Page04 † 中野
3階第2音楽室…。
階段を上がってすぐ左手にある音楽室に中野 智-なかの さとし-はいた。
学園祭の最中は荷物置き場と化している第2音楽室で、中野は休憩がてらフィルムを交換していた。
中野は星華学園の技術科教師だ。
この学園に来て2年目、そして教師2年目でもある。
少し長めに伸ばした茶髪を後ろでゴムでまとめているせいか、その整った顔立ちからか、
生徒からは下の名前でよばれるほど慕われていた。
学園祭など大きな行事がある時は、カメラマンとして生徒の写真を撮ったりもしている。
中野はフィルムを入れ替えると、ネクタイを直し、第2音楽室の外に出た。
その瞬間、中野は自分の目を疑った。
廊下いっぱいに広がる『赤い霧』…。
1m先でさえ見ることができない。
中野は前日に行われた職員会議の内容を思い出しながら思う。
こんな内容の出し物はなかったはずだ…。
だとしたら生徒の悪戯か。それにしては度が過ぎている。
彼はポケットからハンカチを取り出し、口と鼻にあてた。
吸い込んでまずいようなものは入っていないはずだが、念のためだ。
中野は首にかけたカメラを手に取り、霧の中でシャッターを切る。
そして片手を前に突き出し、足場を探る様にゆっくりと進んだ。
何m進んだろうか。
中野の感が正しければここは3年生の教室――今は作品が展示してあるはずだ――の前あたりだ。
中野は壁を探そうと手を左右に動かす。
しばらくして、左側に動かした手が、硬く冷たいものにあたった。
中野は壁の感触を手で確かめ、それをつたって数歩歩いた。
予想通り、ここは3年生の教室の前のようだ。
壁と壁の間に開けたままになっている扉がある。
その扉の上には3年2組と書いてあるプレートが付いていた。
だとしたらトイレの向かい側の教室だ。
中野は自分の位置を再確認し、3年2組の教室の中をのぞいた。
『赤い霧』で覆われた教室の中は、やはり見通しが悪く、これと言って何も見えない…。
開いていた扉の近くにあった受付の机が見えるくらいだ。
中野は再びカメラを手にし、自分が見た光景を次々と記録していく。
ふと扉の近く…受付の机を見た時だった…。
机の上から何かがポタポタと床に垂れている。
中野はそれに興味を持ち、写真におさめようと近づく…。
数歩進んだところで彼は足を止めた。
顔の筋肉がこわばるのが自分でも感じる。
彼が見たのは首から上を無くした生徒の姿とそこから垂れる血だった。