「まささんねねさん、セウォル号沈没のニュースを見る」の巻
(ひととおり男女の戦いを終えたまささんとねねさんは、テレビでたまたまやっていた、韓国の客船沈没事故のニュースを目にしたのでありました)
「船長が真っ先に逃げ出したって言ってたよね」
「とても恥ずかしいです! 死刑になればいいのにッ!」
「ああいうのってさ、実は『普段の空気』が出てくるもんなんだよ」
「普段の空気て、なんですか?」
「社会がね、どんな行いが良いことで、どんな行いが恥ずかしいことだと思っているかってこと」
「???」
「例えばね、韓国の社会が『自分が損をするくらいなら、他人がどうなってもかまわない。それをできない奴は負け組だから、他人を押し退けられる奴こそが強くて正しい』って感じだったら、あの船長のやってることは間違ってないよね。学生がどれだけ犠牲になっても知らない。自分の命こそが大事だから、って」
「韓国はそなこと言てないですよ!」
「でもね。物凄い学歴社会ってのはそういうことを言っているのと同じなんだ。まわりのライバルを押し退けて、自分だけが合格する。まわりのライバルを押し退けて、自分だけがいい会社に入る。まわりのライバルを押し退けて、自分だけが出世する。そういうのが人生の得だって、若い人たちに教え込んでるわけだから」
「それのどこが悪いですか? わたし、まささんの言てること、わからないです!」
「上を目指すのは悪いことじゃないよ。ボクは、やり方の問題のことを言ってるんだ」
「やり方、ですか?」
「うん、そう。日本でもそうなんだけど、人間の評価っていうのは、しょせん知らない他人がやることなんだ。だから、そんな知らないひとの基準でやるランキングなんかにこだわってちゃ、本当は駄目なんだよ。なんでかっていうと、そのランキングの物差しってのは、いつどこでころっと変わるかわかったものじゃないから」
「……」
「だからね、大事なのはそんなランキングの順位を上げることじゃなくって、自分に備わった本当の実力を積み重ねていくことなんだ。ところが、手っ取り早く順位を上げるためには、他人の足を引っ張ったり、成功した誰かの後追いをした方がずっと早いし効率がいい。サムスンやヒュンダイがそれで成功したから、韓国ではそれが成功のモデルになってるんじゃない? でもさ、そんなのじゃ、いざという時、ろくなことにならないんだ。なんでかって言うと、目先の損得って言うのは、その先のもっと大きな損得を約束するものじゃないからだよ。だからいま、サムスンもヒュンダイも経営がやばくなってきてる。成功の先に何があるのか。成功の先で自分がどうすればいいのかを見てなかったからだよ。この船長は自分の責任を放棄して命こそ助かったけど、このあと決していい目にはあえないと思う」