第3話 転移した俺は隠密行動に入った。
気がついたら白い闇と云うか霧の中というか、五里霧中?
とにかく自分の手を見ることは出来るが、足元も確認できない状態になっていた。
確か、昨日就寝してそのまま~寝てたはず。
うん、さっぱり状況が掴めない。
どうしようもないのでそのままボーッとしていたら、何やら聞こえてきた。
どちらから? と思って耳を澄ましてもさっぱり分からない。
とにかく、どう云う音なのか聞いてみる事にしたんだが。
ぼそっぼそっ、意味のあるような途切れ途切れの言葉のような……否っ! むかし寝ている時に金縛りに遭った時にも、耳の穴の中で動く空気の耳鳴り音がまるで意味のある言葉のように聞こえてきて、何を云っているのか耳を澄ましたら段々俺の悪口の様に聞こえてきたじゃないか。
あの時は「何を云っているのか」、じゃなくて「何の音が聞こえているのか」、を聞き直したら悪口に聞こえてた声がごうごうとした耳鳴り音に戻ったし。
これもそうかも知れない。
さて、何の音だろうか。
『勇者よ……』
キターッ!
これは確かに異世界転移物の神様との接触で良くある会話ではないですか。
つまり勇者と呼び掛けられた俺が勇者として!
『勇者かをるよ。主の希望は叶えられよう』
ですよねー。
分かってますよ。
俺如きがあのチートが無くても剣と魔法の世界で活躍しそうな幼なじみを差し置いて勇者に選ばれる訳なんて無い事くらい。
つまり、かをるの奴が勇者として選ばれたって云う設定の夢なのか。
ふぅ、夢の中でさえままならないとは。
って云うか何でかをるのトリップ物の夢を見てるっぽい訳だよな。OK,OK.
どんだけ不自由なんだ、この俺は。
夢の中で位、チートとか無双とかしてみたいじゃないか。
あぁ~あ、明晰夢っぽいのに。勿体ないな。
おやすみー。
ふてくされた俺は、自分で夢だと思っているのに不貞寝してしまった。
だからだろう、最後に聞こえて来た質問に適当に答えてしまったのは。
『ついでじゃ、貴様は何か希望はあるか』
「あ~、ファンタジー世界じゃトイレに苦労しそうだから、いつでもどこでも好きなだけトイレットペーパーが使えると良いな~なんちゃって」
『望みは聞き届けられよう』
くー。Zzzzz。
おっと本気で眠ってたみたいだ。
ベッドから身体を起こそうとしたら、痛っ! ゴリッとした、背中が痛いんですけど。
て云うか地面の上じゃん。
アレここは……あのセリフが、あ、天井がねぇや。
「ドコだよ、ここ」
改めて周りを見回してみると、ヤケに背の高い広葉樹が生い茂っている。
だけど雑草がきれいに刈り取られているのが見えたので、人の手が入っているのか。
木々の間を見通すと大分離れた場所にある木立の中の広場に、神道の地鎮祭でやる様な2メートルくらいの棒が間6メートルを置いて4本ばかり正方形に立っていて、棒をロープが結んでいた。
地面には白い布が広げられており、その四角でほとんどスッポンポンの美女が踊る、と云うか舞っていた。
それを見て俺は日本神話のアメノウズメを思い出した。
だって胴に巻いた荒縄を褌みたいに垂らしているだけなもんで、大事なアソコが丸見えに。
どう見ても18禁です。ごっつぁんです。
固唾を呑んで見守っていると、光の柱が空から降りてきて白い布の中央を照らし出した。
まあ、俺的には四角のスッポンポンの美人四人に目が釘付けな訳だが。
何やらギラギラとした光の中心に蠢く物が見えたと思ったら人影になって行く。
フッと光が晴れて視界がクリアーになると、またもや全裸の美少女が女の子座りで白い布の上にへたり込んでいた。
スレンダーな割に『たゆんたゆん』としたご立派なツインをお持ちのようである。
容姿は銀髪で赤眼の雪の様に白い肌をした美少女で、って中二病的な感じでアレだな。
何やら全身に紋章のような物が浮かんでいるが、左腕は特に緻密な模様が浮かんでいる。
ますますアレな感じがして来たが、ちょっと見た事のないレベルの美少女だ。
少なくとも自分の周りにはいない。
美少女はしばらくキョロキョロしていたが、自分の姿を見て顔を赤く染めると慌てて胸を隠した。
