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cigarette requiem

「たばこの日」にちなんで。

※前世の世界のお話となるので、主人公本人は登場しません。


 カチッという硬質な音がして、少し丸めた先輩の背中を見つめていると細く長い紫煙の帯が空へとゆっくり棚引いていく。その後を直ぐ追うのは当然、同じく先輩が吐き出す白い煙で。


「あれ?煙草、止めたんじゃなかったっスか?」

 そういえば、一昨年止めたんじゃなかったっけ?と思い出して首を捻った。

「おー」

 あーあー、相変わらず美味しそうに吸う人だな。と思いながら、まあ俺は前世からこういう草系は苦手なんだけどなーと内心で思い出し笑いをして返事を待つ。

 漆原さんとの思わぬ再会から先輩の奇行は発展途上を遂げていくばかりだが、ついに止めていた煙草まで復活するとは思わなかったな。漆原さんがこの世からいなくなった時は、後追いでもするんじゃないかというぐらい荒れていたはずなのに。と、今でもあの通夜の時の慟哭を思い出してしまう。

 先輩と知り合ったのは、実は俺が小学生の時なのだが昔から不良といっても男気を持つ芯のある格好いい人なのだ。――今でも。

 それでも、俺たちは社会に疎まれるような存在で。

 だからこそ、時には荒れる時もあったが、そんな時に出会ったのが漆原伊織さんだった。

 まあ、きっかけは先輩の言いがかりなんだけど、漆原さんは俺たちを馬鹿にせず貶しもせず、いっさいの躊躇もなくこてんぱんにのしてきたのだ。

 そこに先輩は、ひどく感銘を受けたらしい。

 ほんと、先輩らしいんだよな。

 そして、漆原さんと会えば必ず喧嘩をふっかけていくようになって。


 ずっと、続くものだとばかり思ってた。


 ――のに。

 あの人は、死んでしまった。

 先輩がどれほど悔しくて悲しかったか、俺には計り知れない。だけど、ヘビースモーカーだった先輩が煙草を止めるぐらいショックだった事でどれだけ打ちのめされたのか分からない俺ではない。

 だからあの日、先輩は気付いてないけど再会出来た事は俺の中でやっと光を見いだせた気がした。

 今では、あの人が所属していた大学の部活仲間との交流もあって、それなりにこの人も日々楽しそうで何よりだ。

 まあ、たまにあそこの元部長という男と、幼女との戦い方について論議してるのはよく分からないが。

「昨日、気付いたら買っちまってた」

「えっ、無意識なんスか?」

 そりゃまた凄い、なんて俺が言ってたら、先輩は一昨年まで見慣れた懐かしい白いパッケージの箱から一本取り出した。それはもう慣れた手つきで。

「何でだろうな、美味いんだよ」

「でしょうね」

 ほんと、この俺が美味そうだなって思うくらい、この人は出会った時から愛煙家だったし。それは当然なんじゃ?と苦笑いを浮かべてしまう。

 そんな俺に、先輩はイヤイヤ、と指の間に挟んだ煙草から煙をたゆませた手で否定する。

「そうじゃねぇよ。俺はあいつの死に絶望を感じて、こんな物すらどうでもよくなった」

 そう言った先輩の顔には自嘲が浮かんで、そういう自覚があった事に内心驚く。今まで、こんな話をする機会なんてなかったからその驚きは殊更だった。

「なのに、あいつはいないのに、気付けばこうして煙を吐き出しちまってたんだ」

 全然の目元が少しだけ潤んで見えるのは、煙が沁みてきたからだろうか。


 ……それとも。



「先輩らしくて俺は好きっス」



 この無意識さを。

 本能を。

 俺は、やはり称えたい。



「でも、あの人なら嫌な顔してそうっスね」

「おー。こいつのケムリを嫌ってたからなぁ」

不良グループのお話でした。

長編で唯一煙草を吸う人ってこの人しかいないので。

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