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Page03 † 赤

2人は5階から1階へと下り、喫茶店へと向かった。



喫茶店につくと、午前担当だった女子が2人に駆け寄ってきた。


「あ〜!!やっと来た〜!!


あと5分で午後始まっちゃうじゃん。急いでね2人とも。レジ担当だからね!!」


「おっけ〜。」


「はいはい。」


2人は駆け寄ってきた女子に適当に返事をし、入り口近くにあるレジへと向かった。


そして、レジにいた午前担当の子と引き継ぎを行う。



大まかな話を終えると既に午後の営業時間は始まっていた。


どんどんやってくるお客さんを見ながら2人は素早く会計を行っていく。


店の人気は上々だった。昼時、ということもあるだろう。


午後の営業が始まってから1,2時間は休む暇もなく、2人はレジの前で立ち続けていた。






「はぁ〜。やっと落ち着いてきたね…。」


3時を過ぎ、客足が落ち付いてくると、ゆいは言った。


「そうだね。」


「やっと座れそう〜。」


そういうとゆいは近くにあった椅子を自分の方に寄せてそれに座る。


背もたれによしかかり、手足を大の字に開いたゆいは「あ〜疲れた…!!」っと言ってそのまま目をつむる。


「あらら。」


そんなゆいの姿を見ていたひめは軽くため息をついて店全体を見回す。


ちょうどコーヒーを飲み終わって席を立ったお客さんがいた。


ひめはそのお客さんの会計を済ませ、自分も椅子を持ってきてゆいの隣に座る。


2人はしばらくそのままくつろいでいた。



それから10分ほどで、店に残っていたお客さんも全員会計をすませ、出て行った。


喫茶店午後担当のクラスのメンバーだけになった店では、みんな疲れ果てて椅子に座っていた。



「どうしようか?」


しばらくすると午後担当の責任者、学級委員の女子が話を切り出した。


「もう、今日の分の材料も少ないし、お客さんも来そうにないから…片付け始めちゃう?


明日だって、続きがあるし…今日はこれくらいまででいいよね。」


その提案に賛成する答えがバラバラと上がる。


ひめとゆいもその提案に賛成し、片付けをすることにした。



片付けと言っても、軽く店内の掃除をするくらいだ。


学園祭2日目に向け、椅子やテーブルはそのままにしておく。


各自箒や布巾を持って、床を掃いたり、テーブルの上を拭いたりしていた。




ひめが丸いテーブルを拭いていると、床に落ちているきれいなヘアピンが目に入った。


淡いピンク色の花がついている。


ひめは誰かの落し物だろうと思い、拾おうと腰をかがめる。


その時、金属をこすり合わせたような甲高い音が校内に響き渡った。


音の正体を知ろうと、ひめはとっさに立ちあがり、周りを見回した。


店の中に特に変わったところはない…。


聞き間違いだったのだろうか…いや、そんなはずは……



1人、キョロキョロしているひめを不思議に思い、ゆいは声をかけた。


「どうしたの?ひめ…?」


「どうって…変な音…したから…。」


不安そうな顔をしているひめを見て、ゆいは言う。


「音なんて何もしなかったよ?」


「え…?ほんとに?」


「うん。空耳でしょ〜。」


そう言ってゆいは再び箒で床を掃き始める。




「ふ〜ん…空耳か…。」


ひめはそう呟き、布巾をたたみ直す。


そして、次のテーブルを拭こうと移動したとき、再びあの音が聞こえた。


甲高くて、脳内に響く音…


あまりの大きさにひめはとっさに耳を押さえてしまった。


そして周りを見渡すが、ひめ以外にこの音を聞いた者はいないらしい。


みんな、何事もなかったように片付けを続けている。




「おい!!あれ見ろよ。」


ひめが音に気を取られていた時、ある変化が廊下で起きていた。


それに気づいた男子が声を上げる。


その男子の声で数人が顔をあげた。


ひめも男子が指をさした方をみる。



ひめとクラスの皆の目に入ったのは『赤い霧』だった。


ワインのような赤い色をした霧は廊下を満たし、薄気味悪く漂っている。


どうやら、扉を閉めて片付けを行っていたため、店の中には霧が入ってこなかったらしい。



「ひめ…」


隣からゆいが声をかけていた。


「あれ…何だろうね?どっかのクラスの演出かな?」


ゆいが興味津々な声で聞く。


「でもそれにしては、多すぎない?あんなに沢山…前も見えないよ?」


「だよねぇ…。」


ひめの意見にゆいは少しがっかりしたように呟く。



ひめ達の他にも、皆突如現れた『赤い霧』に対して意見を交わしている。


その多くがゆいと同じく興味津々…と言った感じだ。



「ちょっと見てきてもいいよね。」


そう言ったのは学級委員の女子だった。


その子は扉をあけ、廊下へ出ていく。


それに続いて、どんどん廊下に出ていくクラスメイト達。


ひめはそれを止めようとするが恐怖で声が出ない。




気づけば店の中には、ひめとゆいの2人だけが残っていた。


「ねぇねぇ、あたしらも行ってみない?」


ゆいの言葉にひめは顔を真っ青にした。


「ちょっと…!!ひめ?!大丈夫?!」


ゆいの言葉にひめは答えることができず、首を横に振る。


「ここ座って。」


ゆいはそう言ってひめの方に椅子を押したがひめは動かなかった。


動けなかった…。





ひめには聞こえていた。


『赤い霧』の中から聞こえてくる甲高い音が。



そして見えていた。


霧の中にうごめく影と霧の中に入って行ったクラスメイト達の末路が。





霧の中にいる何かが発する甲高い音は次第に大きくなっていっていた。

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