第6話 帝国と云う制度。解説小父さん登場の巻。
挿絵は後のそはらの姿です。
80年代ファンタジー物のセンスで描きました、つまり私が高校生の頃のセンスですね。
作中での現在の姿はスカート丈の短いブレザー姿です。
以前ネットで調べて意外だったことの一つに『帝国』と云う制度は皇帝が複数の国を治める国家制度だけではなく、王が支配する王国制や共和制の帝国も存在するらしい。
また、強大すぎる勢力を持つ国家が帝国と云われる事もあるらしいが、いま俺がいる大陸は皇帝が支配する文字通りの帝国だと云う事が分かった。
あの後、ギルドの窓口に寄って冒険者ギルドについて説明をして貰ったのだ。
窓口には事務員の小父さんが書類に向かって何かを記述しており、カリカリと云うペンの走る音が聞こえてくる。
ワザとかワザとじゃないのか、こちらに向かって注意を向ける愛想の良さは期待出来ないらしい。
と云う訳で窓口に設置されているベルを叩いてみた。
チーンと云う澄んだ金属音と共に小父さんが顔を上げる。
「何だ用事があったのかい?」
「はい、冒険者ギルドに入りたいと思って来たんですけど勝手が分からなくて色々話を聞きたいんですが」
「ふむ、こう云っちゃなんだが君の見た目や雰囲気じゃあ戦闘経験は無さそうだ。傭兵でも冒険者でもなさそうだが、雑用専用の登録かい?」
「ええ、田舎から出てきたのですけど、傭兵とか冒険者とかの区別も分からなくて、ギルドの事について知りたいんです」
「ほっ、田舎かね。冒険者について知らないなんぞ、よっぽどの田舎者か。まあ良い、簡単に説明すると向かって右側が冒険者ギルド傭兵部門、左側が冒険者ギルド冒険部門じゃな」
分かり易いのは良いのだが、何故傭兵部門と冒険者部門が分かれているのか。
冒険者だって旅に出れば戦闘を行う事もある筈だが。
どう云う事?
見た感じ、傭兵の方は普通に兵隊さんって感じかな? 武器もある程度規格が揃っている風で、冒険者の方は色々バラエティーに富んでいるっぽい。
まあ、話の続きを聞かないと推測するだけじゃ意味がないな。
「冒険者ギルドの大元は未開の地に眠る生物資源や遺跡に眠る遺失文明の探索をする冒険者の互助組織だった訳じゃが、保有する戦闘力が上がってきた頃からそれまで多数合った傭兵ギルドを吸収合併する形で帝国に所属する政治株を持つ組織に派遣する業務も兼ねる様になった。
ついでに云えば国の域を越えた広い範囲での職業安定所も兼ねておる。お陰で流民の数も減り、政治的な安定が図れたとして帝国から表彰も貰ったのじゃ」
「あのぉ、基本的な事を済みません。帝国の下にも国家が存在するんですか?」
「お主は馬鹿か? 若いからと云ってそんな基本的な事も知らないと云うのは許されぬ事じゃぞ。
まったく近頃の若いモンは」
窓口の小父さんは俺を睨みつけるように見ると古代シュメール文明の頃からあると云われる、年嵩の者が若者に云う定番の言葉をブツブツと言っていたが、若者に説明すると云う魅力には勝てなかったのか嬉々として教師の様な講釈師の様な態度で口を開きだした。
そして周りの冒険者達は俺達の事を気の毒そうに眺めていた。
どうやらこの小父さんは少々長話がウザがられている様だ。
だが、ならばこそ不信感を抱かれずに色々と聞き取りが出来ると云うもの。
聞き上手と云う特技を活かすには最適な状況じゃないか。
