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心への近道≠魂までの距離【九章番外編】

ラストはやっぱりフェルメールとなりました。


 フェルメール・コーナーがそれを自覚したのは、もう随分と前の事だった。


 己の行動範疇が騎士のそれから逸脱していると分かっていても、無防備な少年をどうしても気に掛けてしまうのだ。猫のように警戒心は強いのに、肝心な時に限って危機感を持たない少年――イエリオス・エーヴェリーのことを。

 仕組まれていたとはいえ、ミュールズ国に住む民の子であれば一度は憧れる夢の国立騎士団を退団してまで傍で支えてやりたいと思ってしまったのだから。

 紆余曲折を経て、その願いは現実となった。両親には事後報告という形になってしまったが、イエリオスの父親がこの国の宰相ということもあってご子息に仕えるのは名誉なことだと喜んでもらえた。

 もちろん、フェルメール自身もこれでやっと堂々とイエリオスを護衛できると思っていた。

 いつも、いつの間にか厄介事に巻き込まれている少年を危険な目に遭わせないように見守れると安心していたのだ。


 ――なのに。


「あっ、フェルっ!ねっ、ねっ!ちょっと匿って!」

 ドン、と背中に衝撃が走る。フェルメールが振り返ると同時に情けない声をあげて顔を仰いできたのは白金色の髪の少年。――否、リーレン騎士養成学院の制服を身に纏っているが歴とした少女であるアルミネラ・エーヴェリーだった。

「廊下は走るな。っつうか、匿ってください、だろ?」

 はあ、とため息をはき出しながら半目で持っていた本で頭を軽く叩けば、あだっ!とアルミネラが小さく呻く。同じ顔をしている双子であるものの穏やかで慎重な性格のイエリオスとは違ってアルミネラは破天荒で慌ただしい。

 フェルメールがまだリーレンに在籍中だった時から幾度も繰り返されていた一連の流れはもはやお馴染みで、たまたま通りがかった生徒たちもいつものアレかーという顔で通り過ぎていく。

「ごめっ!だってさ、あいつしつこいんだもの!用を足しに行くだけだって言ってるのに付いてこようとするんだよ!?」

 さて、どう説教してやるかなと考えていたらアルミネラが何度も後ろを気にしつつ、半泣きになって訴えてきたので思わず片手で目を覆う。

「あー」

 アルミネラの言う『あいつ』とは、卒業したフェルメールの代わりに新しくアルミネラのルームメイトとなった新入生のティッシ・オメローのことである。ティッシは王都から随分と離れた街からやってきたのだが、彼をスカウトしたのは双子の父に恨みを持っていた国王の側近だった。その側近はとある事件を引き起こした後に牢獄内でこの世から旅立ってしまったが、『イエリオス・エーヴェリー』の監視をティッシに言いつけていた所為か今もイエリオスに成り代わっているアルミネラの後をずっとつけ回しているのだという。

 でも、さすがに厠にまでついてくるのはアルミネラがご令嬢である以前に、普通に考えてもおかしい。

「……分かった。あいつには指導室にきてもらう」

 仕方ねぇな、と内心で肩を落としたフェルメールは力なくそう答えるしか出来なかった。

「やったー!ありがとう、フェルメールせーんせ!」

 今にも飛びつかんばかりに喜ぶアルミネラとは打って異なり、フェルメールは目を細めて彼女の頭頂部を見下ろした。

「こんな時だけ先生って呼ぶんじゃねぇ」

 そう言いつつも、フェルメールは甘んじて臨時の教員に納まっているわけではない。

 先の事件で限られた時期の記憶を失ってしまった今のイエリオスからの要望で、フェルメールの身柄がこのリーレン騎士養成学校の学校長を務めるコルネリオ・フェル=セルゲイトに預けられた時点で学生とは関わらざるを得なかったのだ。

