「まささん、ねねさんと出会う」の巻
それは、とある冬の日のこと。
派遣の仕事で糊口をしのぐフリーライターの「まささん」は、地元に帰省してきた古い友達とふたり、個室で鍋をつつこうと近場のちゃんこ屋に来ていたのでした。
「まささんのほうは相変わらずですか?」
「あんまりいい話はないなァ。本職はさっぱりだし、投稿作は受けないし。やっぱ、実力不足かねェ」
「むかしっからマイナー指向こじらせすぎなんですってば、あなた。まわりがガンプラこしらえてた時分、タミヤの戦車にツィメリットコーティングしてハァハァしてた小学生なんてのは、全国広しといえどあなたぐらいのもんでしょうに。もっと自覚しましょうよ。ご自分がヘンタイだっていう揺るぎない事実を」
「ほっといてくれ」
「いらしゃいませェ」
可愛らしい女性の店員さんが注文を取りに来たのは、ちょうどそんなおりの出来事でした。
日本語の発音がいささか変だったので、この娘が「中国系か韓国系」ということは、まささんにもそのお友達にも容易に想像が付きます。
「ご注文はお決まりですか?」
「え~、取りあえずはコレとコレとコレで──」
ふたり分の注文を、まささんがまとめて告げます。
手の中の端末に、それをたどたどしく打ち込んでいく店員さん。
悪戯心を起こしたまささんが、そんな彼女にちょっとした冗談を飛ばします。
「で最後なんだけど、スマイルをボクに一人前」
「スマイル、ですか?」
店員さんの顔が強ばりました。ちょっと困ったような表情で、彼女はまささんに尋ねます。
「スミマセン。メニュに『スマイル』て登録されてません。それ、どんなメニュですか?」
「はい?」
これが、「まささん」と「ねねさん」との記念すべき初遭遇なのでありました。