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神さまのきまぐれに。 ※

小話ながら、閲覧、ブクマそれから評価をありがとうございます。


いつもSSは活動報告に載せますが、さすがに「パ●ツの日」をお題にしたので素直にこちらへ載せる事に致しました。結局、下着はおまけみたいなものとなりましたけど。

「ねがいごとはひとつ」のその後という事で。前世の世界にお邪魔します。

 それは、不意に訪れた。

 一瞬の浮遊感。それから目眩がして目を閉じれば、立ちくらみが加わるコンボ。ぐぬぬ、と頭に手をやって犬のように振りかぶって目蓋を開けば。

「――は?」

 目の前に広がるのは見慣れた景色、というか。ここは、僕の勝手知ったる場所ではあるけど、場違いとしか言い様がない。何を言っているのか分からないと思うけど、つまりはそう。


「どうして、またこの世界に来ちゃったの?」


 ということ。いやいや、待って。しかも、今回は僕一人だけときてる。まあ、アルがいた所で、前回のようにフラフラとどこかに行ってしまうなら一人だけの方がマシだけど……楽だけど。でもね、はっきり言ってしまうと心細いです!うわぁん、魔導師のお姉さん!一体、僕に何が起きてるんですか!?

 なんて。……ここで嘆いても仕方ないか。

「はあ」

 とにかく、人が多い街中じゃなくこの懐かしい桜並木で良かった。ここなら、まだ人が少ないはずだしね。

 それに、前回と違って学院の制服だからかろうじて中学生には見られるはず。……どこの金持ちの学校なんだとか思われそうだけど。ま、まあ、そこはこの際、諦めよう。

 ああ、でもなぁ。

 あの時貰ったお守りは寮の自室に置いてきたし、他にめぼしいものなんて何も持ってきてないんだよなぁ。ほんと、普通に学院内を歩いている時に起きたんだもの。

 せめて、学生鞄は持っておくべきだった。いや、違うか。

 今が一体、いつなのかは分からないけれど、春であれば桃色の花が咲き乱れる木々は青々とした葉が太陽の光を浴びて揺れている。

 しばらく歩いてみたものの、手持ち無沙汰でする事もないので見かけたベンチに腰を下ろした。

 やっぱり、ここは居心地が良いなぁ。

「って、何の解決にもなってないよ」

 というか、和んでどうする。

 あーもう。住み慣れた土地とはいえ、今の僕は僕であって僕じゃないし。長くここにいるべきじゃないのにどうしたものか。

 普段、女装をしている時は決してしないけれども、ここには一人きりだという事で足を組んでその上に頬杖を突きながらため息を吐く――と。


「……あに、き?」


 懐かしく、そして耳慣れた声がして、顔を向ける。

「史哉」

 もしかしたら、再び知り合いに会うかもしれない、と思っていたけど。

 まさか、いきなり一番の大穴がくるなんて。想定外にも程があるよ。

「やっぱり!お前、どうしてまたここに!」

 って、驚くのも無理はないけど、掴みかかるように強引に立ち上がらせるのもどうかと思うな!もし、僕が見たまま通りの女の子だったらどうするつもりなんだろうか。

「史哉、ちょっと落ち着いて。ぼ、俺にもさっぱり分からないんだよ。気が付けばここに居てさ」

「お前……、あれから色んな奴がお前を探してるんだぞ?もし見つかってみろ、何をされるか分かったもんじゃない」

 うわぁ、何それ。背筋がぞわぞわするレベルじゃないよね!?

 そう思うと、最初に会えたのが弟で良かったのかもと思えてしまう。

「とにかく、誰にも見られてないうちに帰るぞ!」

「えっ、帰るって?」

「お前が帰る場所なんか、一つしかないだろう!」

 言い切られて、唖然とするよりも何だか嬉しいような泣きたいような気持ちになった。

「……あ、うん」

 そっか。


 まだ、ここには僕の帰る場所が残ってたんだ。


 それは、両親がまだ僕の死を忘れていないという事なのかもしれない。

 ――と、思っていたけど。


「お前の部屋、俺が貰ったから」

「は?」

 約二十年間生きてきた家に帰ってみれば、ものの見事に僕の部屋には弟の私物があふれかえっていて。

 呆気にとられた僕に、史哉がどや顔で宣言してきたものだから、思わず素で答えてしまった。

「あれから色々と考えたんだ、俺なりに。で、ここには今のお前にはもう必要ないものばかりだなって」

 そう言って、弟が僕を上から下まで確認するように見てきたものだから察してしまった。というか、長年の関係上気付いてしまった。

 ……こいつは全くもう。

「どう考えても異世界からきたっていうのに、どうして女として見てるんだよ!しかも、あの時また来るなんて一言も言ってなかったよね!?」

 弟は……史哉は、僕が別の人生を歩んでいると分かってしまったから、多分、そこに可能性を見いだしてしまったんだろう。

 ほんと、相変わらず人の斜め上の考察をするんだから。

「それに、ぼっ、俺は今も男として生きてるんだよ」

「その恰好で?」

「……これには色々と訳があるの!」

「へぇ。じゃあ、下着なんかはどうし」

「ちょっ、やめ!す、すかーとをめくろうとしない!ばっ、ばばばばっかじゃないの!?」

「ふん……そうか。ビジュアルに問題があったな、悪かった」

「そういう問題じゃない!」

 というか、お前をそんな風に育てた覚えはない!いや、育てたのは僕じゃないけど!

「悪い」

 と言った、弟の顔は先程とは打って変わってへこんでいて。

「何が?」

 全く意味が分からず、首を傾げる。

「またお前に会えた事が嬉しくて、ちょっと浮かれてしまったらしい」

「っ、」

 今更、と笑い飛ばしてほしかったのかもしれない。

 だけど、僕は。

「……僕も、お前に会えて良かったと思ってるよ」

 何より、またこの家に帰ってこられた事が嬉しい。

 部屋を使っていると言いながらも、そこかしこにまだ僕の私物が置いてあるんだから、弟は僕が死んでも素直にはなれないらしい。

「は?『僕』?……気持ち悪い」

「よーし、表に出ろ!」

「はいはい。その顔で凄まれても恐くないな」

「生意気な」

「今は、お前の方が年下なんだろう?」

「へらず口をたたくな……はあ、もう。きりが無いな」

 ……本当に。

 呆れるぐらいにいつも通りすぎて困る。


 これじゃあ、あちらに帰りづらいじゃないか。


 思わず、苦笑してしまう。そんな僕に、史哉は目を逸らしながら髪をかき上げてぽつりと言った。

「俺は、ここにいるから」

「え?」

「だから、いつでも――」

 弟の言葉を聞きながら、またあの不可思議な感覚が訪れる。

 あ、と声を出そうとした時には、再び目眩がしてしゃがみこんだ。

「……あれ?」

 目蓋を開けば、そこは見慣れた場所で。

「校舎、という事は……戻ってきたんだ」

 一体、自分の身に何があったのかさっぱり分からない。

 ただ、ふと思い浮かべるのは日本古来から言われた言葉で。


「神隠しにあったかな?――なんてね」


兄弟の軽口のたたき合いがなかなか終わってくれませんでした。

あと、史哉くん相手だとイオは伊織に戻るんだなぁと分かって面白かったです。


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