 つまる所、エーヴェリー公爵家の双子を溺愛しているからイエリオスのお願いは受け入れたが、フェルメールをどのように扱うかはコルネリオの自由という訳である。

 ただで預かるとは言ってないからね?という国中の女性を虜にするコルネリオが満面の笑顔を浮かべた事をフェルメールは当分忘れる事はないだろう。


 全ては、イエリオスが記憶を失わなければ――


 ふわりと暗い思考が頭の片隅に浮かんで消える。

 人づてに聞いた所によればいまだイエリオスは記憶を取り戻す気配などないようで、僅かな焦りがそんな形となって現れてしまうのだろう。

 ――分かっている。

 頭では分かっているのだ。

 少年が体験した出来事が、記憶を失ってしまうほどに苛烈を極めすぎていたことは。ましてや、生まれた時から貴族としてなに不自由なく暮らしていたのだから、一時的であっても人間以下の扱いを受けたのは耐えがたい屈辱だったに違いない。

 だからこそ、そうなる寸前でイエリオスを助けられたかもしれないフェルメールの肩には罪悪感が重くのしかかっていた。

 悪人に連れ去られる前に、自分がもっと早く気付いてやれば。

 あの時、たまたま手に入れた檻の鍵に満足せず、もっと手当たり次第に探していれば。


 どれだけ後悔してもしきれないまま、己への失望を抱きフェルメールは毎日を過ごしている。



「よう、お疲れさん」

 イエリオスの専属の騎士になったとはいえ、エーヴェリー公爵家とはまだ正式に契約したわけではないのでフェルメールの立ち位置は微妙といって差し支えない。なので、現在の立ち位置は第二騎士団を退団していながらも依然としてコルネリオの管理下に置かれており、リーレンには臨時の教員として学生たちのサポートにあたっている。

 だから、偶然はつきもので。

 教員室で、同じ臨時の教員という境遇の同級生と出会った――のだが。

「……」

「無視かよ!まあいいけどよ」

 扉を開けて目の前にいたというのに無視された。しかも、扉が開いた瞬間、ばっちり目が合ったにも関わらず。

 しかし、相手には学生の頃よりずっと目の敵にされていたので、フェルメールも慣れたもので軽くつっこんでからさっさと自分があてがわれた机へと向かった。

 相手に嫌われているのはフェルメールも理解している。その理由も学生時代に嫌と言うほど何度も繰り返し告げられていたので分かってはいるが、フェルメールは相手が嫌いではないので気にしていない。

 それに今は同じ臨時の教員という仮初めの肩書きではあるが、本当はエーヴェリー公爵家の子を護衛する立場である事も同じなのだ。ただし、向こうは国から王太子の婚約者であるイエリオスの妹、アルミネラ・エーヴェリーの護衛役を任されているが。

 エーヴェリー家の双子はとても仲が良いため、これから共に動く事もあるだろう。ならば、少しずつでもこのわだかまりを無くしていくべきだと思い、フェルメールはここに来てからよく話し掛ける事にしている。まあ、今のように無視をされてばかりだが。

 そういえばこの男の弟の方は元気でやっているかな、と思いながら机に下に置いてあった教科書を手にした――すると。

「……お前は、この現状に満足しているのか?」

 不意に机の上に影が出来て、相手が珍しく傍までやってきたことを知る。だが、それよりも相手の言葉で身につまされて思わず苦笑いを浮かべてしまう。

「ノルウェル先生ってば相変わらず辛辣でやんの」

 冷てぇな、と笑いながら視線を逸らしたが、相手は真面目が服を着ているような男なので当然、冗談など通じはせず。

「茶化すな。俺はお前が嫌いだからな、コルネリオ様のようにお前を甘やかすつもりはない」

「え、俺が甘やかされてんの?いやいや、違うだろ。コルネリオ様はイオの要望に応えてんだ。だから、俺は――、っ!」

いきなり襟もとを掴まれて、壁に身体をぶつけられた。

「お前の唯一の長所はなんだ?」

「……ちょっ、いきなり突っかかってくるの止めてくれよ」

 まさか、そんな横暴な真似をされるとは思わなかったので驚きつつもおどけると、更に首が絞まって眉を潜める。

「いいから、答えろ」

 取り付く島もないとはこういう事を言うのだろう。あまりにも理不尽な行為に怒りが湧いたが、かち合った相手の瞳にも明らかに苛立ちが含まれているのが分かって、フェルメールは再び視線を逸らしてしまった。

