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載せられる分だけでも載せておきます。

このお話は主人公の父親の若い頃のお話で、宰相になる(王様に目をつけられる)きっかけとなる小話です。


 それまで、彼の人生は無色透明でどこまでも透き通っていた。


 どういう事かというと、彼の家は古くからある公爵家、しかもきちんと調べれば建国時から存在しているような歴史ある家柄で何の不安的要素もないエリートだった。

 だからといって、彼は決して驕れる事もなく、ただ毎日を淡々と生きていた。一日一日を、まるで目の前に出された物をただ消費するかのように。

 そんな彼に、転機が訪れたのは十四の時。この国の二人の王子達が、新たに設立を目指している騎士学校の計画が難航しているとかで、文官だった父親が子供の立場で意見を述べるよう現場に連れてこられた時だった。

 新しい学舎の匂いは、木と石が混在しているこの不可思議な空間そのもので。まだ誰の足跡もついていない艶のある廊下を歩きながら見渡しているだけで圧巻される。

 普段から特に表情が出ない顔も、この時ばかりはさすがに目を丸くしていた。

 だが、その一方で――

 たくさんの大人達。

 その視線のどれもが、子供である己にすら容赦はない。

 そんな孤独な戦いを強いられている彼に、声をかけてくれたのは戦では猛者と名高いマティアス王子で、その気さくな物言いが彼の心を上手く解した。

「――その時だ。あいつは、私にあら?勲章が増えましたわね、と言いきりよった」

「さすがは、ユーレルシア様ですね。殿下のお怪我でさえも、勲章だとおっしゃられるとは」

「そうだろう、そうだろう!」

 ガハハ、と豪快に笑う第二王子に彼も薄らと笑みを浮かべて同意を示す。周りの大人達も和やかに微笑んでいる事から、彼にとってはこの日もまた無色透明な日々に含まれるかに思えた。

 ――のに。

「君、ちょっと。そこの君だよ」

 不意に彼を手招きしたのは、褐色の肌の男で。

 首を軽く傾げながらも、その黄金色の瞳に誘われるまま近付けば、真顔で己を見つめる第一王子も立っていた。

 片や、優しげに微笑んでいるのは異国の男で、自国の王子はどこかただならぬ雰囲気を醸し出している。その状況を冷静に判断し、彼は一切の表情を取り払って敬意を示した。

「お呼びでしょうか」

 この場で、一番有効なのはただ黙ってこうべを垂れるという事だけだ。

 それが分かってしまったので、彼は黙々とそれを実行に移した。

 由緒ある公爵家――

 その恩恵が彼にもたらしたものは、幼い頃から他人との関わりを如何にそつなくこなすかの習得だった。だが、だからといって別に悲嘆にくれてはいない。きっとそれは糧となり、将来の自分のレールの基盤を作る上での大事なコミュニケーションの一役となるのだろう事は目に見えて理解していたからだ。

 ただ、そこに何も見いだせるものがないだけで。

 そんな風に、漠然と過ごす日々は何の色にも染まる事など今まで全くなかったのだ。


 けれども、その日は突然の終わりを迎えてしまった。否、横暴に閉じられたといっていい。


 いつまでも経っても、頭を上げる事を許されない事に疑問を覚えた彼が、チラリと視線だけで彼らを見ると。

「なっ、言っただろう?」

「いや、もうちょっと待ってみよう。もしかしたら、我慢の限界を越える可能性があるやもしれん」

「だから、この子は他とちょっと違うんだって」

「お主の事は信用しておるが、私は疑り深い人間なもんでな」

「分かったよ。でも、俺はこの子がちょうどいいと思うんだ」


 一体、何の話をしているのだろう?


 彼は、そう思いながらも再び視線を地面に落とした。


 その後、許可が下りたのは十分後。

 そして、彼は燃えさかる炎のように真っ赤な瞳のその王子へと、問われた質問の答えを淡々と口にした。


「私は、イルフレッド・エーヴェリーと申します」


 ――と。

 この日を境に、彼の無色透明の日々は目まぐるしく変化していく。

 それは、時に赤く、時に青く、そしてかけがえのない黄金へと変貌を遂げていくのであった。


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