜王翔魔(きりゅうおうしょうま)さん? 異形(いぎょう)覇王(はおう)、鬼竜王翔魔さん。女神の私でも心震える名前です、鬼竜王翔魔さん!』


『やーめーてーっ!』



 まずい。文字を書くスペースがなくなる。

 残りの質問は──



『質問:ということは、俺の力は消えることもないし、使えなくなることもないってことですね?』


『回答:あなたの力を奪うことは、神でも不可能です』



 ……魂に刻み込まれちゃってるからね。



『回答:だから、私はあなたにスキルを与えることができなかったんです。余計な力は、逆にあなたを弱めることになりかねませんから。

 そして、あなたが召喚に引っかかってしまった理由もそこにあります。

 絶対神さまは私たちに、この世界を救う可能性を持つ者を召喚するための儀式を教えてくださいました。私が担当した召喚にあなたが引っかかってしまったのは……あなたがそれにふさわしいお方だからなのでしょうね……』


 無茶を言う女神さんだった。

 いいけどね。スキルの情報くれたし、おかげで生き残る可能性も増えたんだから。


『質問:最後に質問。この世界で得たスキルを誰かにあげることはできますか?』


『回答:わたしの管轄外です。ですが、あなたならそういうものも見つけ出せるかもしれませんね。

 鬼竜王翔魔(きりゅうおうしょうま)さんなら、この乱世さえも余裕で生き抜けるでしょうから。

 ですから……また、お会いしましょう。

 お元気で、異形(いぎょう)覇王(はおう)鬼竜王翔魔(きりゅうおうしょうま)さん。




 女神ルキアより』





 それっきり、文字は表示されなかった。

 手紙には「一度だけ」って書いてあったから……これで終わりか。





「……知りたいことは、だいたいわかったけど」


『王の(うつわ)』『竜種覚醒(りゅうしゅかくせい)』『鬼種覚醒(きしゅかくせい)』は、元の世界で、中二病時代にいろいろやった儀式がなんか成功して覚醒したスキルってことか……。


 どうして竜や鬼の存在を確信することで使えるようになったのかもわかった。


 元の世界には竜も鬼も、身体ひとつで空を()ぶ人間もいなかった。中二病時代の俺は気分的には『竜種覚醒』『鬼種覚醒』してたけど、なんの効果もなかった。だからそのうち俺は、(あきら)めた。


「この世界には竜も鬼もいないのに、スキルが使えるわけがない」──って。


 その感覚がこの世界に来ても残ってて、スキルを封印してたんだ。

 だから竜や鬼の存在を確信することで、封印が解けて、スキルが活性化した。


『王の器』が最初から使えたのは……元の世界でも『王様』は普通にいたからな。封印が弱かったってことなんだろうな……。


 でもって『命名属性追加(ネーミングブレス)』と『竜脈(りゅうみゃく)』は、『竜帝廟(りゅうていびょう)』にいた誰かが、俺を竜帝の後継者だと勘違いしてくれたスキルだ。

 だから、こっちの方のスキルの使い方はわからない。


 でも……竜帝のスキルの方だけど、本当に、俺がもらっていいのか?

『竜帝』の血を引くリゼットに返すべきなんじゃないかなぁ。


「……方法はまだ、わからないけど」


 それまでこの村にいて、リゼットを守るくらいのことはした方がいいだろうな。

 あのまま彼女が、誕生日ごとに『竜帝廟』の扉を開け続けていれば、いつかは手に入れていたかもしれないんだから。この竜帝のスキルは。




「ふふふーん。らららー」




 窓の外からリゼットの声が聞こえる。

 歌いながら、水くみをしてるみたいだ。

 なんだか落ち着く……眠くなるくらい。


 そういえばリゼットは、ごはんができたら呼びに来てくれる、って言ってたっけ。

 ──ずっと昔に、似たようなことがあった気がする。小学校の夏休み、とか。


 それ以来かな、こんなの。

 (なつかしい)かしいな……。


 ──リゼットには……世話になったお礼くらいは、しないと……な。


 俺は目を閉じた。

 眠りは、すぐにやってきた。


 ──見るのはたぶん、中学校時代の夢だろうな──。




今回登場したスキルと情報。


異形(いぎょう)覇王(はおう) 鬼竜王翔魔(きりゅうおうしょうま)


 子どもの頃の修行と、異世界の魔力が組み合わさって発現した、桐生正真(きりゅうしょうま)だけの力。彼のもうひとつの姿とも言える。

 スキルそのものは元の世界で覚醒していたのだが、燃料となる魔力を得られなかったため、能力を一切使うことができなかった。こちらの世界で豊富な魔力を手に入れたことで、スキルが一気に活性化した。


『鬼竜王翔魔』は『鬼』『竜』『王』『翔』『魔』の文字それぞれに魔力ゲージを持ち、使い切るまで各文字に象徴(しょうちょう)される力を振るうことができる。


 例外的に『王』の『収納』と『翻訳』のみ、魔力消費が少ない(回復する方が早い)ため、魔力ゲージが空の状態でも使用可能 。




次回、第11話は明日の同じくらいの時間に更新する予定です。

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