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ショコラの微笑み※

「バレンタイン」だったような。

 青天の霹靂、とはまさにこういう事をいうのではないだろうか。

 初めに言っておくと、この世界にバレンタインなんて記念日はない。それも、そもそも公認のイラストレーターがオーガスト様のうっかりイラストなんてものをネットに流したばかりにゲーム会社の公式がクリスマスにチョコレートを交換しあうという悪乗りをしたからであるらしい。

 おかげで、毎年違和感しかないクリスマスだった。いや、まあそれは、今は置いといて。

 問題は、現在進行形で起きている非常事態である。

「どうしてもというなら、これを貴様にくれてやらん事もない」

 緋色の髪は王家の証。ワイルド系イケメンことオーガスト様が珍しく、婚約者であるというのに犬猿の仲であるアルミネラに贈り物を持ってきたのだ。

 こんな事ってある?

 そう誰かに問わずにはいられず、差し出されたプレゼントを無視しながら、一緒に登校してきたセラフィナさんに視線を投げつければ。

「何それ、ずるーい!」

 彼女は僕の救援など全く気付かず、それどころかオーガスト様の贈り物を射殺さんばかりに睨み付けて憤慨してしまった。

 僕としては、たまたま偶然だろうけどバレンタインに贈り物を持ってきたオーガスト様の行動に驚いて欲しかったんだけども。

 ソレジャナイ感に苛まれる僕を余所に、先程までのどう猛な獣みたいに怒気を放っていたオーガスト様が嬉しそうに微笑んだ。この雲泥の差ったら。

 しかし、決して誤解してはならない。

「そうか?ならば、セラフィナにも」

 彼女が、何に嫉妬したのかというと――――


「オーガストだけずるいわ!私だってアル様にバレンタインのプレゼントを差し上げたかったのに!」


 単純に、オーガスト様に抜け駆けされたのが許せなかっただけの話なのだから。ええ、もちろん僕は分かっていましたとも。彼女がどれだけ『イエリオス』の熱狂的な信者なのか、僕は日々身を以て知らされているので。

「バ?バレ?あ、いや、そ、それはすまなかったな」

 僅かに視線を沈ませるオーガスト様が何だか切ない。

 オーガスト様、ファイト!強く心を持って!

 公にオーガスト様を応援する事が出来ないので、心の中から声援を送らせてもらいつつ、しょうがないので贈り物をオーガスト様からひったくるように奪う。

「くれるって言うならもらってあげる」

 いや、だって、可哀相なんだもの。

 不承不承という形を取って、わざわざオーガスト様の体裁を整えて差し上げる、と。

「貴様には勿体ないがな!」

 あ、復活した。あー良かった。お元気になられたようだ。

 この分なら、後は速やかに校舎に入れば――

「負けないわよ、オーガスト!」

「な、何の事だ?」

「宣戦布告するわ!どちらの贈り物がイ、アル様が喜ばれるのか勝負よ!」

「う、……うむ」

 ……あーもう。いや、だからぁ。


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