自分が今、全裸であると気が着いたようだ。
もうちょっと見ていたかった。
それはさて置き、さて、どうした物か。
実は舞台となっている白い布の周りだが、半裸の女性の他にも飾りたてられた貫頭衣を着た西洋人的な神官ポイ人たちと筋骨隆々とした戦士が周りを警戒しながら儀式を見守っていた。
これってアレだ。
普通の設定だと城の奥にある秘密の一室で行われる『召還の儀式』だ。
魔法陣は見当たらないが、オーガニック的と云うかシャーマニック的な儀式魔法なんだろうと思う。
と云う事は余り余人に見られてはいけない的な儀式なんじゃないかと思われる訳で。
のこのこ近付いていったら、拙いよね。
『神聖な儀式の最中に乱入するなど不届き千万っ! しねぇ』
なんてなったら確実に死ぬる。
うん、やっぱり止めておこう。
取り敢えず気付かれていないみたいなんで、隠れとこうっと。
そういう訳で、俺はドキドキしながら息を潜めて様子を伺い続けた。
の、覗きじゃないよ? 純粋な興味だから、誤解しないで欲しい。そう、状況把握の為に必要なんだ。
誰に言い訳してるんだ俺は。
さて、幸いにも銀髪美少女に貫頭衣を着せると神官と踊り子さん達は直ぐにその場から去って行った。
儀式の式場は残っていた平神官らしい人達が道具を片づけ始めて1時間ほど掛かったが、誰もいなくなった。
うん、既に空は真っ暗です。
誰もいない森林は暗くて怖い。
良く考えなくてもあそこで助けを求めた方が良かった様な気が。
後悔先に立たずとはこの事よ!
でも、彼らが歩いていった方向は分かったし、その先には町の灯りが浮かんでいる。
この森は凄く神聖な場所みたいだけど、意外に人の生活圏に近い所にあるみたい。
日本で例えたら、う~ん、皇居みたいな?
ダメじゃん。
兎も角、このまま森の中に突っ立っているのは非常に怖い。幽霊的な意味で。
足元を照らす光も、あっキーホルダーにLEDライトが付いてたっけ。
あ、でもさっきの戦士的な人に明かりが見つかったら嫌だな。
幸い月もいつの間にか昇っていて明かりも薄っすらとあるし、俺は足元に注意しながらそろそろと足を運んだ。
まあ、問題なのは月が二つも浮かんでいる事だけどな。
決定的かな?
それはともかく。
地面の土は軟らかく、落葉樹の葉が積もって出来た肥沃な腐葉土になっている。
こう云う所にコガネムシやカブトムシの幼虫がいるんだよな~とか考えていたらグニッと何か柔らかい物を踏んでしまった。
柔らかでいて弾力に富んだ何とも言い難い感触だった。
目を向けるが、薄暗くて良く見えない。
シルエット的には大型犬位の……。
もしも大型犬だったらただじゃ済まないな、とか考えていたが唸り声も聞こえてこないので意を決してLEDライトを向けてみた。
金色の毛並みが見えたのでゴールデンレトリバーみたいなのかと思ったが、直ぐ下に見慣れた顔が……何だか少し西洋的な骨格に変わっている幼なじみっぽい顔があった。
化粧や整形じゃないし、する時間もなかった筈。
個々のパーツは変化しているのに個性はそのまま残っているので何か妙な感じだ。
本人だろうか? 世界には似た人間が三人はいると云うが。
月が二つもあると云う事はここは異世界?
異世界が本当のことなら3×n倍も似た人がいる訳で、やっぱり別人? はてさて。
ふむ。ここで地球とは違うという説の根拠になっている月が二つある現象だが、これについては幾つかの可能性があると思う。
1、気象的な鏡像現象であるか、なにがしかの自然現象による幻覚である。
2、リアルなプラネタリウムである。
3、同じ宇宙の別の地球型惑星である。
4、パラレルワールドの地球的惑星である。
5、洗脳、或いは催眠術に類する幻惑である。
以上、ぶっちゃけどれを取っても厄介事には違いない。
幼なじみに似た女の子はすーっすーっと息をして胸が上下しているので、最悪の状況ではないみたいだ。
寝ているだけか?
服は、着ている。うちの高校の制服だ。
そのブレザーに金髪は似合わないと思うが、いつからヤンキーになったんだ、そはら。