緋色の片思い※
遠距離恋愛の日に載せたものでした。
まだ始まりの頃のお話。
さらさらと風に靡く白金色の髪。陽にあたるときらきらと光って、まるで宝石で出来た糸みたい。透き通った肌はその存在の儚さを引き立てて、誰もが夜の妖精を思い浮かべる。
横顔ですらまるで芸術品のように。その美しい顔がこちらを振り向き微笑みを湛えると、柔らかに細められた蒼色の瞳とかち合って――
「おはよう、セラフィナさん」
あぁ、どうしよう。鼻血が出そう。
「セラフィナさん?あの、大丈夫ですか?」
えっ、困った顔は天使ですか。
それ以上、覗きこまないで下さると嬉しいな。控えめに言って最高過ぎる。
「あっ、お、おはようございます!イ、アル様!」
緊張し過ぎちゃってドキドキしちゃう。
どうしてだかこの乙女ゲームの世界に転生してしまって、いつかは会えるって分かってはいたけれどまさかこんな風に会話まで出来るとは思わなかった。
「顔を見て動かなくなったから、倒れるのかと思いました」
「……すみません、感極まってしまって」
なんだそっか、とちょっと表情が柔らかくなる所が好き。
「イオ様と一緒に通学出来る日が来るとは思わなかったので、幸せ過ぎて気絶しそうです」
「セラフィナさんは本当にイエリオスが好きなんですね」
「ええ、まあ。だって、想像してみて下さいよ。ずっと画面越しに見ていた推しとこんな風に話せるなんて思わないじゃないですか」
イオ様との出会いはあの頃の私にとってそれだけ衝撃的だったのだ。それまでゲームなんてした事がなかったのに、あそこまでハマるなんて自分でもびっくりしたぐらいだし。
「中身は違いますけどね」
「それはどうなんでしょうね。何だかんだいって、性格はそのままじゃないですか」
ここに入学して、イオ様をずっと見守り続けて気付いた事がある。それは、私と同じように転生したという彼はイオ様と、とてもよく似ているのだ。きっと、本質が似ているんだわ。
「僕はゲームのことは全く知りませんが」
確か、イオ様の前世の彼は大学生で柔道をしているんだっけ。だから、こんなにまっすぐなのかなぁ。
「優しくて穏やかで、気弱に見えるのに実は芯があって」
「そ、そうでしょうか」
あ、照れた。
「初恋のエル様をずっと一途に想っていらっしゃるのが、なんともいじらしくて素敵なんですけれども」
「へっ!?や、あ、あの、ちょっと待って」
……ふふっ。
「肝心な時に臆病だから、それが歯がゆいんですよね、ほんと」
「……あの、本当にイエリオスが好きなんですか」
疑わしそうな表情を浮かべて小首を傾げるその仕草にグッとくる。知ってた?動いているイオ様はころころと表情がよく変わるの。
「好きですとも!愛しています!けれど、お付き合いしたいとは思いません」
「僕はやはり魅力がないんですかね」
違う。違うからがっくりこないで!可愛いすぎ!
「ではなく、魅力がありすぎて、ずっと傍にいるのが耐えられないんです!」
だって、イオ様は死ぬ直前まで思い焦がれていた存在だもの。推しと同じ空気を吸っているだけで土下座したくなるってものよ。
「それって褒めてます?」
「当然です!私がどれだけイオ様を見てきたか、見続けてきたか……それこそ、遠距離恋愛にも匹敵するぐらいなんですよ」
だって、私は二次元に恋をしたんだから。
毎日、同じセリフしか言わないキャラに。
なのに。……なのに、こんな近くでご尊顔を拝謁できる日が来るなんて!昂ぶらずにはいられないでしょう!?
「そ、そうですか」
「イオ様も遠距離恋愛型ですよね」
「え?」
「エル様と手すら繋いでませんよね」
「ど、どうしてそれを!……ってゲームか。えっ、それって僕の恋愛遍歴とか全く知らない人たちにも知られているって事ですよね?……嘘でしょ。うわぁ……何だか急に恥ずかしくなってきた」
うーん。こればっかりはどうしてあげる事も出来ないなぁ。私には慰めてあげるしか。
「大丈夫です。皆、そんなイオ様が大好きなので」
いや、本当にね?イオ様には教えないけど、イオ推しのファンは熱狂的な人が多かった。
「そ、そういう問題では」
「あら、おはようございます」
「エ、エル!」
見た!?今の!今の見た!?背中がびくって!やだ、どうしよう。今日も推しがこんなに可愛い。
尊すぎて涙出そう。
「はい、おはようございます。朝から何だか楽しそうですわね」
あれ?あれれ?もしかして、エルフローラ様に嫉妬されてる?いや、そんなまさかなぁ。
「も、もしかして、い、今の、き、き、聞いて」
「何のお話でしょうか?私、お二人を見つけたので、小走りしてようやく追いつきました所ですのよ」
「っ、そ、それは……えーっと、ぼ、ぼく、用事があるから先に行くね!」
あー、残念。行っちゃった。
「……あらあら」
「もう!エルフローラ様もお人が悪い」
「セラフィナ様こそ、私が後ろにいる事を知っていて野暮なお話をされていたではありませんか」
「だって」
私がそう言うと。
「ええ、分かりますわ」
エルフローラ様が頬に手を添えて肯定する。
「イオ様の真っ赤なお顔が可愛らしいので」
「イオ様の真っ赤なお顔が可愛いのですもの」
と、同じ事を口にして、思わず顔を見合わせて笑い合う。
「あの方、どうしてあんなにも反応が可愛いんですか」
まさか、あそこまで可愛い生き物だとは思わなかった。いつか私の心臓は止まるかもしれないと本気で思う。
「分かりませんわ。昔から色恋沙汰の話となると逃げ腰になりますの」
そういえば、ゲームの中でも純朴な所があったなぁと思い出す。そういう不器用な所もほんと好き。
「なるほど」
ただし、私の好きなイオ様はエルフローラ様を愛するイオ様なのだ。お二人のやり取りだけでご飯三杯は余裕でいける。
「ええ」
なので、どうにかエルフローラ様に誤解だけはされないように気をつけよう。
いずれにせよ、これから私のスクールライフは幸せに満ちあふれている事だけは確かだ。




