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ウィンターサイド※

『クリスマス』にちなんで。


 確かに、この世界のクリスマスのバレンタインのような風習はいまだ慣れないでいる。

 それに、僕はあまり甘ったるいのは苦手だから、いただいたチョコレートはアルが食べてくれるのでホッとしたりしている部分もあったりなんかする。まあ、たまに怪しい気配のするもの(僕には分からないけど)があるけれど、アルに渡す前にサラが排除してくれているらしい。

 という訳で、今年もチョコレートが忙しなく飛び交うクリスマスが訪れたのだけども。

「おはようございます!今年もどうぞ受け取って下さい!」

 真冬の青空の下、真っ白な吐息を吐き出しながら僕に声を掛けてきたのは、言わずもがなセラフィナさんだった。ストロベリーゴールドのサラサラとした髪を学院御用達のふかふかなマフラーの中に偲ばせて、誰もが振り返る程のとびっきりの笑顔でクリスマスカラーの包装紙で巻かれたプレゼントを差し出していた。

「おはよう。今年もありがとう、えっと……僕からも、これ。どうぞ」

「わぁーい!やったぁー!!」

 去年と同じものだけど、と申し訳なく思いながら差し出せば、ぴょんぴょんと飛び跳ねて喜ばれたので思わず苦笑してしまう。なんていうか、喜び方がアルとそっくりだなって。

 こっちは純粋にそこまで喜んでくれるので心苦しい思いがするんだけどなぁ。来年こそはもうちょっと凝ったものでも作ってみようかな。サラに教わって。ただ、うちの侍女は有能なので教育もスパルタなんだけどね。

 作るとしたら、エルも呼んでいっそフォンダンショコラでもどうかなぁ、とセラフィナさんと会話をしながらも頭の片隅で悩んでいたら、後ろから「おい」と藪から棒に声が掛かった。

「はい?」

 その声の持ち主には直ぐ思い当たれど、普段ならば真面目に挨拶から入るので訝しんで振り返る――と。

「ひゃっ!わわっ、うわぁ!」

「……っ、な、何ですか、これは」

 僕の視界を塞ぐのは、真っ白な薔薇の花束。隣りのセラフィナさんの驚きようで逆に冷静さを取り戻せたけど、僕も驚かずにはいられない。多分、間違いなく顔に出てるだろうなと思いながらも、花束から体をずらして相手に視線を投げつけてみれば。

「今日はクリスマスだからな」

 う、うん?クリスマスならチョコレートじゃないの?という僕の心を読んだのか、相手は眼鏡などでは隠しきれない美しい顔に笑みを浮かべた。

「お前は甘いのが苦手だから、花にしてみた。必ずしもチョコレートじゃないと駄目だという規則はないだろう?」

 ……なに、この顔面偏差値の高さ。なんという破壊力でしょう。って言ってる場合じゃないや。

「確かにそうですが」

「お前が花好きなのは知っている」

「はあ」

 いや、そこで得意げな顔をされましてもね。

 けれど、お花を見るのは好きなのでこれはこれで嬉しいですよ。ええ。それに、甘いのが苦手だからってわざわざ考えてくれたのも素直に嬉しい。

「……ありがとうございます」

「その顔が見たかった」

 えっ、どんな顔になってた?まさか、思いきり緩んでたんじゃ。

「あ、あー……えっと」

 恥ずかしい。もうどんな顔をすれば良いのやら。っていうか、珍しくセラフィナさんが食いついてこないなって思ったら花束に意識が向いているみたいだけど?いや、今はそれどころじゃない。

「このような高価な花束とは比べものにはならないお粗末なものですが、宜しければ」

 どうぞ、と最後まで言いきる前にプレゼントを差し出した手ごと相手――アシュトン・ルドーに掴まれる。

「貰って良いのか?」

 あ、心なしか嬉しそう。

「ええ、手作りなのでお口に合うかどうか分かりませ」

「合う。お前が作ったものならば全て俺の舌に合わないはずはない」

 食いつきが早い上に断定されるってどうなの。いや、それなら良いけど。

「そ、そうですか。では、どうぞ」

「ああ、ありがとう」

 くっ!美形の微笑みが恐ろしい。

 僕でさえくらりときてしまいそうなのに、このままだと遠回しに見ているご令嬢方に被害が出てしまうかもしれない。あ、ほら、あそこのご令嬢なんて倒れそうになってるよ。

「それではまた、放課後に生徒会室でな」

 ここはさっさと立ち去るべきか、と考えていたら、アシュトン・ルドーの方から去っていってくれたので内心で息をついた。

 ほんと、朝から心臓に悪いったら。

 ようやく立ち止まっていた生徒たちが歩き出したので、僕も同じように歩を進める。――のに、何故かセラフィナさんが動かない。

「セラフィナさん?」

 さっきから何か変だけど?

 どうしたのかな、と首を傾げて問うてみると、彼女はぎぎぎと固まった表情のまま顔を上げた。

「……あの、ですね」

「はい」

「私の目の前で、アシュトン様のエンディングのスチールが」

「え?」

 エンディングのスチール?うん?なんの話?

「いえ、何も」

 って、そこまで言っておいて、明らかにはぐらかしましたって分かる顔をしないでください。恐いから!気になるんですけど!

「えっと、……もしかして、乙女ゲームの話ですか?」

 よく分からないけど、エンディングとか言われるともうそれしか思い当たらない。

「……すみません。ちょっとあまりにも衝撃的過ぎて」

 えっ?衝撃的過ぎて?

「恐がらせたくないのでお話しますね。えっと、私はアシュトン様を攻略してないのですが、アシュトン様ルートのエンディングで、最後にアシュトン様が主人公に花束を渡すんです」

「えっ、花束?」

 それって、もしかして。

「あっ、けど、白い薔薇ではなく赤い薔薇なんですけどね。それに、イオ様が貰った本数よりも多かったですし」

「そうなんだ」

 それなら良かった。って思って良いのかな?僕のは、えっと……二十一本。二十一本って。それも中途半端過ぎやしないかな?

「……花言葉が、その、なんていうか」

「花言葉?」

 そういえば、女性は花言葉が大好きだよねぇ。なんて笑いたかったけど、セラフィナさんの目が胡乱すぎて恐い。確かに二十一本は本数が中途半端でそうとしか考えられない。ゴクリと生唾を飲み込んで、セラフィナさんの次の言葉を聞くために耳をじっと傾ける。

「……やっぱり、止めておきましょう。知らぬが仏というものです」

「ええっ?」

 そんな!ここまで言っておいてそれはない!


 後日、クラスメイトのご令嬢から教えてもらって僕が頭を抱えたのは言うまでもなかった。


二十一本の花言葉は「あなただけに尽くします」らしいです。

ちなみにゲームでは百一本。「これ以上ないほど愛しています」という意味のようです。

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