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猫の日※

まんま「猫の日」にちなんで。

※前世の世界の話が入ります!!

 史哉が瞼を開けた時、そこには異世界に転生したという兄が美しい肢体をくねらせて、眉間に皺を寄せながら己の姿を確認していた。

「あのさ、どう考えてもこの姿おかしくない?」

 まだ体は幼いというのに、白金色の長い髪が兄の動きに合わせて扇情的にゆらゆら揺れる。あどけない顔は異国の人間だとしても整いすぎて、まるで絵画でみる女神や天使のように美しかった。

「ああ、おかしいな」

 史哉からすれば、そんな変わり果てた姿になってしまった今の兄はどう見積もってもおかしいに決まっている。だから、素直にそう答えたのだが。

「だよね。これじゃあまるでにゃんこさんじゃないか」

「――」

 今だけは、なんだそっちか、と答えなかった自分を褒めてやりたかった。

 兄とは度々意見の相違でよく喧嘩をしてきたが、この時ようやく兄の頭に猫耳がありおまけに尻尾が生えた姿について同意を求められていた事を史哉は知った。

「……猫の日だからじゃないのか?」

 しばし逡巡してから、そういえばと思い当たった事を口にする。それも、たまたま母が「ねぇ、聞いて!明日はにゃんこさんの日なんですって!」などと嬉々として口にしていたからだが、それは言わないことにした。

「ああ、そっちは二月二十二日なのか……って事はお前の仕業としか考えられないじゃないか!」

「……?」

 何故、急に自分が詰られなければならないというのか。

 全く意味が分からず首を傾げた史哉に、すっかり見た目だけ猫世界の異世界人と化してしまった兄が呆れた顔で、お前ねぇ……と肩を落とす。

 そんな兄の様子を無表情で捉えながら、史哉は知るか、と逆に目を逸らした所で急に目が覚めて、つい先程果たした邂逅がただの己の夢であったのだと理解した。

 何だ、つまらん、と思う自分に少し驚く。

 遅れて鳴った目覚ましを消して階段を下りてリビングへ向かうと、母が鼻歌を歌いながら朝食の準備をしていた。

「あら、おはよう!ちょうどご飯が出来たところよ!」

 常春のような笑みを浮かべる母をジッと見て、とりあえず椅子に座る。

「……あいつはとうとう猫になってしまったようだ」

 言うべきかどうかの選択肢は史哉にはない。それは昔から黙っている事が多い史哉に兄が、とりあえず何でも良いから話してくれ頼むからと言うのでそれを実行しているのだ。――今も。

 それに、夢にしてはあまりにもリアリティがあり過ぎた。

「えっ!」

 いまだもう一人の息子の分まで食事の用意を怠らない母が頬に手を当てて、あらあらと困った顔で驚く父の隣りに座る。

「いっくん、猫缶食べるかしら?」

 異世界への転生の次は猫。

 普通ならばあまりにも突飛すぎて信じられない内容だが、さしもの母は驚きもせず違う事が気になったようだ。

「そっかぁ、それは困ったねぇ。伊織はどういったおもちゃが良いのかなぁ」

 そして、驚いたものの直ぐに違う悩みに走る父も父である。

 漆原家ではこれが通常運転であるのだが、史哉が兄の猫化が一日限定だったと知るのはさて、いつのことになるのやら。


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