「まささん、ネギを食わされる」の巻
（注文が終わってしばらくしたのち、まずやってきたのは飲み物でした）
「じゃ、まささん。かんぱーい！」
「か……かんぱい（心の声：ネギネギネギ……）」
「はァ～、きゅーりおいしー。（ぐびぐび）ぷはー。おにさん、生中追加！ まささんも、きゅーり食べよー。ほらほら（と、まささんの口元めがけてきゅうりを突き出す）」
「（これは、このまま喰えということかい？）んじゃ、いただきます（ぽりぽり）」
「おいしーでしょ（と、わざわざ耳元でささやく）」
「おいしーね（心の声：なんでわざわざ耳元で！ 公衆の面前でスタンダップしたらどーすんだよ！）」
そうこうしているうちに焼き上がった肉類たちが続々と到着します。
「ヘイ、お待ち！」
「待ってました～。まささん、純けいおいしーよ。わたし、純けい大好き！ 朝昼晩、純けいとビールだけでご飯オケイ！ 冷たいビールと焼き鳥サイコー！ まささんもいぱい食べよ。ほら、ピーマン来たよ。野菜食べないと身体によくない。お肉いぱい食べて、野菜もいぱい食べる。そして、わたしはビール飲む（ぐびぐび） おにさん、生中追加！」
唖然とするまささんをよそに、よく食べ、よく呑み、そしてよくしゃべるねねさん。
それに引っ張られてまささんも食が進みます。
「は～、しんぞうウメー！ なんこつウメー！」
「わたし、なんこつの歯ごたえダメです。でも、しんぞうおいしーです！ あかもおいしー！ あ、ししとうもらいますね！ 豚串もらていーですか？」
「どぞどぞ」
「じゃ、遠慮なくもらいますね。う～ん、豚串おいしーです！ まささんと食べる焼き鳥なんでもおいしーです！」
「（心の声：そう楽しそうに言われると、男としては悪い気がしないなァ）」
改めて、「女は愛嬌」を実感するまささんでした。
しかし、そんなまささんの前に、ついに魔王が現れます。
「おー、ネギ来ました、ネギ！ ささ、まささん。ネギ食べましょ！ ネギ」
「いや、ねねさん。実はボクね……」
「はい、口開けてください。あーん（と、串から外したネギを差し出す）」
「（観念して）いただきます（むしゃむしゃ）」
焼きネギ独特の歯ごたえと鮮烈な香りとが、ニコニコと笑うまささんの内面を打ちのめします。
「（試練だ。これは試練なんだ。男として、彼女の想いを無碍にするわけにはいかん！）」
よくわからない理屈で自分を叱咤激励しながら、まささんはなんとか自分のノルマを達成します。
「おー、まささんすごいー！ いぱい食べましたねー！」
「（げふッ）ごちそうさまでした」
「ネギ、おいしーかたですか？」
「おいしかったです、はい（心の声：はァ、なんとか試練を乗り越えたぞ。俺、エライッ！ エライぞ、ホントにッ！）」
「それはよかたです！ じゃ、追加で注文しましょーね」
「（心の声：ジッ、ジーザスッ！）」
「おにさん！ ネギ追加で十本！」
「（心の声：オォォォウッ、ジーザスゥゥゥゥゥゥッッッ！！！）」
