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餞別には奇跡を一つ。

小話ながら、閲覧、ブクマそれから評価をありがとうございます。

このお話は、四章その後でリーンハルトの旅立ちの日のお話です。

※主人公は出てきません。

 いつからだろう、将来について何も希望を見いだせなくなったのは。

 当たり前のレール、当たり前に決められた約束された終着駅。

 それら全てが目の前に広がっていて、希望という名の未来はどこにもなかった。

 それは、名門貴族たるが故の必然の将来。

 けれども、そこに自分という存在や意志すら介在する事は無く、個人という概念が失われた世界。


 紛れもなく。


 ただ、生きるだけの世界。



 そんな世界に見切りをつけようと思ったのは、己の前に現れた一人の男の存在だった。

 男の名は、フェルメール。フェルメール・コーナーという、貴族でもなんでもない庶民の男だ。

 初めて出会った際に、男は言った。

「お前は俺よりたくさんのものを持ってる癖に、どうしてそんなつまらなそうなんだ」――と。

 その時は、決してそんなつもりはなかった。むしろ、自分より劣っている男を内心であざ笑い自分を誇っていたぐらいなのに。

 しかし、そこに衝撃を受けたのだ。

 そして、何より――男に全てを見透かされている気がして腹立たしかった。

 この男は、いけ好かない。

 徹底的に排除してやる。

 そういう思いで始まった学生時代は、今にして思えばある意味青臭くて実に有意義だった事は認めよう。

 楽しくなかったといえば嘘になる、とだけ。

 男の存在が鬱陶しくして仕方なかった。けれども、歯がみすることばかりではなかった。

 それが、いつしか心地よくなっていて。

 いつか、この男に己の存在を認めさせたいと願うようになってしまった。

 それは、きっと自分の兄も同じ思いなのだろうという事にさえ、気付いてしまった。

 だから。

 だからこそ、世界を知らなければならないのだと思えたのだ。

 優秀な兄なんかよりも、唯一無二になった自分を認めてもらわなければ、と是が非にも思うようになっていた。

 どうだ、世界を知っている己の方が凄いだろう?と。

 兄よりもこちらの方が役に立つだろう?と。

 いつ、この国へ戻れるかは分からない。それは、確かに不安的要素になるのかもしれないけれど、終着駅はとうの昔に決めてある。

 それは、いわば願掛けのようであるけど、あの男は約束を違えるような真似は絶対にしないだろう。

 それが分かるが故に旅立てるのだ。


「リーン」


「見送りは不要だと言っておいたはずですが」

 ほらね、この男はこういう奴だ。

「まあな。けど、俺がしてぇんだから別にいいだろ」

「最後までお前らしくてうんざりするよ」

 やっと、最後の最後まで諦めの悪い兄と別れて清々したと思ったら。

「ははっ。そう邪険にすんなよ、いつ戻ってくんのかもわかんねぇのに」

「心配せずとも」

 旅は無計画だが無謀をするものではない。私が誰よりも慎重派だという事は、こいつが一番知っているはずなのに。

「わっかんねぇかな?戦友の旅立ちを祝いてぇって思うのは当然だろうが」


「……せん、ゆう?」


「別に、俺たちゃ戦になんて出てねぇけどな。リーレンにきて、初めてお前と会ってから、俺はずっとお前の事をそう思ってたってだけだから。嫌なら悪友でも学友でも何でもいいけど」

「……いや、それでいい」

「なぁーに、笑ってんだよ!ああ、くそ。どうせ、俺のガラじゃねぇって言いてぇんだろ!」

「ふふっ、いや。そんな事は」


 ただ。

 ああ、なんだ――と思っただけで。


「餞別代わりに受け取っておくよ」

「なんだ、そりゃ」

「なんなのでしょうね。それじゃあ、行ってくるよ」

「ああ」


 もう既に、私は、この男にとって背中を預けられるような存在になっていたのか、と。

 また一つ、思い知らされただけのこと。

 けれども、今更知ったところで旅を止めなどはしないけれど。

 そういう奇跡を最後に起こしてくれたのか、と。

 それを知っただけでも、この旅は幸先が良い、なんてただ思ったに過ぎない。


リーレンサイドは、この先輩三人のこんがらがった関係が好きでした。

リーンが唯一、ため口をきくのはフェルだけだとか、リーンは完璧な癖に劣等感の塊だとか。

ディーの兄馬鹿な面も、もっと書いてあげたかったです。


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