「……んなもん、知るかよ」

 そもそも、フェルメールは貴族ではなく城下町で八百屋を営んでいる夫婦の三男坊だ。うってかわって相手はイエリオスの家柄と同じくとミュールズ国で古くから代々続く名門の公爵家。雲泥の差は明らかで彼らに比べたらフェルメールなど知性も素養も、ましてや高尚さなど持ち合わせていない。

 ――そうだ、自分が誇れるものなど俺にはない。

 だから。

「自分では気付いてないのか?お前はリーンから『監督生』という称号を奪ったんだ」

 フェルメールは人一倍努力するしかなかった。

 平民でも監督生になれるのだと、同じ平民出身の生徒たちが頑張って騎士になろうと日々励んでいる背中を押してやりたかったのだ。

「それがなんだよ。お前はまだ、んなもんひきずって」

「貴族ではないくせに、お前は『監督生』になったんだ」

 あの頃は――監督生に選ばれた頃は、正直にいって本当になれるとはフェルメール自身思ってもみなかったので驚いたぐらいだ。それに、相対しているこの人物が全生徒を統べる統括長になるのは決まっているようなものだったので、その弟であるリーンハルト・ノルウェルが監督生になると思い込んでいた。貴族という事を抜きにしても、リーンハルトの方がフェルメールよりも成績が優秀だったし教師たちのうけも良かったからだ。

 それが何故か、リーンハルトではなくフェルメールが『監督生』に選ばれたのだから戸惑いもするだろう。そんな負い目をこの男はずっとつついてきていたのだから、フェルメールだって多少は辟易している。――それは今も。

「は?だから何なんだ。はっきり言えば良いだろう?」

 嫌味ぐらい。

 聞き流す術はこの数年間でちゃんと身に付いているのだ、皮肉にも。

 それより手を退けてくれ、と相手の腕を掴んだ瞬間、何故かぎゅっと力が込められた。

「……実際、お前はリーンより手際が良かった。戦闘技術はリーンの方が上で動きも鮮やかだが、お前の剣は実戦向きで何より動きに全く無駄がなかったからな」

 ――もしかして、褒められてる?

 んな訳ねぇよな、と考え直してみたが相手は居心地が悪そうに視線を逸らす。何となく、それだけで意図は分かってしまい――

「それに、どれだけ傷を負っても何度もお前は立ち向かってきた。しつこいぐらいに。……俺は、お前のそういう往生際が悪い所が大嫌いなんだ」

 決定打は実に、この男――ディートリッヒ・ノルウェルらしい感じがした。

「言ってくれる」

 要は、ずっとフェルメールを恨んでいたからこそ素直に励ませないのだ。

 エーヴェリー家の双子と違って、こっちの双子はどちらも捻くれ過ぎている。

 ――まあ、嫌いじゃないけどな。

「フェルメール・コーナー。お前はこんな所で油を売っている暇があるのか?大人しく待っているのはお前の性分じゃないはずだ」

 そう言うやいなや、フェルメールの返事も聞かずぱっと襟を手放したかと思うとディートリッヒは去っていった。

 学生の頃はフェルメールが何をしてもディートリッヒには無視をされていたが、今回ばかりはよほど目に余っていたのだろう。歯がゆく思うのはフェルメールとて同じである。

 本当は、直ぐにでもイエリオスを手助けしてやりたいと思っている。

「……けど、あいつがそれを望んでないんだ」

 主従となったのは記憶を失くす前のこと。今のイエリオスはフェルメールとの思い出が記憶にないのに、自分専属の騎士がいる事に戸惑っている。それは毎回、ここへやってきて顔を合わせる度に探るような目をするイエリオスの視線から見てとれた。

 “俺はお前の敵にはならない。”

 そう言いたいのを今もずっとフェルメールは我慢している。


 だが――――

 その深慮深さのおかげでフェルメールは後悔する事となる。




 この数日間は、全く何の手がかりも掴めなかった。

 ディートリッヒにけしかけられたにも関わらず、どうして自分の本能に従って素直にイエリオスに会いに行かなかったのかと自問自答するのはもう何度目の事だろうか。

 あれからまもなくしてイエリオスが王太子に毒を盛った容疑で牢に収容されたのも、そこから反体制派の主犯格の男に連れ去られたというのも知ったのはリーレンの生徒と騎士団とで捜索隊が結成された日のことだった。

