出会い 上
専門学校に通うために田舎から都会に引っ越して数日。一昨日学校に入学した私はぴかぴかの新入生になった。友達100人どころか1人作るのにも苦戦している一年生…それが私だ。大丈夫、戦いは始まったばかり。友達を作るチャンスなんてこれからいくらでもある。むしろそうであってくれ…。今まで自分から友達を作ろうとしたことはほぼなかったせいか、友達の作り方がわからない。学校に入学して真っ先に学んだことは友達作りの難しさだった。
そんな私は今日、4月にしては寒い日が続くなかバイトの面接を終えた所だ。本当は学校生活にもう少し慣れてからバイトをしようと思っていたけど、そんな悠長な事は言ってられなくなってしまった。原因の一つが学校の教材やらを買ったためだ。すっかりそれらの存在を忘れていた私はその値段に戦慄した。あぁ教科書、あなたはどうしてそんなにお高いの?夏や秋をすっ飛ばし、冬を迎えてしまったペラペラの財布からは哀愁を感じる。まあ、お金がなくなった最大の原因は本やマンガを買いすぎたせいだけど。
引っ越してすぐのこと。アパートから学校周辺の道を散策していると、大きな本屋さんを見つけた。中に入ってみると驚くことに、本やマンガが発売日当日に発売されていた!これは田舎では考えられないことである。3日・4日遅れの入荷が当たり前で、マイナーな物にいたっては取り寄せるかお店を回るかだ。それに比べてこの豊富な本の種類!!私は感動すると同時にすぐさま買い漁った。紙袋を二重にしてもらわなければ、袋の底が破れてしまいそうなほど買った。店員さん、お手数かけてすみません。しかしその時はそんなことを考えられなくなるほど浮かれていた。そう…それほど狡猾な罠だった。恐るべし田舎者ホイホイ。これは本屋さんだけでなく至るところに仕掛けられていることだろう。これからは気を付けねば。
そんなこんなでバイトをすることを決意した私は、電話応募した際、電話口で声がひっくり返るなどの事態に陥ったが無事面接を終えることが出来た。
燃え尽きた…。慣れない土地で慣れない事をするものじゃない。だがいい事もあった。バイトの面接を担当してくれた人が綺麗で若いお姉さんだったのだ。これはモチベが上がるね!明後日に合否の連絡が来るらしいけど、働くならぜひああいうお姉さんと働きたいものだ。
そんな事を考えながら歩いている内に公園を見つけた。小さいけどベンチや遊具がきちんと手入れされているようで過ごしやすそうだ。ちょうど人も居ないし休んで行こうかな。人が来ても向こうからは目に付きにくそうな所に座る。スーパーで半額になっていたパンをもそもそ食べる。おいしい。休みの日は基本的に引きこもっているけど、たまには外で食べるのもいいな。なんて思っていると雨が降ってきた。普段しないような事をするべきではなかった。慌てて公園内の屋根の付いた建物の下に避難する。髪が少し湿ってしまった。くせっ毛な私の髪は中途半端に濡れるとチュルンチュルンになってしまう。外でこの前髪はいやだ。いっそのこと公園内を走り回って全身びしょ濡れになってしまおうか。ぐにゃぐにゃうねり始めた前髪を引っ張りながら空を見上げていると、視界の隅にキラキラしたものが映った。なんだろう?そちらに顔を向けると―――美少女がいた。
光に当たらずとも輝く金色の髪が、腰の辺りまで伸びて背中でサラサラ揺れている。タレ目がちな碧い瞳はよく晴れた日の空を切り取ったかのように澄んでいる。頬を少し赤くして、細い足でこちらに走ってくる―――美少女がいた。やべっどうしよう。綺麗なお姉さん、可愛らしい人妻など(2次元限定)私のストライクゾーンは広めだが、これはど真ん中だ。金髪碧眼ロリ最高。3次元より2次元の時代だと思っていたが、リアルでこんなロリを拝めるとは…!いや、落ち着け。ここで妙な対応をとったらいくら私が一応女といえども後が怖い。同性同士でも今の世の中用心するに越したことはない。あの子はおそらく雨宿りのために此方に向かっているはず。そして屋根の付いた建物は私が居るところがあの子から一番近い訳で。つまりここは紳士な対応が求められるところだ。守るべきは「yes!ロリータno!タッチ」ということだ。これはロリコンのロリコンによるロリコンのための掟のようなもので、ロリコンではない私には関係のないものだが今だけは参考にしよう。要するに必要以上に触れたりしなければいいのだ。ある程度の距離を保ちつつ話かける…よし、いける。喉の調子を整えるために咳払いをしてみる。…んんっ。いける!いけるぞ!3次元に舞い降りた天使のもとへいざ行かん。
ここまでの判断は約数秒。私が待ち構えていることなど知らずに美少女は此方にやってくる。あと3歩、あと2歩、そして――美少女は転んだ。