「Hallo, my darling」
※主人公出てきません。親世代のお話です。
「太陽と月と、銀を少し」の後日談的な小話です。
疲れていた。
はっきり言って、ここ最近の彼は毎日が多忙過ぎて疲れ切っていた。
例えば、先頃に自身が仕える王子殿下が正式に国を継いだと同時に、己も宰相へと昇格した事による各方面からの軋轢や嫌がらせへの対処だとか。にも関わらず、当たり前にある通常業務。
また、父から分け与えられる領地の仕事もそれなりにあり。
ついでに、その絶妙な合間にちょっかいをかけてくる腐れ縁の友人の相手など。
それら全てが積み重なった結果、彼は心身共に疲れ果てていたのだ。
しかし、それでも彼にとってそれはいつもの日常でしかなかった。
そう。
経験を重ねていると思えば、それだけで納得出来たのだ。
だが――
そんな彼にも、一つだけどうしても疲れを感じてしまう事があった。
それは、一ヶ月前のこと。
以前より戦後の処理として、各地に散らばった傭兵隊の問題が彼の父が持つ領地にもあって、その対処の際にどうしても通らねばならない人生の岐路に立たされたのだ。
彼にとって、その一件は死ぬか生きるかという人間の一生のテーマよりも深く、極めて重要且つ重大な事だった。
なので、彼のその問題を知っていた周囲の反応といえば、いまだにそれを英断だと褒め称える者もいれば、いやいやもう一度よく考え直すべきだと諭してくる者もいる。それだけ、その決断は周りを混乱させるには充分過ぎるほどだった。
なのに、どういう事なのだろう。
何故か、状況は更に悪化するばかり。
むしろ、以前よりも酷くなってきている気がしてならない。
淡々と物事を冷静に判断出来るはずの彼が珍しく、何がいけなかったのかと悩まずにはいられないほどだった。
おかげで、睡眠不足も限度を超えてしまったらしい。
朝日よりも早くに起きていたはずが、今日は明るい陽射しを受けながら意識が浮上する。
目蓋を開く――と、そこには世にも美しい少女が己のベッドの縁に腰掛けていた。そして、絶世の微笑みを浮かべて、彼を見下ろしていたのだ。
「おはよう、私の旦那さま。ふふ、今日はえらくお寝坊さんね」
申し訳ないが、まだお互い未婚のはずでは、と口から出そうになったのは言うまでもない。