 生徒たちには反体制派が関わっている事実は伏されていたが、コルネリオに呼ばれて詳細を聞かされたフェルメールは一人悶々とするばかりだ。そもそも、コルネリオはイエリオスが牢に収容される事や反体制派に狙われていた事も知っている様子だった。

 なのに、イエリオスの騎士であるフェルメールには全く何も説明がされていなかったのだ。

 それはつまり――――


 コルネリオ様に、俺はイオの騎士だと認められていないからだ。


 エーヴェリー家の双子を溺愛しているコルネリオの判断基準は、双子に必要かどうかのみ。とすると、ここまで疎外されていたということは、言わずもがなフェルメールは不必要だと処理されてしまったのだ。

 頭から大きくて重たい石を落とされるぐらいにショックだったが、悲しいというより悔しい思いの方が強い。人身売買にかけられたイエリオス奪還後に簡易的ながらも騎士拝命の儀式までしたというのに、そこから成果を上げられずズルズルとリーレンの教員に成り下がっているのだから当然と言えば当然だからだ。


 ――『大人しく待っているのはお前の性分じゃないはずだ』


 確かにそうだ。

 リーレンに在籍している間は、アルミネラの護衛も兼ねていたが何度もイエリオスの下に赴いていた。それに、リーレンを卒業して第二騎士団に入団してからも先輩方の目をかいくぐってちょこちょことお節介を焼いてきたのは事実だった。コルネリオには直ぐにバレて何度もペナルティを課されてしまったほどだ。

 それでも大人しく出来なかったからこそ、コルネリオが手綱を放したのだ。いや、解放してくれたといっていい。

 むしろ、コルネリオが騎士団から退団させてくれたのはフェルメールへの温情だったのではないかと思っている。

 ――ああ、そうか。


 俺は、俺の思うままに動けば良かったんだ。


 今までと同じように。主従となってから変に形式にこだわってしまったから、このような事態を招いたのだ。すると、フェルメールの心にあったわだかまりがストンと落ちて消えた気がした。

 もしかすると、二度とイエリオスの記憶は戻らないかもしれない。

 せっかく専属の騎士となったが、イエリオスは不要だと白紙にしてしまうかもしれない。

 だが。

 もう、二度とこのような過ちは繰り返さない。

 その為に、フェルメールは己に誓う。


 どんな事があっても何が起きようと、どれだけ嫌がられたって自分は最後までイエリオスの傍にいる――――と。


 その時。

 近くで金属がぶつかる音が聞こえてフェルメールの体に緊張が走った。

 足早に歩を進めるにつれて動揺を隠せない生徒たちを連れて行くのは忍びなかったが、嫌な胸騒ぎがして現場に向かう足を止める事など出来ないでいる。

「っ、レイン!」

 狭い路地を抜け、顔を出すとそこにいたのはイエリオス――ではなく、寄宿舎でルームメイトだったレイドレイン・バーネが数人を相手に健闘している所だった。

「あっ、……フェル、せんせい」

 走りながら鞘から剣を抜き、レイドレインの死角からの攻撃をそれで受けとめる。

「どういうことだ!?お前、なんで戦ってんだ!?」

 アルミネラと共に新入生として入ってきたレイドレインは誰よりもよく眠り、通常授業だろうが課外授業だろうが何だろうが直ぐにサボって惰眠を貪っている事がよくある。今回もレイドレインはフェルメールの隊に組み分けされていたのだが、途中からいなくなったのでついでに探していたのだ。それでようやく見つけたかと思えば貴族たちと戦っているのだから、フェルメールには訳が分からない。

 とにかくレイドレインの助太刀をするしかなく、通路の片隅でカタカタと震える学生たちの安全とを推し量りながら敵との距離を計算する。

 相手は四人。こちらは二人。

だが。

 彼らは一様に貴族服を身に纏っているが、どこか乱暴な動きや言葉遣いで貴族といっても下級貴族であるようだ。という事は、こういった荒っぽい行いには慣れているとみて間違いない。

