門番の怱忙
祭りが近いせいで、都市の門には人がズラズラと列を作っていた。
毎年この時期は、後から後から人が来て途絶えることがないものだから、いい加減嫌になる。
門番がため息を吐いた、その時。
その奇妙な二人組は現れた。
少女の方は、人形のように可愛らしかった。腰につけた短剣が少し無骨でこそあったが、それ以外は、御伽噺から抜け出して来たような容貌だった。
問題は、もう一人の男の方だ。
なんというか、だらしない。
みすぼらしい。
長身を屈めた猫背のせいだろうか。
適当に切ったのであろうボサボサの髪のせいだろうか。
或いはその髪で片目を隠された顔のビクついた表情のせいか。
男の方から漂う何とも言えない残念感と、少女が醸し出す優雅な雰囲気が変に調和している。
どういう関係なのか、と思いながら書類を受け取ってザッと目を通す。
「名と年齢の確認を」
「アイリス・レ・サイロス、8歳」
先に答えたのは少女の方だった。
遅れて男が、オドオドと口を開く。
「お、俺はその、ディレク・セレストリ、16歳でふっ!」
……噛んだ。
気まずそうに目をそらして、一部繰り返し。
「……16歳、です」
「ぶふっ、ああ、書類通りだな」
無かったことにしてくれる辺り、この門番はいい人のようだった。
笑いを堪えながら、提出された書類にもう一度目をやる。
「ぶっ……ん? 目的は、大会への出場?」
またジロリと見れば、男の目線が面白いくらいに泳ぐ。なんともまぁ、情けない。
剣を背負ってこそいるが、この男が戦えるのだろうか。
なぁ、と少女の声がしてハッとする。
「何だ?」
「大会で優勝すれば、望むもの何でも与えられると言うのは本当か」
「ん? ああ……限度はあるが」
そうか、と少女は顎に手を当てた。
この少女もずいぶんと古風な話し方をするな、と門番は思った。
「何か欲しいものが?」
「まぁな」
一応、男の方にも視線を合わせて聞いたのだが、答えたのは少女だけだった。
よく分からんが、それなら——
「隣の男に頑張ってもらうしかないな」
戦えそうには見えないが。苦笑しながらそう言うと、
「は?」
少女は意味が分からないと首を傾げた。
……あれ?
怒りの混じった声で、少女は言う。
「何を勘違いされているのか知らんが……」
「前衛は、私の方だぞ?」
ふぅ、とため息が出た。反対側を守っていた同僚が近寄って来て、ボソボソと囁く。
「大丈夫、なんですか。あの変な二人組を通しちゃって……」
「いやまあ、問題はないだろう。特にあんな挙動不審、間者なはずもないからな」
「はは、確かに。頼まれたって雇いたくないですね」
「ああ……」
しかしそれにしても、あいつらは一体何者だったのだろうか?
門番はただただ、首をひねった。
怱忙…いそがしいこと。