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さしも知らじな燃ゆる思いを。 ※

小話ながら、閲覧、ブクマそれから評価をありがとうございます。


「キスの日」になぞらえて。なので、甘いです。砂糖吐きます。


 今日は朝から散々だった。

 サラに起こされ、目が覚めるも微睡みという誘惑に根負けして寝坊した。うん、それは仕方ない。微睡むのが何より大好きなのだからそこはもう諦めた。

 次に、朝食を摂って着替えようとしたらタンスの角で足の小指をぶつけてしまった。人って、本気で痛いと声が出ないものなんだよね。しかも、悶絶すら出来なくて、しばらく足を押さえてジッとしてた。もう、本気で骨が折れたんじゃないかって思うぐらい痛かった。後に、サラから時間ですよ、と言われて泣きそうになりながらも動いた僕は偉いと思う。

 実は今も、ジンジンと痛いので帰ったらサラに診てもらおうかと思ってる。

 そして、この世界には、まだ天気予報なんていう便利な統計学が発展してないので、曇っているけど寮と校舎までの距離なら降らないでしょ、という安易な考えで外に出た途端に雨に降られた。しかしながら、痛む足を駆使してもう一度最上階まで駆け上がろうとは思わなかった。きっと、待っていれば気が利くサラの事だから傘を持ってきてくれただろうけど。

 ここで、気をつけたいのは通学時間。

 足の小指に気を取られて過ぎて、少し急がなければならなかった。まあ、僕の名誉の為に言っておくけど遅刻は一度もないけどね。今日は、たまたま日直だったから急がなければならなかっただけのこと。

 それから、流れるように今日は災いのてんこ盛り。

 紙が風に吹かれてバラバラに飛んでいくとか、何もないとこでこけるとか。

 授業に関しては、常に予習復習は欠かしてないのに、何故か当てられた問題で悩んでいたら先生同士でふざけて出し合ってた問題だったとか。お互い高め合うのは素晴らしいと思うけど、間違えないで頂きたい。内心、かなり焦ってたのはここだけの秘密。

 そして、昼休みに入るやいなや何故か今日に限って日直の仕事が山積みで、あまりゆっくりエルとのランチタイムを過ごせなかった。僕のせめてもの安らぎなのに。

 でしたら、せめて一緒に帰りましょう、と言われて浮き足立ってしまったあの時が今日の幸せの最高潮だったんだろう。結局、エルに生徒会の仕事が入って見合わせる事となった。

 僕も日直ついでに色々と任されて、こんな遅い時刻まで学校に残らなくちゃいけなかったし。

 ああ、今日は全くついてなかったなぁ。多分、この世界にも星占いがあるなら僕はきっと最下位だったに違いない。

 たまには、エルとゆっくりしたかった。

 はあ、とため息を零して学生鞄を取りに教室へと戻る。もう誰もいないから、もしかしたら鍵をかけられているかもなぁ、と思いながら廊下を歩けば、在籍するクラスの教室に明かりが灯っている事に気が付いた。

「……あれ?」

 首を捻りながら教室の扉を開けば。


「エル?」


 僕の席に、婚約者の姿があった。

 しかも、近付いてみればどうやら机に伏して寝ているようで。

「こんな無防備に寝ていたら危ないのに」

 グランヴァル学院の三大美姫だという自覚を持って欲しい。……とは思いながらも、エルの席が隣りであるというのに、わざわざ僕の席に座っているという事実につい顔が緩んでしまう。


 自惚れても良いのかな?


 きちんと今まで好意を口に出してないけど、エルも同じ気持ちなんだと、僕はそう受け取っても良いんだろうか。

 普段は綺麗に整えられたダークブロンドの髪が、僅かに乱れているのに気がついた。そこから、いつも優しい眼差しを湛える銅貨色の瞳を、今は覆い隠している瞼が見えて。柔らかい声音を紡ぐ、淡いピンクの唇がすうすう、と小さな可愛い寝息を立ている。


 ああ、エルが好きだ。


 何度も、今まで何度もその気持ちがこみ上がる。なのに、僕は――

「……好きだよ、ってちゃんと言えなくてごめんね」

 いつまで経ってもヘタレのままで。

「君が好きだよ」

 寝ている事に甘えて、今だけそっと整えるように髪を撫でた。

 アルとは違った感情は、今でもこれからも彼女のものだ。けれど、彼女にそれを重たいと感じて欲しくはない。だから言えない、言えやしない。

 アルの代わりになってから、エルの頭をたまに撫でさせてもらえるけど、ここまで無防備な姿にいけない事をしているような気持ちにされる。


 ああ、だけど。


「いつか、君にキスしたい」

 この胸に巣くった君への思いと共に。

 きっと、エルは顔を真っ赤にさせて驚いてしまうかな?それとも、驚きすぎて気絶してしまうかも。

 そんな想像に思いを馳せながら、撫でていれば身じろぎされて慌てて手を引っ込める。

「……イオ、さま?」

「うん?起きた?ごめんね、待っててくれてたんだね……って、どうしたの?」

 寝起きにしては、僅かに顔が赤かった。

 まさか、ここでうとうとしている間に風邪でも引いてしまったかな?

 大丈夫?とエルの顔を窺えば、何故かきゃあ!と小さく叫ばれた。えっ?僕、もしかして夢の中で悪さでもしたのかな?

「えっと、何かごめん?」

 よく分からないけど、こういうのは先に謝っておくべきだ。という事で謝ってみたけれど。

「い、いえ!わ、私の方こそ申し訳ありません。えっと、で、では、もう遅いですし帰りましょう!」

「うん、そうだね」

 結局、何だったのか分からないけど、最後の最後に良い事があったので可としよう。


タイトルは百人一首。

『かくとだにえやは伊吹のさしも草 さしも知らじな燃ゆる思ひを(藤原実方朝臣)

(訳)あなたを恋い慕う気持ちを口に出して言うことさえできず、伊吹山のさしも草のように私の恋心は燃えています。私の火のように燃える恋心なんて、あなたは知らないでしょうけど。


たまーに、イオとエルの甘々が見たくなります。

お互いに想い合っていますが、二人ともそれを表に出さないので。


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