こちらとしては願ったり適ったりである。
「帝国と云うのは多数の国家組織を傘下に置いた超国家組織の事じゃ。
帝国典礼を遵守し、傘下の国家を指導する立場にある。
皇帝陛下に在らせられては、帝国勃興期より連綿と続く他大陸との防衛戦争を担う帝国軍の管理と、帝国内の国家と自治区の政治的調停組織である帝国議会と戦争調停組織である戦争管理委員会を指導されておられる。
傭兵ギルドは各政治団体同士が戦闘による政治交渉である戦争を行う際に兵力を派兵する役割を担っておる。
戦争法により政治規模に関わらず同等の兵力を揃える必要があるからの、100キロメートル四方の司法戦場で敵味方が戦争目標を完遂する為には政治団体が保有する私設軍隊では兵力が足りないのじゃ」
「戦場に着く前に奇襲で兵力差を補うとか」
「アホか。帝国内での戦争は政治的解決を目的として帝国が設立した戦争管理委員会の管理下の元においてのみ成立する。
それ以外の武装勢力は帝国によって反乱したと見なされて、銃火器を揃えた帝国軍に蹂躙されるだけじゃ。
戦管に対して宣戦布告を述べて敵対組織がそれを受理した場合にのみ司法戦場にて戦争が行われる。
兵力もすべてが戦管の管理下にある。
もちろん禁止武器である銃砲類の使用は認められておらんがな」
「銃とか、あるんですか」
「おう、帝国軍だけが所持を許されておるぞ。
他大陸からの侵攻と帝国内の反乱勢力に対してのみ使用が許可されているが、一兵卒にまで行き渡っておるからな。
儂も若い時分に帝国軍に入隊しておった頃は相棒の自動小銃と軍生活を共にしておった。
銃火器は一般には全く出回っておらん。
何故だか知っておるか? 歴史的な話じゃぞ」
がーん、文明的に遅れている所に銃器を持ち込んで無双する目論見は夢と消えたな。
となると飛び道具は弓かクロスボウ、あぁ魔法もあるか。
近接武器は剣とか槍とかなのかな。
それはそれとして、小父さんの方に注意を戻すと、その事は当然の事ながら知らないので首を振って否定した。
すると『そうじゃろうそうじゃろう』と頷いて話しを続ける小父さん。
「千年ほど昔、帝国以前に存在した大陸国家の共和国、サクテト共和国の憲法に『国民は自分の身を守る自由を有し、国家は此を犯してはならない』とあったのじゃな。
成人した男女は最低一丁の拳銃を持ち、外出する際には一家に付き一個の自動小銃を装備するのが常識だったそうな。
そして他大陸との防衛戦争に共和国軍が破れ、その後に訪れた暗黒大陸の魔王の侵略と戦い、すっかり疲弊した共和国軍では治安の維持が出来なかったのじゃな。
内乱によって国内が分裂し、一人一人が銃器を持っていた為に無数の人々が無差別に殺されたそうじゃよ。
その時代に現在の帝国首都がある工業地帯の財閥の御曹司が民間軍事会社をまとめて大陸を平定し、初代皇帝に即位し、現在の帝国典礼を定め、民間の銃器の所持を禁止、各自治区間の政治的決着の最終手段として、司法戦争を定めて戦争管理委員会を設立した訳じゃ」
「はあ、その戦争の原因となった他大陸や暗黒大陸ってのはその後どうなったんですか?」
「うむ、それは当然千年も経てばどこかへと流れていったのだろう。我ら浮遊大陸に住む者たちの運命じゃよ」
「浮遊・・・・・・大陸?」
「何じゃ、そんな初歩的なことも知らんのか?
