Perfect of Planetarium 1.
小話ながら、閲覧、ブクマそれから評価をありがとうございます。
短文ながらに続きます(全2話)
これは、本編でエル父を出して直ぐに書いたお話でした。
という事で、イルフレッドの学生編。
※主人公は登場しません。
――だって、ここは鳥かごの世界だろう?
人は、得意不得意というものが必ずあって当然で。周りの者たちからすれば、人生の全てが上手く行っているように見える彼にも、きっちりとそれは確かにあった。
その日は、本当に気まぐれだった。
いつもならば、煩わしい事から逃げるように図書館の片隅で、ただひたすら黙々と読書に耽っていたのだが、初夏らしいカラリとした天気が心地よくて、彼は図書館へのルートから横道に逸れて違う場所で読むことにした。
この時、彼の胸の内にあったのは、せめて学院では大人しくしていよう、という事だった。
ただ、周りからは常に冷静沈着で落ち着いているように見えているのだが、知らぬは本人のみである。
そんな彼が、とある場面に遭遇したのは本当に偶然だった。
雲一つない空から注がれる光は眩しくて、読書をしようにも紙が光に反射して文字が読みづらくなるため、木陰を探しに林の中を歩いていたのだ。
そこで目に入ったのが、何やら穏やかじゃない雰囲気の少年が三人、それに相対するはたった一人の少年だった。
三人組とは面識があったので、彼らが己と同じ学年であるという事は間違いない。個々で見れば成績も優秀で明朗そうな彼らだが、父親の爵位を嵩に掛けてたまに他人を貶める所が宜しくない。しかも、それは決まって自分たちの父親よりも爵位が低い身分の子息であったりするのだ。
だから、彼は今までの彼らの行動や思考を元に、消去法で対面する人物もきっと同学年の生徒であると結論づけた。
そして現状から言えば、揉め事の最中だろう事にも気が付いて、己がどう動くべきか見定めなければならないと、彼は同時に理解する。
それは、いわゆる彼の非常に特化した癖だった。去年辺りから、どんどん忙しなくなっていく環境下でも全くぶれることのない彼の一つの才能だった。
――だから。だからこそ、彼はこの現場を押さえるでもなく、沈黙して成り行きを見ていた――のだが。
「新興貴族の癖にっ!お前、生意気なんだよ!」
「成り上がりが!」
「どうせ、全て金で物を言わせたんだろう!」
ああ、これは見過ごせない。
そう思ったのは、その対象への悪口などでは決してなくて、王族への侮辱とみられる発言を聞いてしまったが故である。
なので、彼は事態の収拾に取りかからなくてはならない、と物陰から歩みだしたのだが、何を思ったのか一方的に詰られた少年が笑い出したのは、正にそれと同じタイミングで。
「あははは!そんな新興貴族の子弟より成績が悪いんだから、弱いもんイジメとか大概にしろよなー!ははははっ!」
そう言ってのけた彼の顔には、全く悪気の欠片もなかった。
しかし、彼らはまさかそんな風に言い返されるとは思ってもおらず。しかも正論でもあったので、相対する三人は言い返せずに視線を逸らして、そこでようやく彼の存在に気が付いて目を見張る。
「っ!」
「あっ」
「お、お前は」
「やあ。イルフレッド・エーヴェリーじゃないか!」
見られてしまったという後ろめたい気持ちのまま驚いた三人組と、朗らかに笑顔で挨拶をしてくる少年の視線を一身に浴びながら、そこで彼が無表情のまま思ったのは。
さて、誰だったかな?
という、割と普通の疑問だった。
名門貴族という家柄上、顔を見ればその名前は思い出せる――はずなのに、三人組の名前は思い出せても、どういう訳かこの場で誰よりも自分に親しげな態度を取る少年の名前が出てこない。
「っ、おい、どうする?」
「まさか、知り合いだったとか」
「しかも、エーヴェリーって」
当然、そんな彼の態度に少年たちも焦ったようで、コソコソと話し合う声が聞こえる。
「……」
けれども、こんなに親しげな表情を見せてくるからにはクラスメイトかはたまたどこかで出会った事があったのだろうか。イルフレッドは、さっぱり思い出せないので思案する。
他人から一見して先程から一ミリも変わっていない顔付きではあるが、彼なりに僅かに曇らせていると。
「ああっ、悪い悪い!初対面!僕たち、初対面だから!」
悩ませた?あはは、時間を無駄にしちゃったね、とかなんとか言いながら彼はやはり無邪気に笑って謝ってきた。
それに憤ったのは、イルフレッド――ではなく三人組の方だった。
「はあ!?お前、なに考えてんだよ!」
「冗談にしては笑えねぇからな!」
「え、ええ、え、エーヴェリーに友達なんているわけねぇだろ!」
最後の言葉に対しては、まあ確かに。と、自分でも思った彼に、今度は少年がここで初めてムッとした表情になってつかつかと寄ってこられてしまった。
何か、粗相を犯してしまったのか、という思いの中、視線を上げれば。
ちょうど、そこへ太陽が光を注ぐ。
「……」
そこでようやく、自分よりもやや背の高い少年の髪がダークブロンドの色合いをしていて、この空のように澄みきった水色の瞳だという事に気が付いた。
「……ほら」
「……?」
ほら、とは?
そう言われても、彼が何を言いたいのか全く検討がつかず、イルフレッドは心の内で首を傾げる。
「あ、そっか。名乗ってなかった。僕は、クロード・ミルウッド。とりあえず、クロードって、今言ってみてごらんよ」
「……クロード」
彼の思考パターンが全く読めず、本来ならば疑り深いはずのイルフレッドが、この時はただ言われるがままに声に出す。
「よし!じゃあ、次はそこの三馬鹿!」
すると、それに満足な笑みを浮かべたクロードが、何が起きているのか分からず成り行きを見守っていた三人組へと片手で煽りながら視線を向けた。
「は、はあっ!?」
「な、何言ってっ」
「しかも、三馬鹿って!」
「あ、彼らの名前は知っている……」
から、今更自己紹介をして貰わなくても構わない、と彼が最後まで言う前に、クロードは相好を崩して「なんだー!」と口にした。
それから、
「以上が今日から君の友達!以後、宜しくね」
などと言う。
「……」
あははは、と笑って強引に手を取られ、ブンブンと上下に振られながらも握手をしているのだが、あまりにも唐突過ぎてイルフレッドの思考は全く追いついていなかった。
ただ、少し離れた所から例の三人組が俺たちはお前と友達なんかじゃねぇー!と一斉にクロードに対して批難していたのだが、そんな声すら今のイルフレッドの耳を通り抜けていく。
苦手かもしれない、と。
この時、初めてイルフレッドが他人に対してそういった感情を抱いたのは、後にも先にもクロード・ミルウッドという男のみである。