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花とみつばち

確か「キスの日」「恋文の日」にちなんで、でした。

 こういう時に限って、どうしてこの人と会う機会が訪れるんだろうな、と本気で思う今日この頃。

 昨日からアルに『女神の祝福』が訪れて、久しぶりに腹痛が辛いらしくこの休みの間だけでも入れ替わる事になったのだけれど。

 寄宿舎から出る間際、そういえばお手紙を貰ったんだった!と言われたのが事の発端。

 その手紙の主というのが。

「よく来てくれたな」

 コルネリオ様の甥にあたる、エアハルト・グスタフ様。

「ほら、ご挨拶は?」

 ――の、妹君のエマ・グスタフ様。御年十歳の女の子である。

 グスタフ様がおっしゃるには、いつもは我が儘ばかりの甘えん坊で手に負えない、との事だったけれど、今は借りてきた猫のようにジッと大人しくして俯いていた。

 アルが貰った手紙には、僕と逢って話がしたい、というような内容を大変詩的な文章で三枚に渡って書いてくれていたけれど。……えーっと、これはどうすれば良いのかな?

 アルだったら、きっと上手く誘導出来ていただろうけど、僕はこういう事には慣れていないので難しい。いや、そこ、嘘だーとか言わないでね。

 グスタフ様に連れてこられた時からずっと薄紅色の可愛らしい花柄のワンピースの裾を握っている姿はとても可愛らしく、本当に兄妹だろうかと疑ってしまう程なんだけど。緋色の髪に緋色の瞳という王家の血を受け継いでいる証しがあるので、疑う余地はない。残念ながら。

「お前に会うのが夢だったようでな、かなり緊張しているようだ」

「そうですか、それは大変光栄です」

 多分、というかどれだけ記憶を探ってみても初対面、な事は間違いない。きっと、傾国の美女と謳われる母の影響で、どんな男か気になっていただけだろう、と思わなくもない。こんな面白みのなさそうな男で申し訳ありません、としか言えないんだけど。

 ほんと、どうして今日かな、と言わずにはいられない。絶対に、アルならきっと僕への理想を幻滅させずにかっこよく決めてくれていただろうに。

 内心でもう何度目かになる自己嫌悪に陥りながらも、このままという訳にはいかないので思案する。

 前世では小さな子と話す機会なんてなかったし、それに今生では十五年しか生きてなくてもプラス二十年の重みがあるから気軽に話そう……なんて思えない。そんな性格だったら、エルとの初対面の時にもっと上手く話せているもの。

 という訳で、ここへ来る前に念のため色んな方にレクチャーして貰ってきたんだけれども。

 とりあえず。

「レディ、初めまして。私はイエリオス・エーヴェリーと申します」


 ――『良いですか、イオ様。幼くとも、女の子は常に淑女として見て貰いたいのですわ。ですから、挨拶は膝を曲げて、必ず目線は同じ高さにして差し上げて下さいませ』


 エルに言われた通りに膝を折り、彼女の目の高さに合わせて挨拶をする。オッケー、オッケー。


 ――『あ、笑顔を忘れないで下さいね』


 セラフィナさんの追加事項も忘れてないよ。うん。

 で。

 ……えーっと。

「……なによ」

 何よ、というのは僕がお訊きしたいぐらいです。というのも、まさか小さな手をスッと差し出されるとは思わなかった。小さくとも実に淑女らしくて、可愛いのだけども。

 これはアリなんですか、と彼女の兄君に視線を投げつけると、大変面白くなさそうな顔をされていたりする。まあ、当然だろうな。僕だって複雑な心境になるもの。

 だけど、ここで断るのは失礼にあたるので。

「お会い出来て、光栄です」

 その幼い手の甲に、そっとキスを落とした。

「ひゃぁ!」

「これは驚かせてしまい、大変申し訳ありません」

 というか、僕も内心でびっくりしてる。もしかして、しちゃ駄目だったんだろうか、とか。

「ち、ちがうの!」

「はい」

「……うれしくて」

 そう言って、手の甲を大事そうに隠す彼女の緋色の瞳とここでようやく目がかち合った。


「わたし、いっしょうの思い出にするわ!」


 ……まさか、そこまで喜んで貰えるとは思わなかった。

 それほど、とびきりの笑顔だったので、今度は僕の方から手の平を差し出してみる。

「……え?」

 その意味を理解出来ず、キョトンとした顔はあまりにもあどけなく。ああ、可愛いなぁと素直に思った。今まで幼い子供に対してどうすれば良いのか悩んでいたけど、実は意外と単純なのかもしれない。

「お手を。どうか、私と少しお話をして下さいませんか?」

「っ!ええ、よろこんで!」

 

 後日、アルからグスタフ様の絡み方がねちっこいけど何かした?とクレームがきたけども、頑張ってとしか言えなかった。


言わずもがな、エマちゃんの一方的な一目惚れで初恋です。

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