親の教育はどうなっているんじゃ。
世界の果てまで広がる大海洋に浮かぶちっぽけな浮遊生物、それが我らの住む大地ではないか。
子供でも知っている基礎的な知識じゃろうに。どんなド田舎の出身何だか」
残念ながらこの世界の出身ではないのでお答え出来ないが、日本国出身です。
しかし、この小父さんツラツラと話が止まらないが、生来のお喋り好きか、それとも喋る相手がいなくて寂しかったのか。
嫌々ながらだったらこんなに長く喋れないだろ。
目論見通り、長話好きだというのは確かなようだった。
「まあ、とにかくじゃ。
帝国の傘下に入っている国家が政治的解決を話し合いで決められなかった時に戦管に宣戦布告を宣言して相手との軍事的決着を着ける制度があり、冒険者ギルドはその双方に傭兵を派遣するのが業務となっておる。
何しろ国と云っても国土を有する国家もあれば通商権を持つ商業ギルドの自治組織もある。
他にも宗教組織の自治区もあれば民族組織もある。
特に同じ国土の中に政治と商業ギルドと宗教組織と民族組織の領域が重なり、入り乱れている地域では民衆に対するテロを起こされるのは非常に厄介じゃ。
それよりも、ハッキリと責任の所在が明確で決着を着ける司法戦争が好まれているのが現状じゃな。
そう言う社会的風習が帝国になって定着した、そう言うことじゃよ」
「へぇ。でもわざわざ命の危険を掛けてまで傭兵として戦争に行く人はそんなに沢山いる物なんですか? 兵隊、つまりは政治の道具、駒として使われるって事じゃないですか」
「待て、それは戦士の誇りを傷つける言葉じゃ、人前で云うのではないぞ。
確かに命を落とす可能性は高い。
じゃが、戦争での戦傷や戦死は誇り高き戦士として名誉を得る事の出来る尊い生き様なのじゃ。
よって戦争の決着に不満が在ろうとも潔く従う必要がある。
何故ならば、それらを使う組織も彼らの名誉を傷つけぬ様に名誉を尊ぶ社会的風潮が出来ておるからじゃ。
努々(ゆめゆめ)忘れる事なかれよ」
「なるほど。でも、戦争とか無い方が良いのでは?」
俺は日本人として標準的な考え方でそう言ってみるが、小父さんは渋い顔をして『確かに』と呟いた上で訥々とこの制度が成立した経緯を説明してくれた。
「元々この制度が出来た原因は完全平和主義が共和国で蔓延した事だと言われておる。
大陸を平定し、反乱と云っても武装に限りがあった為にもう大戦争はないと考えられていたのじゃな。
その頃は最後の他大陸との戦争が在ってから500年近く経っておったし、魔王の発生も長らく無かった事から大規模な軍縮が行われたのじゃ。
しかし、文明レベルは低くとも攻撃的な文明を持つ他大陸、大ユグトラシル大陸を名乗る者達よりの侵攻によって大陸内のインフラは破壊され、軍縮によって弱体化した軍隊も壊滅的な損害を受けた。
続いて襲ってきた暗黒大陸の魔王による被害も馬鹿にならず、その被害の様を武器商人として目の当たりにしてきた初代皇帝陛下は、『戦乱』も『平和呆け』も大きな破局を呼ぶ原因になるとして、適度な緊張と軍事に対する関心と忌避感を維持する為に『戦治』を望んだ、と伝えられている。
何事もバランス、そして人間は戦いを忘れられる事の出来ない哀れな存在である事を自覚していた、つまりはそう云う事じゃ。
第一、完全平和を唱える神々の一部でさえ戦いに明け暮れているではないか、ましてや戦神に於いておやそれは明らかなん。
よって、いつか来るであろう戦いの日の為に、我々は心身ともにそれに備えなければならないのじゃよ」
「なるほど、それで冒険者の方は」
「ああ、元々は共和国時代の遺跡を探索し、そこに残されている様々な資源を回収する事が目的の廃品回収業者たちとその護衛たちが互助組合を作ったのが冒険者ギルドのそもそもの源流じゃ。
だが、大陸亀の積層物が人のいない場所に積もり易いのは知っておるな?
