天使のささやき
多分、そのまま「天使のささやきの日」という記念日にちなんで書いた気がします。
聖ヴィルフ国ネタ。
※ネタバレ含みます!!
そういえば、という枕詞を彼女が使う時はあまり宜しくない傾向だという事をレベッカは知っている。とはいえ、今日は盛大に転げたりびしょ濡れになったりと既に色々とやらかしているので、レベッカもあーもうとことん好きにすればいーよ~という気持ちでいたのであまり深く気にしない事にした。
「んー、何かな~?」
だから、敢えて彼女の話に乗っかってみる事にしたのだが。
「以前、御使い様が来られた際に子供たちが喧嘩して教会の花瓶を落として壊してしまった事があるんですよ」
「うん、続けてー?」
「その時、御使い様が子供たちに『何がいけなかったか、君たちは分かっているはずだよ。なら、きちんと謝れば神父様も許して下さると思うよ』とおっしゃられまして。まるで天使のささやきのようですね!ってそれを目撃していた人たちが興奮されていたのを思い出しました」
その時の様子を思い出したのだろう。小さな月、という意味の名をもつルネッタは頬に紅を差したかのように真っ赤になって嬉しそうだった。
そういう純粋な部分は実に素晴らしく思える。
だが、いくら義理の娘であろうとも彼女を甘やかす訳にはいかないレベッカが続きを促した。
「要するに~?」
「……謝ったら許してもらえますかね」
サッと彼女が退いた先にあったのは、とある枢機卿が大事にしている天使が描かれた大きな壺――が見事に砕け散り、残骸の山と化していたものだった。
あまり動じる事のないレベッカとてそこまでは予想だにしておらず、あちゃー、と思わず目元を覆ってしまったほどだ。
「申し訳ありません!お掃除をしようと思って拭き掃除をしていたら、その、手が滑ってしまって」
そうなのだ。彼女はいつも善行をしようとすると必ずやらかしてしまうのだ。まるで、そんな事をしても無駄だと災厄があざ笑うかのように。
それでもめげないルネッタが愛しく思えたからこそ、レベッカは彼女を引き取る事にした。それは今も同じ気持ちで。
「んじゃ、もういっそのこと悪魔が宿ってるってこの壺の天使に囁かれたんですーって事にしとこっか~」
遠き地の若き友人には申し訳ないが、ここは彼にあやからせてもらおうじゃないか、とあの美しい少年を思い出しながらにやりと笑う。それに、一時期身を隠すために彼がこの壺に描かれた天使と同じ名を騙っていた事も偶然とはいえ丁度良い。
「えっ!いや、そ、それは」
「だーいじょうぶでしょ!あのじいさん、天使好きだから~!あはははは!」
彼がシスターとして身を隠していた町は、いまや天使が舞い降りた土地として賑わいをみせているという。ついでにそれも利用したら何とか説き伏せられそうかな、とレベッカは目を細めて目算を立てた。




