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春の国で君を待つ

確か「弟の日」のSSだったと思います。

※前世の世界のお話となるので、主人公本人は登場しません。


 俺の両親は、近所でもおっとり夫婦として有名だ。

 それに、父も母も家族をとても大切にしている。

 俺と、俺の死んでしまった兄貴の事も。


 兄貴は、ちょうど二十歳の誕生日に子供を庇って死んでしまった。それを聞いたのはちょうど合宿中の時で、慌てて帰宅して奴の遺体と対面しても中々実感が湧かなかった。

 葬式ですらそんな感じで。

 ずっと――一年経っても、俺にはいまだに信じられなかったのだ。

 だが、そんな俺の前にあいつは不意に現れた。

 

 しかも、何がどうなってしまったのか、あの頃の面影など全く見られない綺麗な異国の子供の姿で。

 

 初めは俄に信じられなかった。

 だが、俺に『史哉』と呼びかけてくれた時の声の放ち方は、紛れもなく兄貴のソレで。そして、何よりそいつの放つ雰囲気が懐かしくて、寂しくて――とても、嬉しかったのだ。

 だから、また会いたくて時間があれば町中を探しまくった。あいつが好きだった桜並木やあいつがたまに買い食いをしてた店になんかも。行く先々で、あいつの知り合いに会うのは気にくわなかったが。

 そして、ようやく再会出来たと思ったらあいつは直ぐに消えてしまった。

 そこで俺は考えた。どうやら、あいつにもここへ来るのは予測がついていないようだ、と。現に、一度目は同じ顔をしたもう一人の兄妹ときていたが、二度目に会った時は桜並木にあるベンチに座って途方に暮れていたようだった。俺が声を掛けるとホッとした顔を見せたぐらいだから、あいつも唐突に移動して驚いていたんだろう。

 そう考えると、これはもう必然的に俺のする事は一つしか無かった。

 それは――

「ねぇ、ふーくん、これどう思う?」

 そう言いながら、俺に重たそうな衣服を見せにきた母の顔は嬉しいという感情が滲み出ていた。

「……良いんじゃないか」

 俺にはよく分からんが、と心の中で付け加えておく。が、母は俺の一言で全てを理解出来たらしく、目に見えて喜色を浮かべた。

「ふふっ、ありがとう。あの子がどれだけ小さいのか分からないけど、ウェストで調整出来るようにしたから多少は入ると思うのよ」

「そうか」


 そう、俺はあいつが消えたその日に両親に全てを話したのだ。


 初めて会った時に、両親にお礼を伝えてくれと言われた事。

 二度目には、この家に帰ってきた事。


 両親は、近所でもおっとり夫婦として有名だけど、俺たち兄弟を真っ直ぐに育ててくれた芯の強い人達だ。

 だから、俺が嘘なんかつかない。そんな風に育てられてきたのだから。

 話を聞いた両親は、当然、俺の事を信じてくれた。

 そして、あいつが――兄貴が生まれ変わって生きている事に涙を流した。

 良かったね、と。

 生まれてきてくれてありがとう、と。

 そこから、母は俺が占領していた部屋を、再びあいつがいつ戻ってきても良いようにと模様替えをし出した。それはもう毎日楽しそうに。

「でも、ふーくんから聞いたいっくんの見た目ってお人形さんのようだから、似合わなかったらどうしましょう?」

 うーん、と悩ましげな顔付きになりながらも、母がフリルやレースで構成されたスカートを持ち上げる。俺にはやはり重たそうという感想しか出ないが、一つだけ分かる事がある。

「いや、多分似合うんじゃないか」

 それは、あいつが何故か二回とも女装をしていたという事実だろう。

 きっと、聞かなければ女だと思っていたぐらいに、あいつの外見は綺麗な幼い少女みたいだったのだ。ならば、そこまで女装しなければならない事情があるのだろう。

 俺も弟として、それなりに気を遣ってやらなければならない。

「やあ、二人とも、ここに居たんだね」

 その時、父がどうやら帰ってきていたようで穏やかな声と共に部屋の扉が開いた。

「あなた!ごめんなさい、お迎えするのを忘れていたわ」

「良いんだよ。それよりも、ほら、見て欲しいものがあるんだよ。帰りにたまたま寄った百貨店で、今の伊織に似合いそうな服を見かけてね、つい買ってきてしまったんだよ」

「あら!あらあらあら、まあ!そのシャツ、このスカートにとても合うわ!」

「おお、本当だ」

「これで、あの子がいつここへ来ても困らないわね」

「そうだね」

 クスクスと笑い合う両親を見て、俺は兄貴の部屋を後にした。

 あいつが死んだ時とは違う、楽しそうな二人の顔を見ると話して良かったと本気で思う。

 俺の両親は近所でもおっとり夫婦として有名だけど、とても深い悲しみに飲み込まれる時もある。

 だけど、今は――――


 春の国でお前を待ってる。


史哉は天然なんですよ。

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