広大な面積を誇った共和国の都市は積層物に覆われたちどころに森林と化し、魔獣どもが跋扈する人類外領域となってしまった。
そうなると回収業者自体が武力に優れておらねばならず、共和国時代の地図も当てにならなくなった事から人知未踏の場所を行く者、冒険者となっていったのじゃな。
今では共和国時代の遺物の探索よりもそこに住まう魔獣どもを狩る性質が強くなっておるがの。
だが、共和国時代の遺物に希少性の高い物が多いことに変わりはない。
当時の冶金技術によって大量に生産されたミスリルやオリハルコンと云った魔導金属の製品が遺跡には数多く存在し、それを取り込んだ魔獣どもを狩り、遺跡を発掘する事で新たな武具を作ることが出来るのじゃ。
因みに数多く出土する銃器具は一度帝国の審査機関に提出せんと犯罪者として逮捕されるからの、注意することじゃ。
まぁ、弾薬が腐っておるから使用しようとしても使えんがの」
「なるほどなるほど。残念ながら今の俺にはどっちも無理っぽいですね。それで雑用と云うのはどちらに行けば?」
「もちろん、此処じゃよ。ここ、総合窓口で承っておる」
小父さんは自分の座っている窓口を指してそう言った。
なるほど、つまり冒険にも入らない小さな雑用と云う扱いなのか。
「冒険者に頼るほどの事でもないって事ですか」
「うむ。まあ、冒険者としてのプライドの問題もあるかの。
傭兵も冒険者も危険を伴う仕事だから町中や街の周辺の比較的安全な仕事には手を煩わせられたくないんじゃな。
都市近辺の開けた場所に繁殖する薬草も量は必要じゃが、薬造りに必要不可欠なのじゃが。
とは言え、都市周辺の森林には縁人種がおるから気を付けねばならんぞ」
「えんじんしゅ?」
「うむ、ゴブリンやコボルトと云った道具を使って生活を行うことが出来るが道具を作る事の出来ない人に近縁な、道具を生み出す事のない文明しか持たない種族の事じゃな。
以前は亜人として分類していたが、エルフやドワーフが『一緒にすんな』と抗議した結果、古代の文献からそれらは180万年前のアウストラロピテクスに近縁な種から進化した『動物よりも人に近いが、人ではない』種族の事じゃ。
どちらかと云うとチンパンジーやゴリラに近いとされておる」
「進化論、ですか。人は神が作った~とかじゃなくて」
俺がそう言うと小父さんはきょとんとしてしまった。
何か変な事を云ってしまっただろうか、常識が分からないから何が地雷かさっぱり分からないんだが。
「何処にも神が人を作ったなんて書いてないぞ? 神が人を連れてきたとは書いてあるが。
とは言え、この大陸で人間が進化した訳ではないからの。
他大陸から流れてきた文献に書かれていた古代文明での研究の成果じゃのう。
それら縁人種は、道具を人間に依存している事から、人間の住む文化圏から付かず離れていない領域に生息している。
俗に云う従属文明圏じゃの。
なので、薬草を取りに行った若年層の雑用人が行方不明になる事件の多いこと、決して軽く見てはならんのじゃが」
おお、良くあるゴブリン退治と云う冒険者の初心者向けは初心者にすら見向きもされないって事か?
いや、薬草採取とゴブリン退治は別物なのか。
ふむ、まあそれらはともかく、此処での基盤を作るためにも冒険者ギルドの会員証を手に入れなければ。
「それで、雑用を引き受けるのには冒険者ギルドに入って置いた方が良いんですか?」
「うむ。儂は常々そう思っておるが、慣習的には入っていない者でも雑用任務は受けられる。
但し、先程も云ったように時折行方不明者が出るからの、ギルドに入っておった方が良いのは確かじゃ」
「なら、入って置きたいですね。どうすれば良いんでしょうか」
俺がそう言うと小父さんは横に置いてある引き出しの中から書類を一枚取り出して目の前に置いた。
「文字は読めるかね?」
「えーと」
書類の上に並んでいる文字を見てみると、アルファベットっぽい文字が右から左へと昔の日本語みたいに並んでいた。
世界の文字って本で読んだ古代アルメニア文字みたいな感じだ。