 そうなると、レイドレインはまだ学生なのでこちらの戦力は実質フェルメール一人ということになる。

 ああ、くそっ!と頭を掻きむしりたい衝動に駆られたフェルメールにレイドレインがようやく口を開いた。

「イオが、……いました。イオが、さっきまで……ここに、いたんです。でも、俺を庇って……馬車に……助けて、あげて……イオを、早く」

 ――うっそだろ。

「っつってもなぁ!」


 つい先程までイエリオスがここにいた。


 その事実に目を見開くが相手の攻撃は止まず、後ろで「うわぁあああ!」という学生の叫び声がして慌てて彼らの助けに走る。

 学生たちを守りながらレイドレインをサポートしつつ、貴族たちを相手にするのはまだ実戦経験の浅いフェルメールには至極困難で少しのミスも許されない。

 このまま拮抗し続ければいずれどちらかの応援がくるはずである。

 他の騎士たちが早くこの現場を見つければ良いが、もしもあちらの仲間が増えるとなれば、最悪――――

 ――いや。

 そうでもあっても、フェルメールは勝たなければならない。

 あの時、自分の騎士にと受け入れてくれた優しい少年が、これ以上傷付かないように守ると決めたのだから。例え、少年に嫌われたとしても。

 ――俺が、


「絶対に助けにいってやる」


 今度こそ――――――


 歯を食いしばり、相手の剣を避けながら無謀に振り回される攻撃をいなす。――と、レイドレインの言っていたように近くに止まっていた馬車が動き出しているのが見えて、一瞬だけ間が空いてしまった。

「危ないっ!」

 レイドレインの叫び声で体を引くも剣先が騎士服を切り裂いて、腕に僅かな切り傷を残していく。だが、ペースが乱れたフェルメールに別の剣が振り下ろされて――

「――っ!」

「やれやれ、お前は本当に往生際が悪いですね」

 頭上で刃を食い止めた剣の主から、辛辣な言葉を投げつけられた。

「おまっ、どっちの味方だよ!」

 聞き覚えのある穏やかな声。以前も似たような状況で助けられた事を思い出した気恥ずかしさから、精神攻撃に対する批難を口にしてはぐらかす。

「だから、往生際が悪い男だって言ったんですよ、フェルメール」

 お前こそ相変わらずの物言いだな、とは言い返さずフェルメールは相手に向けて目を細めて抗議だけはしておいた。それが伝わったのは確実で、相手が微笑んだのがなによりの証拠だろう。

「久しぶりですね、お元気でしたか?」

 以前もフェルメールは思ったが、この男は常に泰然としている。いつ如何なる時にでも。

 それは別段構わないのだが。

「んな場合じゃねぇよ!お前はなにを悠長に……ってか、手伝えよ!?」

 先程の窮地を救ってくれたのは何のその。フェルメールが再び態勢を整えると少し離れた場所から声を掛けてきたので思わず大きな声で糾弾するに至った。

「手伝ってください、だろ?全く、……仕方がありませんね」

 これがイエリオスに対してならば、からかいながらも直ぐ行動に移していただろうに、と苦々しく思う。兄に似て弟もフェルメールには辛辣過ぎるのだ。

 それに。

 ――兄弟揃って、“往生際が悪い”だって?

 上等じゃないか、それは。

 だったら、その往生際の悪さに付き合ってもらおうか、とディートリッヒと同じ色をもつ長い髪が揺れるのを半目にして見てやる。

「どっちでもいいから、早く手伝えよ!」

 素直じゃないのはどちらもお互い様だろうから絶対に言ってやるものか。

 そんなフェルメールの心の声が聞こえたわけではあるまいて、リーンハルト・ノルウェルがクスリと笑った。

「はいはい」

 諦めるにはまだ早い。

 イエリオスの無事を確かめるまで、あと少し。


 自分を奮い立たせるように、フェルメールは愛用の剣の柄を握りなおした。


最後までお付き合いくださり、ありがとうございました!

SSはまだ細々と載せていくつもりですので、また読んで頂けたら嬉しいです。


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