紅茶のひめごと※
せっかくの紅茶の日なので久しぶりにSSをと思ったのですが、数分遅れました。
実は、前世の僕は紅茶より珈琲をよく飲んでいた。
思い出してしまうのは試合前日に母親がよく出してくれた珈琲の味。試合前は気が立っているからか、近所の珈琲店で挽いてもらったものを丁寧によく淹れてくれていたんだよね。
今の見た目だと信じてもらえないかもしれないけれど、僕は珈琲はブラックが好きだった。で、弟の史哉は砂糖多めのミルク少なめ。しかも、あいつさ、猫舌だったから熱いのは飲めなくて…いや、まあその話はこの辺にして。
この世界には珈琲がない。ね、びっくりしたよね?僕だってびっくりした。それに似たものはあるんだけど、あまりにも味が薄くて我慢出来なかった。申し訳ないけれど。
そんな訳で、この世界の主流は自ずと紅茶になるわけだ。まあ、僕の知る限りは。だから、まだうちの国と貿易してない国にはもしかしたら緑茶とかそれに近いものはあるかもしれない。…あったら良いなぁ。たまーに緑茶も欲しくなるよねってこの間セラフィナさんとも言ってたんだよ。ってまた脱線した。それに、これは僕の願望です。ごめんごめん。
あっ、だからと言って誤解しないでほしい。僕は紅茶が嫌いって訳じゃないんだよ?むしろ、アルと入れ替わってからはどんどん紅茶マスターになっていってる気がする。うちには優秀な侍女がいるからね。サラは僕をどうしたいんだろ…いや、別にいいんだけどさ。
けど、僕だってまだ知らないものはあるわけで。
「――あっ、香りが凄い」
久しぶりにアルと入れ替わってリーレンで過ごしていたら、リーンハルト先輩からお声がかかった。
曰く、珍しいお茶を飲みませんか、と。
あまりの良い笑顔に、今までの事も考慮してお断りしようかと考えた。――けど、悲しい哉、ここは縦社会の騎士養成学校。先輩の重圧に耐えきれず、頷くしかなかった。
という訳で、リーンハルト先輩のお部屋にお邪魔した訳だけど、本当にお茶を飲みながら話をするだけだったから人を疑うのは良くない事を知りました。はい。申し訳ありません。
「そうでしょう。それに、身体が温もってきませんか?」
「ええ、確かに」
一見、ただの紅茶に見えるのにとても香りが引き立っていて飲んでいくと身体がぽかぽかとしてくる。そろそろ寒くなってきたし、気を利かせてくれたのかなぁ、なんて。
「もう一杯、飲みますか?」
「え、……ぁ、でも、ちょっと暑くなってきましたよね」
今日は朝から天気も晴れていたし、こんな風に暑さのぶり返しもあるのかもしれない。いや、もしくはこの部屋自体が暑いのかな?
「暑いですか?」
「はい」
「暑いだけ?」
「ですね。暑すぎて頭もぼっーとしてきますし」
「へぇ」
うん?こんなに暑いのに先輩は暑くないのかな?
「ああ、確かに顔がちょっと赤いですね」
「……あれ?僕、熱でもあるんですかね」
おかしいな。最近は全く熱なんて出なかったのに。
「喉が渇くでしょう?もう一杯、淹れますね」
「ありがとうございます」
先輩は優しいなぁ。……えぇ?リーンハルト先輩ってこんなに優しかったけ?あれ?もっとちゃんと考えなくちゃ。
「てっきり、泣き上戸なのかと思ったのに意外ですね」
「えっ?どういう……それより、僕、暑くて……あの、少し服を緩めても?」
駄目だ、暑すぎる。あ―もう、本当に駄目。我慢出来ない。
許しを得る前にネクタイへと手をやって少し引っ張る。そうしたらもう後は我慢の限界で、シャツのボタンに手を掛けた。――――所で、いきなり部屋の扉が開いた、ような気がする。
「おい!!何してんだっ!」
……えっと、……フェルメール?
「イイ所だったのに」
「良い所だぁ!?お前、自分が何したか分かってんのかっ!」
「分かってますよ。イエリオスくんに酒入りの紅茶を飲ませただけじゃないですか」
「それが何かって顔すんなっ!」
「私に構っていて良いんですか?」
「構うも何も……って、おい!イオっ!待て待て待て待て待てっ!ちょっと待て!おまっ、ちょっ、ここで脱ぐなぁああああ!!」
あーもう、うるさいなぁ。
「フェルメールさんのばか」
「――っ!……反則だろ、それは」
なに言ってるんですか、と問いかけようとして視界が揺れる。
――あ、と思った時には世界が暗転していた。
後日、何故かアルに泣きながら抱きつかれて「もう飲まないで!」とせがまれた。
……いや、なんでアルコール中毒者のような言われ方しなくちゃならないの。