知らない文字だけど、何でか意味が分かる。
俺には分からないが『異世界言語習得』スキルっぽい物があるらしい。やったぜ。
まあ、異世界の言葉を話してる時点でこの事は予想できたのだが、文章まで分かったのは幸運以外の何者でもないだろう。
「読めます。えーと名前と年齢、性別、賞罰ですね」
「うむ。書き込んでくれ。あ、そうそう、後ろのお嬢さんはどうするね」
「あ、私はいりません。別に冒険者になるつもりはありませんし」
俺が書類に見よう見まねで下手くそな文字を書き込んでいると、後ろにいたそはらからそんな言葉が聞こえてきた。
どういう事だ。
「そはら?」
「えーと、ほら。私は呼ばれて来たからさ。明日神殿に顔を出せば良いかなって。しばらく会えなくなるかもだけど、大丈夫だよね?」
「物語だと、『それが彼女を見た最後の姿になったのだ』とかナレーションが入りそうだけどな」
「それはどっちかって云うと私のセリフだよ。雄大君」
「むむ。否定は出来ないな、武器を持たない俺は中型犬に襲われても殺られる筈だし」
「え、犯られるって獣か……」
「違うし! 止めれってそう言うの。でも神殿て宗教だろ? 俺はそう言うの駄目だな」
「私は直接会ったからね、すっごい神々しいの。あの方になら私……」
何やら遠い目をしてそはらは押し黙った。
何があったんだ、召還の時に。
俺はイレギュラーみたいだし、女神様とか云うのに会っていないからな。
こういう場合、離れちゃいけないんだろうが、俺はどうにもソレ系は信用ならない。
だが、身内の人間じゃないから、積極的に止められないし、だが、本物の神様がいるかいないか分からない世界から神様が実在する世界に来たのだから、信じても良いのだろうか。
どちらかと云うと、実在するからこそ信じちゃいけない気がするんだが。
まあ、そんな問答をしながらも俺は必要事項を記入した書類を書き上げて、小父さんに手渡した。
「じゃあ、これをお願いします」
「はいよ。後手数料1銀貨だな」
「ああ、えっと」
困った手持ちが無いじゃん、そうだ百円玉なら銀貨っぽい!
いや、今のはニッケル貨だし旧百円なら銀貨だったらしいのに。
って云うか騙したら駄目じゃん。
「はい、コレ」
「そはら、なんで」
俺が困っていると後ろに立っていたそはらが銀貨を一枚窓口に置く。
そして俺が困惑しているのを見て微かに笑った。
「女神様から色々と装備を貰ったから、金貨一万枚位ならあるし、私の服装を見て『そんな装備で大丈夫なのぉ?』って言って来たから思わず『大丈夫です、問題な……一番良いのを頼む』って今着ている下着が最強装備になっちゃったけど」
それを聞いて俺が思わず言葉をこぼしてしまったのは仕方がないところだと思う。
「性的な意味で?!」
「防御力的な意味でよ!」
顔を赤く染めてそはらが怒鳴りつけた。
かなり可愛らしいと思ったのは可笑しな感覚ではないと思う。
「あー、まぁ、とにかく借りておく」
「良い、トイレットペーパーの代金で」
「なるほど。じゃあ遠慮なく。小父さん、これで」
「ほいよ。名前はユーダイ、ふむ、ここいらでは男子には~オスと付けるからユーダイオスじゃな。よろしくユーダイオス」
小父さんが手を伸ばしてきて握手を求めてきたので強く握り返してきたが、ニヤリと笑って俺よりキツメに握り返してきた。
結構痛かったし。
しかし、翻訳魔法でユーダイオスと云う愛称が『ちゃん』とか『くん』にならなかったって事は悪い意味でもなくて、単なる文法的な物なのだろうか。
まあ、いいや。
ユーダイオス、何か外人ぽいハンドルネームみたいじゃん、悪くはないかな。
それから血を採られて指紋を採られてサインを入れて、写真と云うかデジカメじゃなくて銀版写真の方で胸像を撮影して、専属の筆写師が冒険者カードに描き込み、俺の冒険者カードが完成した。
何やら金属製のカードであるが材質は分からない、ファンタジー世界特有の金属だろうか。
後で抵抗値とか測ってみよう。
壊れちゃうかな? 止めとくか。
