新世界より
小話ながら、閲覧、ブクマそれから評価をありがとうございます。
このお話は、本編の『ねがいごとはひとつ。』の現世の彼らのその後です。
※主人公は出てきません。
拝啓、ここじゃないどこか別の世界で第二の人生を過ごされている漆原さん。
あれから数ヶ月が過ぎてもうこちらは初夏ですがいかがお過ごしの事でしょうか?俺は今日も面白い事に巻き込まれていたりします。
春にはピンク一色だった木々が青く染まり、風に揺れてその葉を揺らす。当たり前の事なんだけどさ、この世界の花々は自ら動き回るなんて事はない。これ、重要。ほんと、命に関わる問題だかんね?ただ、風で揺れるだけなんだと安心出来るようになったのは、実はまだ最近の事だったりするんだけど。それは秘密。
日中は、あれだけ年寄りやらちっちゃなお子さんだとかがうろついていたこの並木は、真夜中という時間帯の今では俺たち以外誰も来ず。だからこそ、密会には最適で。
「よし、集まったか?えーそれでは、第二回、……えー、第二回、あの日の偶然はなんというか運命みたいなもんだから仲良くしようよ。それより、あの外国の子はどこに行ってしまったんだ?っていう内容を上手く表現出来る言葉を誰か考えてくれないか?」
「元主将、回りくどいでーす」
目の前には、若くして亡くなった男を共通に持つ二つの集まり。年齢も同じぐらいで体格の良さもあって、ちょっと見間違えれば、これからケンカでもするのかと思われる事この上ない。ただ、俺のいるグループは間違いなく先輩がけんかっ早いから職質は確実だけど。
もう片方は、明らかに巻き込まれたスポーツマンといった感じに見えるだろうな。
本来は、絶対に合わないタイプだけど、こうして話してみたら案外面白い連中で。先輩のお気に入りだったあの人が所属していたからこそ、こうして交友が広がったのも頷ける。
俺たちは、高校を卒業して成人してもわりかし暇で、先輩の気まぐれに付き合っては適当に毎日を過ごしてる。反面、あちらは真面目に生きて健康的で多忙な毎日を過ごしているようで、こうして集まったのは実はまだ二回目だったり。
それも、たまたま俺たちがゲーセンから出てきた所で鉢合わせしたに過ぎないんだけど。
向こうの元主将とうちの先輩が再び意気投合してしまったから、こうして再び肩を並べてこの思い出の場所へとやってきた。
「ああ、やっぱここへ来るとしんみりするぜ」
「漆原も、良い友達を持っていたんだな」
あ、それ違う。多分、あの人俺らのことただの近所にいる迷惑な不良グループとしか思ってないっス。
そんな完全な誤解をいいことに、先輩は普段眉間に皺を寄せた状態なのに若干嬉しそうにウンウンと何度も頷く。これ、あの人が知ったらすっげぇ嫌な顔されると思うなー。
と、思い浮かんだのは生前の顔ではなくて、つい最近再会を果たした時の可愛い顔で。
まっさか、俺のように転生してもあんまり変わらない容姿とかじゃなくって、あんな誰もが振り返るような絶世の美少女に生まれ変わってるとは思わなかったよなぁなんて思う。
しかも、双子!双子だよ!?これまた美少年なんだけど、見るからに活発そうなお兄ちゃんがいてさ。そんなお兄ちゃんに守られてる感じが、もうなんとも!
この世界じゃ先輩が散々迷惑をかけてた自覚はあるから、今の人生ではたくさんの人に愛でられて穏やかに生きていて欲しいものだ。
つう訳で、俺は前世の能力をまだ少し持っていたから、魂の形であの美少女が漆原さんだって分かったんだけどさ。
実は、あれから少しばかり先輩の様子がおかしい。
いや、先輩は漆原さんが亡くなった時から確実にどこか壊れてしまってたけど、最近は別の方向に向かってしまった。
「おう、それよりもだ。さっきも聞いたけどよ、お前らと会った時にいたあの女の子を知らねぇか?」
「ああ、そのことなんだが。実は、俺も……なんだ、その、あれからあの子を思い出す度に、胸のここら辺が締め付けられてだな」
「な、……んだと!?まさか、お前も!?」
「えっ?こっ、この感情が何か分かるのか?た、頼む!教えてくれないか!!俺は、今まで柔道一本で生きてきて、こんな気持ち初めてで」
……つっこみたくねぇ。あちらさんの集まりから、ロリかよとか幼女趣味の世界へようこそとかいう声が聞こえてるけど。
まだ、それなら良いんだって。あの漆原さんの可憐な姿は、この世界に生まれる前にいた世界でも稀にいたから、俺は耐性がついてるけどさ。この世界じゃ、まずこんな町中でお目にかかれるようなもんじゃないし、あの儚げな表情を見れば誰だって堕ちるだろうよ。
って。今は、容姿云々は置いといて。
転生前の仲間たちには散々ポジティブすぎだと言われ続けていたこの俺が、ここ最近珍しくどうしようかと思い悩んでいる原因は。
「お前も俺と同じだったとはな!そう、その感情とは、戦 闘 本 能!!!!あんなあざとい見た目でありながら、生まれついての戦士のような雰囲気と相手を撃ち殺すぐらいの恐ろしい視線で俺を見た時の表情なんか、あれはその辺の石ころと同じかもしくはそれ以下みたいで」
「先輩、すとぉーーーーっぷ!ストップ!一旦、落ち着いて下さいっス!!」
後ろのお前らも、だよな?とかゾクゾクしたわーとか言わない。やばい。卑猥。そんで、そこの運動馬鹿共は若干引くな……って。
「そ、そうだったのか。俺は、てっきりあの子に惚れたもんだとばかり」
「っつあーーーーーーー、もう!」
ど う し て 、 お 前 も そ こ で 素 直 に 共 感 す る ん だ!!!!
つうか、俺一人じゃ厳しいって。マジで。面白いんだけどさ、面白いけどほっといたらヤバそうじゃん?漆原さん的に。また会えるか分からないけどさ?次、会った時、もう俺はどんな顔をすりゃ良いのかわかんねぇ。
あーもうどうしようかなーとか思うわけだよ。そりゃあ、急にいなくなったのもあって、もう一度会えたのは嬉しいけどさ、なにも色んな人に別の扉を開かせなくても良かったじゃん?って。せめて、男同士だったら、友情に走ったりだとかまだ救いはあったものをさあ?
「……はあ」
とりあえず、俺も落ち着け。こういう時は、深く、もっともっとふかーく深呼吸すれば良い。
そうして、ようやく落ち着いた俺の肩へ、不意に手が乗せられた。
「ちょっといいか?お前は、あの時あいつの傍にいた男だろう?」
その言葉に驚いて、勢いよく振り返った先にいたのは――なんと、漆原さんの弟さんというまさにミラクル。
「……」
まさかのこのタイミング。……え?マジで?最 悪 じ ゃ な い か。
ああ、嘘だろう。頼むよ、漆原さん!俺の為にもう一回だけ来て欲しいっス!!
度々出てきた不良グループの後輩くんの受難話でした。
名前付けてなかったんですが、裏設定てんこ盛りなので、最近自分の中では『杜御くん』と呼んでます。
それから、主人公に関して性別を誤解していますが、女装でしたので誰も男だとは気付いていません。