そう言えばあの夢の中で出て来た魔力石とか、あったら色々調べて置かなくては。
「これで雑用が受けられるんですか?」
「いやそれが無くても雑用なら受けられるぞ。まあ信用度が違うがな」
「なるほど、だったらOKですね。それと、魔力石と云うか精霊石とかそう言う魔力の発動体になる石や金属ってあります?」
「む、買い取りかね? 魔力石位なら遺跡から大量に出土するが精霊石は希少価値があるぞ? あと、金属ならオリハルコンやガンマニオンだな。これらはかなり高価で取り引きされておる」
「それって何処で手に入りますか?」
「魔力石なら道端にでも小さい物なら転がっている事があるが、それ以外は遺跡の内部だな。特に金属製の物質は魔獣の体内で生成される事が多く、冒険者が魔獣を倒した後に核付近の内臓に溜まった物を持ち込む事が多いかな」
聞き方が悪かったか、冒険した時に何処で取得するかの方法じゃなくて、簡易な入手方法が知りたいんだよお。
「売ってたりは?」
「なら、魔法道具屋だな。あそこなら色々と怪しげな代物を取り扱っているからの」
これだけ魔法が浸透している文明でも、魔法は胡散臭いものとして見られているんだろうか。
でも、お高いんだろうな、取り敢えず実験て事で道端に落ちているって奴でも拾ってみるか。
「ふぅん。ちょっと金が入るまでは手が出せないか。道に落ちているのってどんな色形なんですか」
「そうさの、透明で属性毎に火は赤色、水は青色、土は黄土色、風は水色、雷は黄色の様な色掛かっている水晶みたいな感じじゃ。火の魔力石は焜炉にも使われているから良く破片が転がっているぞ? その他はあんまり見ないな」
「水晶みたいな感じですか。紫水晶は何になるんですか?」
「あくまで水晶みたいな、じゃよ。紫水晶は紫水晶以外の何物でもないわい。具体的に云うと水晶と魔力石は比重が異なっておっての。比重は知っておるか? 体積辺りの重さの事で、重さが同じでも比重が異なれば大きさが変わっているからの、秤を水中に沈めれば体積が大きい方が掛かる浮力が大きいんじゃ、となると比重が小さい方が体積が大きくなる分だけ浮力が大きくなるから比重が重い方が沈み込むと云う理屈じゃな。これで純粋な金塊と混ざり物の金塊を見分けたという賢者の話が伝わっておる」
「どこかで聞いた様な」
って云うかアルキメデスの逸話か。似たような人物がこの世界にもいたって事だろうか。
「うむ、こことは異なる世界の賢者アルキメンデスの逸話じゃな。どうやら他大陸ではなく異世界と云う異なる神々が治める世界があるらしい、と魔法技術院の著作に記してあったわい」
それを聞いた途端、俺は自分がそうだ、と叫びそうになった。
「まあ、そんな希少な存在が此処に現れたら、不良錬金術師共に誘拐されて骨の一本一本まで調査されてホルマリン漬けじゃろうがの。勇者なら話は別じゃが」
ホッホッホッと笑う小父さんの顔を見て、開き掛けた口は自然と閉じた。
まあ、異世界トリップで優遇されるのは正規に呼び出された勇者だけで、オマケの一般人はひどい目に遭うのがセオリーと云うか、お約束だ。
大人しくしていよう、そう心に決めた。
「それで、今日から仕事に入るかね? 雑用は売るほど依頼が来ているからこちらとしてはいつでも歓迎するが。色々と種類も豊富じゃ。逃げたペットの捜索依頼は使い魔の血統のハツカネズミから小型の飛竜やスライムなんて変わり種もおるな」
「いやいや、初めて来た町で勝手も分からないのに無理ですって。て云うか空を飛ぶペットの捜索依頼ってどれだけの範囲を探さなきゃいけないんですか?!」
「意外と近所にいるものなんじゃがの。まあ、腰を落ち着けてからでも構わんか。困った事があったらこの窓口に来なさい。この支部ギルドマスターが直々に相談に乗ってやろう」
「うへっ、ギルドマスター?!」
「ふっふっふっ、ギルマスたる者、現場の現状を把握しておかねばならんのでな。決して書類仕事に疲れて新人をからかうために窓口に座っているのではない」
何故か色々と透けて見える的な発言がするが、これも異世界ジョークなのだろう。